襲撃
とうさまたちの警戒もあってか、その後は特に変わりなく平穏に過ぎていった。
そんなある日の夜。とうさまもかあさまも魔眼狩りの対応に追われており、屋敷にはにーさまと数名の使用人、警備兵が残っていた。
「にーさま、つぎはこのほんよんでほしいです」
「いいですよーといいたいところですけど、もう時間も遅いですし続きは明日ですね」
「むぅー」
「明日稽古終わったらちゃんと読んであげますから、ね?」
不満げにしていると、にーさまが私の頭を撫でながら仕方ないなぁという顔をした。
あまり困らせるわけにもいかないし我慢しよう。
「あい……」
「ふふ、いいこです。それではおやすみなさ――」
「きゃあああああ!」
「っ!?」
にーさまが私の部屋を出ていこうとしたその時、大きな悲鳴が屋敷内に響いた。
しばらくして部屋のドアが勢いよく開け放たれると、傷だらけで息も絶え絶えとなっている使用人が入ってきた。
「ノエル、様……ノーラ様を連れて、お逃げ、ください……!」
「何があったのですか!? それにひどい傷……すぐ手当てを!」
「魔眼狩り、です……! 内通者に、してやられました……かはっ」
「それ以上しゃべらないでっ。手当すればまだ大丈夫――」
「いけません、ノエル、さま……! 奴らがすぐそこに……一刻も早く、ユリウスさまたちのもとへ、がぁぁ!」
突然使用人の身体が燃え上がり、嫌な匂いが一帯に広がる。
にーさまは使用人が突き飛ばしてくれたおかげで無事だったようだ。
「案内ごくろーだったな、召使いさん」
声のしたほうを向くと、そこには赤髪の男とその部下らしき者たちが立っていた。
さっきまで人だった焼け焦げた塊が蹴り飛ばされ、私の目の前に転がってくる。
「あ……あ……」
「ノーラ、見てはいけません! あなたたち、ここをルワール家と知っての狼藉ですか!」
「もちろん。苦労したぜぇ、お前の両親をこの屋敷から離れさせるのはな」
「っ! 狙いは僕の魔眼ですか! では、父上たちに入った情報は!」
「そう、偽の情報だ。俺たちをまとめて捕まえられるって情報流したら、まんまと食いついてくれたよ。ま、信憑性を持たせるために多少の犠牲を払う羽目になったあたり、さすがはルワール家当主様ってとこだが」
とうさまたちのことだ。偽の情報ということにいち早く気づいてこちらに向かってくれているはず。問題はどうやってこの場を切り抜けるか……。
「そっちの嬢ちゃんは魔眼に覚醒してないようだが……売れば金にはなるだろ」
「やっ……!」
「僕の妹に、触れるなっ!」
「ぐぁっ!?」
「急に体が重く……!」
にーさまの眼が赤く輝くと同時に、襲撃者たちがその場に倒れていく。あれが、にーさまの魔眼……。
「重力を操る魔眼か。情報通りだな」
しかし、その中で一人、赤髪の男だけは平然としていた。
「っ!? なぜあなただけ魔眼が効かないのですか……!?」
「ちっとばかし勉強不足じゃないかねぇ、ぼっちゃん。対の属性や反対の力をぶつけることによる魔法の相殺、聞いたことはないかい?」
「それくらい、聞いたことはあります! しかし、そんなことができるのは、莫大なマナを持っている人か、同じ魔眼持ちか、あるいは……っ! まさか!」
「気づいたようだなぁ! そう、あんたと同じ力を持つ魔石をいくつか持っているんだよ。あとはぼっちゃんによる重力とは反対に作用させてやるだけってことだ。おらっ!」
「がはっ!」
「にーさま!」
「ノーラ、来ては、いけません……!」
「おーおー、美しい兄妹愛ってか? 虫唾が走る!」
「がっ! ぐぅっ!」
倒れているにーさまを男が何度も蹴りつけ、鈍い音が部屋中に響き続ける。
大好きな家族が目の前で傷つけられているのに、私は何もできないの――?
「やめてください! にーさまがしんじゃう!」
「そーだなぁ、目の前で兄貴を殺すのはちと可哀そうだしなぁ? 嬢ちゃんが大人しくついてくるっていうなら見逃してやってもいいかもなぁ?」
嘘だ。この男を信用してはいけないと本能が訴えている。考えろ考えろ考えろ。にーさまと一緒にこの場から逃げる方法を考えろ……!
「……わかった、から、まずはにーさまからはなれてください!」
「ちっ、仕方ねぇな。お姫様の仰せのままに」
「ノーラ、行ってはだめ、です……!」
「わたしならだいじょうぶ、です。にーさま」
にーさまに微笑んでチラリと天井を見上げると、その視線の意図ににーさまが気づいた。チャンスは1度きり……!
「ほれ、こんだけ離れれば十分だろ」
「ん、じゅうぶんです。おじさまおもったよりすなおですね」
「あぁ?」
「にーさま、いまです!」
「うん! つぶれてくださいっ!」
私の合図でにーさまが魔眼を発動させると、天井が勢いよく崩れ始めた。
重力魔法が効かないというなら別の物を利用するまでです。
「っ、このガキどもっ! てめぇら後ろに下がれぇ!」
「よし、今のうちに。ノーラ、しっかりつかまっててください!」
「あいっ!」
瓦礫の下敷きとはならなかったようだが、赤髪の男たちが動けるようになるまで少しはかかるだろう。
私を安心させるかのようにほほ笑むと、にーさまは窓から外へ飛び出した――




