第3話:ストーカーの視線の先〜ウインナーが空中を舞う〜
「……ターゲット確認。現在、中庭のベンチで昼食中」
学園の中庭。青々と茂る植え込みの陰から、銀髪の美少女が双眼鏡(魔力強化レンズ付き)を構えていた。
Sランク生徒会長、アリシア・フォン・カルディアである。
彼女の視線の先には、購買の安いパンをモソモソと食べているFランク生徒、レイの姿があった。
「一見するとただパンを食べているだけ……。でも、私の【魔眼】は誤魔化せないわ。あのパンを千切る指先の動き、まったく無駄がない。それにあの咀嚼の一定のリズム……まさか、食事をしながら極限レベルの魔力循環トレーニングを!?」
アリシアは手元の『レイ君観察ノート(3冊目)』に猛烈な勢いでメモを書き込んでいく。ワイバーン襲撃事件から数日、彼女は完全にレイの「隠された力」の虜になり、暇さえあればこうして彼を尾行していた。
一方、観察されているレイ本人はというと——。
(……なんであいつ、わざわざ植え込みに隠れて俺を見てるんだ? 葉っぱ頭に乗っかってるし)
レイはため息をつきたくなるのを必死にこらえていた。
魔力循環トレーニングなどしていない。ただ単に、パンがパサパサして飲み込みにくいだけである。
(あの事件以来、ずっとこれだ。俺はただ、平穏な学園生活を送りたいだけなのに……)
面倒事を避けるため、レイは徹底的に「無能なFランク」を演じ続けると決めていた。
そんなレイの手元から、ふと、パンに挟まっていたウインナーが滑り落ちた。
「あっ」
無意識だった。
本当に、ほんのわずかな無意識。地面に落ちる前にキャッチしようと手を伸ばした瞬間、レイの指先から極小の『重力操作』の魔法が漏れ出た。
ピタッ。
ウインナーは地面の数ミリ上で、完全に空中に静止した。
「……あ、やっべ」
レイは慌ててウインナーを掴み取り、何事もなかったかのように口に放り込む。
しかし、植え込みの陰ではアリシアがワナワナと震えていた。
「い、今……ウインナーが浮いたわよね!? 無詠唱、かつ一切の魔力光を伴わない完全な『重力操作』!? ウインナーを落とさないためだけに、神話級の魔法技術を……!!」
「……」
(丸聞こえなんだよなぁ……)
レイは天を仰いだ。
彼のささやかな平穏は、ストーカー気質のポンコツ生徒会長によって、早くも崩壊の危機に瀕していた。




