第21話 : 西方の白き戦士 〜教団の野望を嘲笑う、Sランクの武闘派〜
西方大陸、荒涼とした岩山に囲まれた【深淵の教団】の隠し拠点。
そこは今、一人の青年によって文字通り壊滅状態に陥っていた。
「が、はっ……! ば、馬鹿な……我ら教団の精鋭部隊が、たった一人に……ッ!」
「……チッ、口ほどにもねえな」
倒れ伏す数十人の教団兵を見下ろし、青年は血振るいをした。
金糸の刺繍が入った純白のネクタイを緩めながら息を吐く。王立魔法学園に2名しか存在しないSランク生徒の一角、武闘派のヴィンセントだ。
「貴様ぁぁぁッ! 学園の犬め!!」
拠点の奥から、禍々しいオーラを纏った教団の幹部が姿を現した。その魔力はAランクのトップ層を凌駕し、Sランクにすら手が届こうかというほどの威圧感を放っている。
幹部は血走った目でヴィンセントを睨みつけた。
「ここで我々の拠点を潰した程度で、勝ったつもりか! 我々の真の目的は、王立学園の地下霊脈! すでに学園内には工作員が潜入し、数年がかりの『汚染の要石』を設置した頃合いだ!」
幹部の言葉に、ヴィンセントはピタッと動きを止めた。
「フハハハ! 絶望したか! Sランクの貴様が西の果てで油を売っている間に、学園は呪いに沈む! 残るSランクは生徒会長のアリシア・フォン・ローズただ一人! 彼女一人で教団の総攻撃と呪いを防ぎきれるはずが——」
「……ぷっ、くくく……っ!」
「な、何がおかしい!!」
ヴィンセントは顔を覆い、肩を震わせて笑い始めた。
それは絶望でも虚勢でもなく、腹の底からの純粋な『同情』の笑いだった。
「いや、悪い。お前らが本気で『学園を落とせる』と信じてるのが可哀想になってな」
「なに……?」
ヴィンセントの脳裏に、数日前の通信越しに見た光景が蘇る。
Sランクのアリシアや、深紅のネクタイを締めたAランクのクラウスたちが傅く部屋の中心で、最高級のSランク魔獣を枕にして寝ていた、あの『灰色のネクタイ』の少年。
通信機越しに放たれた、ただの寝言。
それだけで、歴戦のSランクである自分の膝を折らせた、理外のバケモノ。
「お前ら、致命的に情報が遅れてるぜ。……あそこにはな、アリシアや俺なんか目じゃねえ、正真正銘の『怪物』がいるんだよ」
「怪物だと……? 戯言を! 学園の戦力は把握している!」
「はっ、だろうな。わざわざ、底辺の『Fランク』のフリをしてるからな」
ヴィンセントは剣を構え直した。その瞳には、強き戦士に対する確かなリスペクトが宿っていた。
「……俺は学園に帰ったら、あいつに提案しようって勝手に決めてんだ。教団の残党狩りや、外での面倒な戦闘は全部俺が引き受ける。その代わり、学園の守り(昼寝)はあいつに任せる、ってな」
通信越しに見た限り、あの怪物はとんでもない怠け者だった。だからこそ、自分のような「動ける前衛」がいれば絶対に悪い話ではないはずだ。
ヴィンセントはニッと好戦的な笑みを浮かべる。
「あいつの睡眠を邪魔するようなハエどもは、俺が帰るまでここで全部叩き落としてやるよ。……それまでは、学園を頼んだぜ、レイ」
「舐めるなァァァッ!!」
激高した幹部が特大の闇魔法を放つ。
しかし、ヴィンセントは一歩も引かず、白のネクタイをなびかせながらSランクの武力でそれを真っ向から両断した。
——ズガァァァァァァンッッ!!!
「が、あぁぁぁっ……!」
一撃。ただの一撃で幹部の魔力障壁ごと物理的に粉砕し、ヴィンセントは敵の拠点を完全に沈黙させた。
「ふぅ……これで西の拠点はあらかた潰したか」
ヴィンセントは空を仰ぐ。遠く離れた学園の空に繋がる青空を見つめながら、彼はふと笑みをこぼした。
「今頃、あいつはまた魔獣を枕にして寝てんだろうな。……工作員が潜入したって言ってたが、どうせあいつの寝返りの余波か何かで、勝手に自滅してんだろ」
ヴィンセントの予測は、恐ろしいほど正確に的中していた。
(※ちょうどこの頃、学園の中庭ではレイが『呪いの要石』を枕にして無自覚に浄化していた)
「さて、もう少し片付けたら、帰還するか。あの馬鹿げた強さのFランクの顔を、直に拝んで、きっちり盟約を結んでやらねえとな」
Sランクの武闘派戦士は、未だ見ぬ『頼れる相棒』との再会を心待ちにしながら、次なる戦場へと歩みを進めるのであった。




