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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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二人きりの物見台 1




 カイネルードの宣言に一瞬、広間は水を打ったように静まり返った。

 ルティナは恥ずかしい思いをしながらも、カイネルードの説明では誰も納得しないだろうと考えていた。


「というのは、私の希望ではある。だがそれではお前たちは納得しないだろう。私がルティナのそばにいるのは監視のため。ルティナは、封魔の首飾りをつけている。魔力を封じる首飾りがある限り、魅了の魔法は使えない」


「……はい」


 同意を求められるように視線を送られたので、ルティナは頷いた。


「というわけで、私が婚約者になり、ゆくゆくは夫になることで、朝も夜もルティナの監視を行う。悪心を抱き、魅了魔法を悪用させないために」


 やはり、そうなのだ。

 ルティナは、カイネルードの隣で小さくなりながら俯いた。

 自分は誰かの脅威にならないと証明するためには、そうしてもらうしかない。


 冷酷ともとれるカイネルードの宣言により、貴族たちはようやく落ち着いた。

 囁くような小さな声で、「それなら仕方ない」「わが娘を第二妃にすればいいのだ」という声が聞こえてくる。


「さぁ、納得してくれたところで、私たちはさがろう。皆は父上に挨拶があるのだろう。本日の舞踏会を楽しんでいってくれ」

「──カイネルード、お前も共にいるべきだ。お前は皇帝になるのだから」

「隠居するにはまだ早いですよ、父上。私はルティと話があります」


 皇帝の言葉を途中で遮るようにしながら、カイネルードはルティナの手を引いて歩き出した。

 ルティナは慌てて、けれど優雅に皆の前でスカートをつまみ挨拶をすると、静かにカイネルードに従う。

 一刻も早く皆の視線から逃れたかった。

 カイネルードがこの場から連れ出してくれることは、ありがたかった。


 幼い頃よりもずいぶんと大きくなったカイネルードの手は、ルティナの手をすっぽりと包み込んでしまうほどだった。

 骨ばったごつごつした指に、分厚い手のひら。

 隣国でどのような訓練をしてきたのかは知らないが、ルティナがカイネルードを見て騎士と勘違いしたことも仕方ないと思えるぐらいに、その手のひらもまた騎士のように戦う者の手をしている。


 頭ひとつ分かそれ以上に上背のあるカイネルードに比べ、閉じこもりがちだったせいか発育のあまりよくないルティナは、まるで大人と子供だ。

 

 きっと、女としての魅力はないだろう。恋愛対象になどなり得ないだろう。

 それでも優しい言葉をかけて、ルティナの監視をするという役目を引き受けてくれたのだ。婚約者にしたい女性など、他にも山ほどいただろうに。


 ありがたくもあり、心苦しくもあった。


 ヴァレリーの強い加護を持って生まれてきてしまったばかりに、皆に迷惑をかけている。カイネルードに、迷惑をかけている。


 カイネルードと共に静かな回廊を歩きながら、ルティナはそんなことを考えていた。


「急な話で、すまなかった。驚いただろう」

「いえ。……婚約の打診に、急も、急ではないもありません。カイネルード様、私のほうこそご迷惑をかけてしまって」

「迷惑など何もかけられていない。このまま抜け出して、また冒険に行きたいな、ルティ」

「それは、できません」

「どうして?」

「今日は、その、大切な日ですから……」

「それもそうか。では後で、踊ろうか、二人で」

「私は、踊りなどはとても……」

「そうか? 俺は踊りたいな、ルティと」


 カイネルードはルティナを大広間を抜けて階段をあがった先にある、物見台へと連れていった。

 星が散りばめられたような夜空が広がり、涼しい風が髪を揺らす。

 人が少ない場所に来たことで、緊張していた肩の力が僅かに抜ける。


 人の多い場所は、やはり、苦手だ。


「ルティ。先ほどの話だが、俺は嘘はついていない」

「嘘ですか?」


 ルティナを物見台のベンチに座らせると、カイネルードはその隣に長い足を組んで座った。

 炎魔法を凝縮させた魔石で作られた可愛らしいランタンがそこここに飾られて、辺りをぼんやりと照らしている。


 サラデイン皇国の夜は、精霊の祝福の恩恵を受けている。

 炎魔石のランタンは安価で手に入るし、長持ちするために暗闇を照らすのが容易く、夜が長い。


「君に相応しい男になるために、どうすればいいのかずっと考えていた」


 カイネルードの声音は、真剣だった。

 ルティナは思わず、体をすくめた。

 強い感情がそこにあることを感じると、喜びよりも先に怯えがまさってしまうのだ。



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