第8話:他校のエリート様の自爆劇 〜見えない神速のデコピンは、ただの『不幸な事故』として処理される〜
合同訓練のメインイベント、両校の生徒が入り乱れての「無差別模擬戦」が始まった。
グラウンドのあちこちで派手な魔法が飛び交う中、レイはグラウンドの端っこで、飛んでくる流れ弾を最小限の動きで避けながらぼーっとしていた。
「おいザック。さっきから聞いていれば、随分と奇妙な冗談を言うじゃないか」
そんなレイとザックの前に、一人の男子生徒が嫌味な笑みを浮かべて立ち塞がった。
獅子王学園の特待生であり、ザックと同じく【Aランク】の腕を持つエリート、ダグである。
ダグは見下すような視線をレイに向けた。
「その胸のバッジ……王立学園のFランクじゃないか。そんなゴミ屑が、うちのトップ陣であるお前の『親友』であり『ライバル』だって? 笑わせるなよ。獅子王学園の顔に泥を塗る気か?」
「なんだとダグ!? お前、レイの本当の恐ろしさを知らないからそんな口が叩けるんだぞ!」
ザックが顔を真っ赤にして食ってかかるが、レイは「まあまあ」と面倒くさそうにザックの腕を引いた。
「別にいいよ。俺、ただのFランクだし。じゃ、俺は隅っこで寝てるからお前らでやって——」
「逃がすかよ、ゴミ屑が!」
ダグが杖を振り上げ、凶悪なまでの熱量を持った【業火の槍】を顕現させた。Aランク特有の、まともに食らえばグラウンドにクレーターができるレベルの大魔法だ。
「この俺が、お前が如何に無能で惨めな存在か、その体に叩き込んでやる! 消し飛べ!!」
ダグが杖をレイに向かって振り下ろそうとした、その瞬間。
(うわー、あんなの防ぐのも避けるのも目立ってめんどくさいな。……よし、自滅ってことにしとくか)
レイは「ふぁあ」と大きなあくびをしながら、誰にも見えない速度——文字通りの『神速』で動いた。
コンマ0.001秒。光すら置き去りにする速度でダグの目の前まで移動したレイは、彼が構えていた杖の先端(魔力核)に向かって、軽く『デコピン』を放った。
パチンッ。
そして、周囲の時間が再び動き出す前に、何事もなかったかのように元の位置へと戻る。
――直後。
「死ねぇぇ!! ……って、え?」
ダグが魔法を放とうとした瞬間、杖の先端に凝縮されていた超高熱の魔力が、突如として制御を失い『逆流』した。
「なっ、ぐわあああああああッ!?」
ドガァァァァァンッ!!
凄まじい爆発音と共にダグの魔法が手元で暴発し、ダグ自身が黒焦げになって空の彼方へと吹っ飛んでいった。
「……あーあ。なんか魔力コントロールミスって自爆しちゃったみたいだな。危ない危ない」
レイは棒読みでそう呟きながら、落ちてきたダグの杖の破片を足で端に避けた。
それを見ていた両校のモブ生徒たちは、ポカンと口を開けた。
「お、おい! 今ダグの奴、自分の魔法暴発させて自爆しなかったか!?」
「ダッサ! Aランクのくせに魔力制御ミスるとか、どんだけ力んでたんだよ!」
完全に『ダグの自爆事故』として処理されるグラウンド。
だが、レイのすぐ横にいたザックだけは、興奮で顔を紅潮させていた。
「す、すげええええ!! お前、今ダグが魔法を放つ直前に『気迫』だけでプレッシャーをかけて、あいつの魔力制御を狂わせたんだな!? 相変わらず一歩も動かずに敵を倒すなんて、流石は俺のライバルだぜ!!」
(※彼は昔からこんな感じで都合よく解釈している)
「あー、うん。まあ、そんな感じ」
レイは適当に相槌を打ちながら、これで平穏が保たれたと安堵していた。
――しかし。
はるか後方の朝礼台の上。ただ一人、彼女の【魔眼】だけは、その真実を寸分違わず捉え切っていた。
Sランク生徒会長、アリシア・フォン・カルディアである。
(い、いまの……。レイ君、あくびの途中にコンマ0.001秒で距離を詰め、杖の魔力核の『臨界点』だけを正確にデコピンで粉砕して元の位置に戻ったの!?)
アリシアは全身の震えが止まらず、持っていたバインダーを落としそうになった。
(時間すら支配する神速の体術……。しかも、それを周囲には『自爆事故』と錯覚させる完璧な偽装工作。やっぱり彼は、闇の世界を束ねる帝王……ッ! あの他校のエリートすら、彼にとっては路傍の石ころ以下の存在にすぎないのね!)
「レイ君……貴方の深淵、私が必ず覗き込んでみせるわ……!」
ザックの無邪気な崇拝と、アリシアの限界突破した勘違い。
二つの巨大な矢印を向けられながら、最強のFランク少年は「今日の昼飯、唐揚げ弁当残ってるかな」と呑気に空を見上げていた。




