魔眼覚醒
屋敷を飛び出した後、私たちは街外れの森を走っていた。とうさまたちが出かけた方角なので、運が良ければ合流できるかもしれない。
だが、にーさまの怪我の具合も心配だ。
「にーさま、けが、だいじょうぶですか?」
「大丈夫ですよ。吸血鬼は怪我の治りが早いですから」
笑顔で答えるにーさまだが、あれだけひどいことをされたのだ。やはり無理をしているように見える。
「いたぞ、逃がすな!」
「あーもう、しつこいですね!」
見つかっては逃げての繰り返しで、いくら吸血鬼でもにーさまも限界が近いはず。
それになんだろう。なにか胸騒ぎが……。
そう感じた刹那。眼の奥が熱くなり、頭の中に景色が浮かんできた。
血を流して倒れているにーさまと私。そのそばで静かに泣いているとうさまとかあさま。
それはこのあと起きる未来なのだと私にはわかった。そしてその未来を変える方法も。
「!? ノーラ、その眼、まさか魔眼が……?」
驚いた様子のにーさまにこくりと頷く。
「にーさま、わたしのいうとおりに、にげてください」
「え?」
「たぶんゆうどうされて、ます。だから、むりしてでも、とうさまたちがいるほうへにげるべき、です」
「父上たちがいる方向がわかるのですか?」
「はい。このめが、おしえてくれて、ます」
にーさまは私の言葉に少し悩んでいたが、すぐに力強くうなずいてくれた。
「では、追手は僕がなんとかします。ノーラは案内に集中してください」
「あいっ。まずはこのさきにふたり、てきいますからにーさまのまがんでおさえて、とっぱしてください」
「つぎ、きのうえにひとり、まちぶせいます」
「つぎ、さゆうからのはさみうちです」
つぎ、つぎとにーさまに指示を出していく。
私の言葉通りに追手が現れるため、にーさまがとても驚いていた。
「こんな正確にわかるとは、まるで未来が見えているようです」
「にーさま、にーさま」
「どうしました?」
「にーさま、そろそろはしるのげんかい」
「……ははっ、心まで読めてしまうとはとんでもない魔眼ですね。ですが、ここで足を止めるわけには……!」
「だいじょうぶです。まがん、もうひとつくれました。つかれ、とんじゃえっ」
魔眼がもう1つという言葉ににーさまが何か言っていたが言い終える前に私の身体から光があふれ、にーさまの身体を包んだ。
その光が収まると、にーさまは異変に気付いたようだ。
「痛みが……それに疲れがなくなっているだけでなくこれは……。 今のもノーラがやったのですか?」
ふふーんとにーさまに胸を張る。もう一つの魔眼がくれたのは回復系だったようだ。詳しい検証をしたいところですが、今はこの場を切り抜けねば。
「にーさま、とうさまたちのところまであとすこし、です!」
「近いのですか!?」
「はい、このみちのさきに……っ! にーさま、とまってください!」
「っ! 木が倒れて!」
にーさまの目の前に勢いよく木が倒れてきた。
あのまま走っていたらつぶされていただろう。
「ノーラ、ありがとうございます。助かりました」
「……いえ、じょうきょうはあっか、してます」
倒木による土煙で視界が防がれて何も見えないが、視線の先に誰かがいることは”視えて”いる。
「でてきたらどうです、まがんがりマジックアイズリーダー、ギルバート」
「俺たちの誘導といい正体といい、そんなとこまでわかるたぁ、とんでもねぇ魔眼が覚醒したもんだなぁ」
「赤髪の男……!」
「それになんだぁ? 回復の魔眼にも目覚めたってか? かかっ、一気に価値爆上がりだぜおい!」
「この、外道め……! ここであなたを倒します!」
「はっ、さっきボコボコにされたのは誰でしたかねぇ。もう一度言っとくがお前の魔眼は俺には通用しない」
「くっ」
そんなやりとりを聞いていた私は、にーさまに小声で話しかけた。
「にーさま、からだにへんかあります?」
「え? ちからがみなぎるかんじはする、かな?」
「ならにーさまはあのひとにかてます」
親指をぐっとして笑顔でにーさまに答える。
自信になってくれたのか、先ほどとは顔つきが変わった。
「いいつらになったじゃねぇかぼっちゃん。だが、魔眼無しでどこまで持つかなぁ!」
男の姿が消えたと思ったら、一瞬でにーさまの後ろに現れた。瞬間移動もしくは身体強化の魔石をいくつか持っているのだろう。
さきほどまでのにーさまなら対応できずにやられていたはずだ。しかし、今は――。
「っ!」
その動きに合わせるかのように剣を向け、男の動きを牽制した。
「なっ……!?」
「力がみなぎるだけでなく感覚がいつもより研ぎ澄まされている……。これなら、この人にだって……!」
さぁ、反撃開始だ――!




