第7話:自称親友(トラブルメーカー)の襲来 〜他校のAランクエリートがFランクを大声で褒めちぎるせいで、平穏が崩壊する〜
王立魔法学園の広大なグラウンドに、いつになく物々しい空気が漂っていた。
今日は隣街の武闘派エリート校『獅子王魔法学園』との合同訓練の日である。
他校の猛者たちがずらりと並び、両校の生徒たちが牽制の視線を飛ばし合う中。レイは最後列でいつも通り大きなあくびを噛み殺していた。
(合同訓練とかマジでだるい……。適当にモブに徹して、終わったら食堂直行だな)
しかし、レイのそのささやかな願いは、グラウンドに響き渡ったクソデカ大音声によって無惨にも打ち砕かれた。
「おぉぉぉぉい!! 俺の生涯のライバルにして、最高の親友!! レイじゃねえか!!」
地響きのような大声と共に、他校の制服を着た大柄な少年が猛ダッシュで突っ込んできた。
彼の名前はザック。幼い頃、森で魔物に襲われかけていたところをレイに(面倒くさそうに)ワンパンで助けられて以来、勝手に「心の友」を名乗っている暑苦しい男だ。
ザックの顔を見た瞬間、王立学園の生徒たちの間にざわめきが走った。
「お、おい嘘だろ……あいつ、獅子王学園のトップ陣の一人、『紅蓮のザック』じゃないか!?」
「ああ! 魔法を肉体強化に全振りしてる超武闘派の【Aランク】特待生だぞ!」
他校のトップエリートの突然の乱入。しかし、そのAランク様は、あろうことか学園最底辺の少年の肩をバンバンと叩いて笑っていた。
「こんなところで会えるとはな! 今日はお前の『真の力』を、うちの連中にも見せつけてやれよな!!」
グラウンドの空気が一瞬で凍りついた。
「は……? なんで他校のAランクエリートが、うちのFランクにペコペコしてんだよ!?」
「あいつ、魔力測定でマイナス出した万年Fランクの落ちこぼれだぞ……!?」
周囲の驚愕と冷ややかな視線を浴びながら、レイは死んだ魚のような目でザックを見た。
(やめろ……俺の平穏をこれ以上ぶち壊すな……)
「いや、俺は別にいいから。お前一人で目立ってこいよ」
「またまた謙遜しやがって! 俺は知ってるぞ、お前がその気になれば、このグラウンドごとぶっ飛ばせるくらいすげえってことをな!!」
(※ザックは昔のワンパンを目撃しているため「同世代よりちょっと凄腕の天才」程度に思っているのだが、声がデカすぎるせいで言葉のスケールがバグっている)
「あー、わかったわかった。後で付き合うから、今は静かにしろ」
レイはため息をつきながら、ザックの口を物理的に塞ごうとした。
――しかし、その光景を遠くの朝礼台の上から【魔眼】でガン見している人物がいた。
我らがSランク生徒会長、アリシア・フォン・カルディアである。
彼女の手には、すっかり分厚くなった『レイ君観察ノート』が握りしめられていた。
(なっ……! あの他校のAランク生徒、レイ君の肩に気安く触れたわね!? しかもレイ君が完全に気を許している……!?)
アリシアの脳内で、とんでもない推論がスパークし始める。
(『グラウンドごとぶっ飛ばせる』……まさか、あれは王都襲撃の暗号!? あの大柄な男、獅子王学園のトップエリートを装っているけれど、その正体はレイ君がかつて所属していた『裏の組織』の幹部クラス……ッ!)
(他校のAランク特待生すら、レイ君の組織ではただの末端の鉄砲玉にすぎないというの……!? レイ君は一体どれほど巨大な闇のネットワークを構築しているのよ……ッ!)
「でも、レイ君は『後で付き合う』と彼を制止した。学園に被害を出さないよう、彼なりに組織の暴走を食い止めようとしているんだわ……! なんて気高い精神なの……!」
アリシアは勝手に瞳を潤ませ、ノートの新しいページに『裏組織の幹部(表の顔:Aランク)・要警戒』と力強く書き込んだ。
「さぁ、合同訓練の開始だ!! まずは無差別模擬戦から行う!!」
教師の合図と共に、訓練の火蓋が切って落とされる。
「よしレイ! 俺とお前のタッグで、この訓練のトップをもらうぜ!!」
「……帰りたい」
最悪のトラブルメーカー(ザック)と、最高に厄介なストーカー(アリシア)に挟まれ、最強のFランク少年の胃痛は今日も限界を迎えようとしていた。




