第4話:休日のストーカー活動 〜ただの買い食いを極秘任務と勘違いしないでください〜
休日の午前中。
王都の一角にある大通りで、レイはのんびりと歩いていた。
「ふー、やっと休日だ……。今週はあのポンコツ会長のせいでやけに疲れたな」
レイの目的は至ってシンプル。街の露店で売っている、期間限定の絶品肉巻きおにぎりを買って食べること。それだけだ。
地味なパーカーにスウェットという、どこからどう見ても冴えないFランク生徒の休日スタイル。周囲の通行人たちも、彼に目を留める者は誰もいない。
——ただし、一人の例外を除いては。
数メートル後ろの路地裏。
ゴミ箱の陰から、全身を怪しい黒ずくめのローブ(なぜか周囲からめちゃくちゃ浮いている)で包み、顔にはサングラスをかけた美少女が息を潜めていた。
Sランク生徒会長、アリシアである。
(ふふ……見つけたわよ、レイ君。休日を狙って単独行動に出るなんて、何か裏の任務(アンダーグラウンドな活動)があるに違いないわ……!)
アリシアは心の中でニヤリと笑い、懐から『レイ君観察ノート(4冊目)』を取り出した。
彼女の【魔眼】には、レイから発せられる微小な魔力の揺らぎがしっかりと捉えられている(※実際はただの歩行による微風レベルの魔力漏れだが、彼女には最高峰の「気配隠蔽・超高度カモフラージュ」に見えている)。
(今の歩幅、地面にかかる加重のバランス、完全に戦闘に特化した歩行術だわ。一体どこへいくつもり? 私がすべて暴いてみせる……!)
ストーカーの自覚ゼロで追尾を続けるアリシア。
しかし、当のレイは数歩歩いた先で、お目当ての露店を見つけて足を止めた。
「おっ、やってるやってる。すいません、肉巻きおにぎり一個ください」
「あいよ! 特製ダレが絡んで旨いぜ、にいちゃん!」
ごくごく普通の、どこにでもある屋台の親父とのやり取り。
レイは受け取った熱々のおにぎりを「ふーふー」と息を吹きかけながら、大きな口でガブリとかぶりついた。
「ん〜、うまっ。やっぱこれこれ」
至福の表情でモグモグと咀嚼するレイ。
しかし、その光景を少し離れた物陰から見つめていたアリシアの脳内では、全く別の壮絶なドラマが展開されていた。
(なっ……!? いまの屋台の親父……只者じゃないわね。首筋に見えた古傷、そしてあの絶妙なタイミングでの受け渡し……! あれは王都の裏社会に通じる闇の暗号だわ!!)
(そしてレイ君は、その暗号を受け入れた上で、極上の特製ダレが絡んだ『肉巻きおにぎり』という名の暗号食を摂取した……! まさか、次のテロ計画の合図……!? いや、違う! あの美味そうに頬張る余裕、彼はテロリストすらも手玉に取る『世界の裏の支配者』の隠れ蓑として……!)
——ただ肉巻きおにぎりを食っているだけの少年の背中に、アリシアは勝手に世界を救う(あるいは裏切る)ダークヒーローの幻影を重ね合わせ、冷汗を流していた。
「……ん? なんか変な視線感じるな」
レイがふと振り返った瞬間、アリシアは慌てて電柱の陰に隠れた。
(あぶなっ……! 今の鋭い殺気は何!? 私の気配探知を一瞬で振り切るなんて、流石すぎるわ……!)
「気のせいか。……まあいいや、もう一個買って帰るか」
呑気に残りの道を進むレイと、「絶対にこの男の尻尾を掴んでみせるわ……!」と使命感に燃えるストーカー会長。
周囲の人間が誰もレイの異常さに気づいていない中、今日も今日とて、アリシアの勝手な勘違い暴走劇は止まらなかった。




