第2話:Sランク生徒会長との遭遇〜そして始まる終わらない勘違い〜
銀髪を揺らし、息を切らして屋上へと駆け込んだ生徒会長のアリシアは、その光景に言葉を失った。
「嘘……魔族も、ワイバーンの群れも、すべて消滅している……?」
彼女は学園唯一の『Sランク』であり、微細な魔力の流れすら視認できる【魔眼】の持ち主だった。迎撃のために急いで駆けつけた彼女の目に映ったのは、戦闘の痕跡すらない、不自然なほどに澄み切った青空。
だが、アリシアの魔眼は確かに捉えていた。屋上の空間そのものが、何か途方もない質量によって「削り取られた」ような、おぞましい魔力の残滓を。
(こんな次元の魔法、学園長はおろか、宮廷魔術師団の総長ですら不可能よ。一体誰が……!)
混乱する思考を抱えたまま階段を降りようとした彼女は、のんびりと踊り場を歩いてくる少年に出くわした。
「あれ? 生徒会長じゃん。こんなところでどうしたの?」
口元に焼きそばパンのソースをつけたFランク生徒、レイ。
「レイ君……あなたこそ、こんな非常時に何を……。まさか、ずっとこの近くにいたの!?」
「いや、昼寝しようと思ったんだけど、なんか外が騒がしいから学食に避難してたんだ。限定の焼きそばパン、奇跡的に残っててさ」
へらへらと笑うレイ。いつもなら「呑気なFランク生徒ね」で済ませていただろう。
しかし、アリシアの背筋に冷たいものが走った。
先ほどまで上空には数千の魔物がひしめき、絶望的な殺気が学園を包んでいたのだ。それなのに、目の前の少年からは『恐怖』はおろか、わずかな『動揺』すら感じられない。
さらに、アリシアの魔眼が、彼の指先から微かに漂う【屋上の空間を削り取ったものと全く同じ、神話級の魔力の残り香】を捉えたような気がした。
(気のせい……? ううん、魔力ゼロの彼からそんなものを感じるなんてあり得ない。でも、この異様なほどの落ち着きは一体……)
「それじゃ、俺は教室に戻るね」
すれ違いざま、レイがふと見せた横顔。それは、普段の冴えない彼からは想像もつかないほど、底知れず、冷酷なまでに完成された強者の瞳だった。
「……レイ君」
彼の背中を見送るアリシアの胸に、かつてない疑念と、抑えきれない好奇心が芽生え始めていた。




