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最強の力を隠したいのに、Sランク生徒会長(ストーカー気質)のせいでちっとも平穏じゃない!  作者: 鷲尾秋水


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第6話:Sランク会長の真の実力 〜氷の女帝は圧倒的だが、死角の脅威はFランクが石ころで(こっそり)粉砕する〜

学園の裏山に位置する『修練の森』。

今日は下級生と上級生合同の、魔物討伐実習が行われていた。

安全なはずの浅層エリアで、突如として悲鳴が上がった。


「な、なんだよコイツら! 浅層に出るレベルじゃないぞ!?」


「だめだ、結界も破られた! 逃げろぉッ!」


生徒たちの前に現れたのは、Bランク指定の狂暴な魔獣・ブラッドウルフの群れだった。

本来なら学園の教師陣が対処するはずだが、不運にも群れの数が多すぎ、防衛線が崩れかけていた。

恐怖で腰を抜かす生徒たち。その中に混じり、レイは木の陰で面倒くさそうに頭を掻いていた。


(うわー、めんどくさ……。適当に気絶させてやり過ごそうかな)


レイが指先で軽く空間を弾こうとした、その時。



「――そこまでよ。下がりなさい」



凛とした、しかし絶対的な零度を伴う声が森に響き渡った。

生徒たちの前に降り立ったのは、白銀の髪をなびかせる生徒会長、アリシア・フォン・カルディア。


「か、会長……!」


「助かった……!」


アリシアはストーカーモードの時とは打って変わって、冷徹なまでのカリスマ性を放っていた。彼女の青い瞳が、群がる数十匹のブラッドウルフを無感情に見据える。


「群れをなせば、学園を蹂躙できるとでも思ったのかしら」


彼女が優雅に右手を掲げた瞬間、大気中の水分が瞬時に凍結し、無数の氷の刃が空中に現出した。

それは詠唱すら必要としない、極限まで練り上げられたSランクの『絶対氷結魔法』。

「【氷葬(ひょうそう)】」

アリシアが指を振り下ろすと同時、無数の氷刃が嵐のように群れへと降り注いだ。

回避する間も、悲鳴を上げる間もなく、数十匹の狂暴な魔獣たちは一瞬にして美しい氷の彫像へと変わり果て、そのまま粉々に砕け散った。


「す、すげぇ……!」


「一瞬でブラッドウルフの群れを……これが学園最強、Sランクの力……!」


周囲の生徒たちが歓声を上げ、教師たちも安堵の息を漏らす。

普段のポンコツぶりを知らない生徒たちから見れば、今のアリシアはまさに『美しき氷の女帝』、非の打ち所のない完璧な強者だった。

しかし、アリシアの【魔眼】だけは、戦いが終わっていないことを見抜いていた。


(……まだよ。群れを統率していた『リーダー』がいない)


その直後。

アリシアの頭上の空間が歪み、透明化のスキルで身を隠していたAランクの特異個体『シャドウパンサー』が、音もなく彼女の死角から急降下してきた。

鋭い凶爪が、アリシアの華奢な首筋に迫る。


(しまっ……上空からの奇襲!? 防壁の展開が間に合わない……!)


彼女ほどの天才であっても、魔法を放った直後のコンマ数秒の隙はどうしようもなかった。

死を覚悟したアリシアの視界の端に、木の陰に立っていた『彼』の姿が映った。

Fランクのレイ。

彼は足元に転がっていた手頃な小石を、「あー、靴に石入った」とでも言うような気だるい動作で、ポンッと軽く蹴り上げた。


――パシュッ!!


その小石は、光すら置き去りにする神話級の速度で射出され、アリシアの頭上に迫っていた特異個体シャドウパンサーの眉間を正確に貫いた。

凄まじい運動エネルギーを受けた魔獣の巨体は、血の一滴すら残さず、空中で文字通り「霧散」した。


「……え?」


何も知らない生徒たちの目には、「襲いかかろうとした見えない魔獣が、アリシアの残存していた氷魔法のオーラで勝手に消し飛んだ」ようにしか見えなかった。


「す、すげええええ!! 死角からの奇襲まで、オーラだけで消滅させたぞ!!」


「やっぱり会長は無敵だあああ!!」


歓喜に沸く生徒たち。

だが、その中心に立つアリシアだけは、全身から滝のような冷や汗を流して震えていた。


(い、いまの……ただの小石の蹴り上げ……!? 魔法でも何でもない、ただの物理的な小石で、Aランクの特異個体を空間ごと粉砕したっていうの!?)


アリシアは恐る恐る、木の陰を振り返る。

そこには、欠伸をしながら

「あー、はらへった。食堂あいてるかな」

と呟くレイの姿があった。


(彼は私の死角を補い、命を救ってくれた。それだけでなく、私の面子(メンツ)を保つために、あくまで『私の手柄』に見えるよう、音も光も出ない小石という極限の暗殺術で援護したのね……!)


完璧なSランク生徒会長としてのカリスマを見せつけた直後。

彼女の心の中は、再びレイに対する限界突破の勘違いとリスペクトで爆発していた。


(レイ君……貴方は一体、どこまで私を……ッ!!)


アリシアのストーカー熱(と忠誠心)に、また一つ、消えることのない業火が注がれた瞬間だった。

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