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ドリア 後編

(おいおいおい、マジかよ……)

俺──冴えない独身中年男の隆一は、スナック『Shed』の薄暗い奥にある一番大きなボックス席の中央で、冷や汗を流しながら心の中で絶叫していた。

右手に、いつもはカフェで清楚に微笑んでいる玲奈ちゃん。

左手に、今どきの華やかな可愛さが炸裂している絵里ちゃん。

正面には、先ほどカウンターで刺すような視線を投げてきていた、見るからに隙のない超ハイスペック美女・美穂さん。

そして上座には、この場の支配者である百合ママが満足そうに煙草をくゆらせている。

どこを見渡しても絶世の美女。男なら人生で一度は夢見るシチュエーション──なのだが、いかんせん圧がすごすぎる。

「さて隆一さん。いつも通り、ロイヤルのボトルでいいわね?」

百合ママが手際よくウイスキー『サントリーロイヤル』のキノコ型キャップを開け、アイスペールと水を用意してくれる。

「あ、ああ……お願いするよ」

「女の子たちは何にする? 最初は生ビールでいいかしら?」

百合ママが尋ねると、玲奈ちゃんも絵里ちゃんも、そして美穂さんまでもが「生ビールで!」と声を揃えた。

(ほう……全員、実はいける口か)

運ばれてきたキンキンに冷えた生ビールジョッキを掲げ、百合ママの「それじゃ、大人の夜会に乾杯!」という掛け声で酒宴が始まった。

一口ゴクリとビールを飲んだ瞬間、美穂さんが「ぷはぁっ……!」と実に美味そうに息を吐き、すぐさま元の澄ました顔に戻った。

(……ギャップがすごいな。美穂さん、ギリギリ世間の常識の範囲内の年齢差か? いやいや、美人すぎて完全に高嶺の華だろ。もし玲奈ちゃんに出会っていなかったら、駄目元で命がけの攻勢をかけていたかもしれない。……でも今そんなことしたら、玲奈ちゃんとの関係が永遠に終わってしまう。絶対に事故るわけにはいかない……!)

俺は心の中のゲスな雑念を必死に打ち消し、ウイスキーの水割りを静かに煽ってクールな顔を保つ。

隣の絵里ちゃんを見る。相変わらず飛び抜けて可愛い。まるで画面から飛び出してきたアイドルのようだ。だが、年の差を考えると流石に手を出したら社会的にアウトだ。彼女はこうして眺めて癒される存在、いわば観賞用として愛でるのが男の正しい姿勢というものだろう。

そして──やっぱり本命は、隣で少し頬を赤くしている玲奈ちゃんだった。

「隆一さん、あの……」

玲奈ちゃんが、半分ほど減った自分の生ビールのジョッキを、少し恥ずかしそうに俺の前に差し出してきた。

「もしよかったら……たまには生ビール、一口どうですか?」

「えっ? 玲奈ちゃんの……?」

「はい! 昼間は……いつも瓶ビールばかりで申し訳なくて。実は昼のカフェ営業は、百合ママからお店を間借りしていて、生ビールのサーバー維持費や経費の折半が難しくて瓶だけにしているんです……。だから、隆一さんにはいつも生ビールを飲ませてあげられないのが、ずっと引け目になっていて……」

(なんて健気なんだ……! 尊すぎる……!)

胸がキュンと熱くなるのを隠しながら、俺は微笑んだ。

「そんなこと気にしてたのかい? 俺は玲奈ちゃんがお酌してくれる瓶ビールが、世界で一番好きなんだよ?」

「隆一さん……っ」

玲奈ちゃんがうっとりと瞳を潤ませる。

すかさず、ジョッキのフチに口をつけ、彼女の飲みかけの生ビールを一口いただいた。泡の向こうにほんのり甘い香りがして、ウイスキーで痺れた喉に心地よい。

「おいしいよ。ありがとう」

「……はいっ!」

「ちょっとー! 玲奈先輩ズルいー! 隆一さん、私の生ビールも一口飲んでくださいよー!」

絵里ちゃんがすかさず割り込み、自分のジョッキを突き出してくる。

「こら絵里、邪魔しないの。隆一さんが困ってるでしょう」と玲奈ちゃんが牽制し、二人の可愛らしいバチバチが始まった。

それを見ていた百合ママが、クスッと意地悪く笑う。

「あらあら、若い子は積極的でいいわねぇ。ねえ、美穂さん? あなたは指をくわえて見てるだけでいいの?」

「っ!? べ、別に私は、後輩たちが変な男に騙されていないか見極めに来ただけですから!」

美穂さんが一瞬素に戻って慌てたものの、すっと背筋を伸ばして俺を見てくる。

なぜか、さっきから美穂さんとはよく目が合う。プライドが高そうな彼女だが、俺を見る瞳の奥には微かな興味と戸惑いが透けて見えた。

(……美穂さん、意外とピュアなのかな。いや待て、調子に乗るな俺。相手はバリキャリだ)

「美穂さん、いつもみんなは何を飲んでいるの? ビールが無くなったから、みんなで飲めるものを頼みたいんだけど」

「普通は焼酎のお茶割りかな? みんなもそれで良いよね?」

「ママ、焼酎のボトルとお茶ちょうだい」

「あら、太っ腹。みんな、隆一さんのお奢りよ〜!」

「「わーい! 隆一さんごちそうさまです!」」

歓声をあげる玲奈ちゃんと絵里ちゃん。美穂さんも「……ごちそうさまです」と少し照れくさそうにお礼を言った。

緑茶割りやウーロンハイが次々と作られ、テーブルの上はすっかり賑やかな居酒屋状態に。

「隆一さん、お仕事は何されているんですか?」「休日は何して過ごすの?」「好きな女性のタイプは!?」と、絵里ちゃんと玲奈ちゃんからの質問攻めが始まる。

俺はウイスキーと焼酎の酔いに身を任せながら、大人の余裕(の仮面)を崩さないように、軽妙に彼女たちの質問をいなしていく。

美穂さんはウーロンハイをチビチビ飲みながら、俺の答え一つひとつに真剣に耳を傾けている。ふと目が合うと、ふいっと顔を背けてお酒を煽る。その仕草が、思いのほか可愛らしい。

(超美女たちに囲まれて酒が飲めるなんて、俺の人生のピークは今かもしれない……)

表面上は「ふふ、君たちは賑やかで楽しいね」なんて渋い声を出しつつ、脳内ではデレデレのガッツポーズを決める俺だった。

「隆一さん、次は私がお酒作りますね!」

「あ、絵里ちゃん、隆一さんの氷は私が足すから!」

「美穂先輩も、もっと隆一さんと話してくださいよ〜!」

スナックの深いボックス席で、女たちの甘い牽制と華やかな笑い声が交錯する。

秋の夜長、俺を巡る(?)怒涛の女子会は、まだまだ終わる気配を見せないのであった。

次の配信は通常に戻って土曜日8時チョット過ぎです

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