第24話:西方の白き戦士生還〜ダイソンを超えるFランクの寝息〜
SSランク幹部・モルゴス襲来から数日後。
放課後の生徒会室は、いつもの静寂と平穏を取り戻していた。
「……すぅ……すぅ……」
部屋の奥では、装飾のない『灰色のネクタイ』を緩めたFランクのレイが、Sランク魔獣フェンの毛皮に顔を埋めて爆睡している。
その時、重厚な扉が開かれた。
現れたのは、金糸の刺繍が入った『白のネクタイ(Sランク)』を締めた武闘派の青年。西方での任務を終え、帰還したヴィンセントである。
「ヴィンセント! よく無事で戻ってきましたね」
深紅のネクタイを締めたクラウスたちAランク陣が敬礼し、アリシアが優雅に微笑む。
「ああ、ただいま。先日のSSランク幹部襲撃の件は報告で聞いたぜ。……そいつが、噂の『規格外』か」
ヴィンセントの視線が、ソファで眠るレイに向けられた。通信越しに自分の膝を折らせた、理外のバケモノ。
「お前ら全員の致命傷を、無詠唱の広域ヒールで一瞬で完治させたらしいな。……マジでとんでもねえ奴だ」
ヴィンセントは頼もしい笑みを浮かべ、レイに歩み寄った。過剰な崇拝ではなく、対等の強者へのリスペクトを込めて、彼は眠るレイの前に立つ。
「おい、レイ。起きろよ」
「んー……?」
レイが目をこすりながら身を起こす。ヴィンセントはスッと右手の拳を差し出した。
「俺はヴィンセントだ。……教団の残党狩りや外の面倒事は俺が全部引き受けてやる。だからお前は、この学園でゆっくり寝ててくれ」
レイは少し驚いた後、パァッと顔を輝かせた。面倒なことを全部巻き取ってくれる最高に話が早いヤツが現れたのだ。
「お、話が早くて助かるわ。よろしく、ヴィンセント」
レイが拳をコツンと合わせた、まさにその瞬間だった。
——ヴィンセントの『Sランク武闘派の勘(魔力感知)』が、最大級の警鐘を鳴らした。
(……な、なんだ!?)
ヴィンセントは、レイの『呼吸』に合わせて、空間の魔力が異常な動きをしていることに気づいたのだ。
「……すぅぅぅぅ……」
レイが息を吸う。
その瞬間、生徒会室はおろか、学園中の地下霊脈から『超高純度の星の魔力』が、ブラックホールのような吸引力でレイの体内へとズボボボボッ! と吸い込まれていくのを感じ取った。
「……ふぅぅぅぅ……」
レイが息を吐く。
すると、吸い込まれた魔力が、なぜか綺麗に『濾過』された安全な魔力として少しだけ外に放出される。
(おいおいおいおい!? 待て待て待て!?)
ヴィンセントは冷や汗を流しながら、内心で激しくツッコミを入れた。
(教団の連中、「星の魔力が枯渇し始めている」って焦ってたよな!? 俺もてっきり教団の『呪いの儀式』のせいだと思ってたけど……これ、単純にコイツが『寝息』で世界の魔力吸い尽くしてるだけじゃねえか!?!?)
教団の陰謀でもなんでもない。ただのFランクの昼寝が、世界を魔力枯渇の危機に陥れていたのだ。
しかし、ヴィンセントの横では、アリシアたちが両手を組み、うっとりとした表情を浮かべていた。
「ああ……感じますか、ヴィンセント。レイ様が呼吸をされるたび、空間の淀みが浄化されていくのを……。王はご自身の睡眠を通して、我々を教団の毒からお守りくださっているのです……!」
(違う!! コイツただダイソンみたいに魔力食ってるだけだ!! 教団の儀式よりタチが悪いわ!!)
ヴィンセントは真実を叫びたかったが、喉の奥でグッと飲み込んだ。
もしここで「コイツが魔力枯渇の元凶だぞ!」などと言えば、狂信者のアリシアたちに消されるか、最悪の場合レイ本人の機嫌を損ねて世界が終わるかもしれない。
「……あ、ああ。そうだな。すげえ浄化だ」
ヴィンセントは引きつった笑みを浮かべながら、そっと胃の辺りを押さえた。
「ん? どっか痛いのか?」
「……いや。ちょっと、胃が痛えだけだ。気にすんな、レイ」
こうして、ヴィンセントは「レイの安眠を守る最強の前衛」というカッコいいポジションを手に入れたと同時に、「世界の魔力枯渇の真犯人を知る、唯一の苦労人」という過酷な運命を背負うことになったのであった。




