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最強の力を隠したいのに、Sランク生徒会長(ストーカー気質)のせいでちっとも平穏じゃない!  作者: 鷲尾秋水


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第20話:彼方からの通信 〜激戦区のSランク役員、Fランクの寝言(威圧)を通信越しに喰らって絶望する〜

王立魔法学園、生徒会室。

その日の放課後も、室内は平和かつ『異様』な空気に包まれていた。


「……すぅ……すぅ……」


レイはSランク魔獣・フェン(現在超絶モフモフ犬モード)のふかふかなお腹を枕にし、スヤスヤと極上の昼寝を満喫している。

その周囲では、Sランクの生徒会長アリシアがレイに風を送るため極細の氷結魔法を操り、Aランクのクラウスとセリアが足音一つ立てずに書類仕事と茶の準備をこなしていた。

王の安眠を守るため、生徒会室は静寂に包まれている。


——ピピピピピ……!!


突如、部屋の隅に置かれた大型の『通信用魔水晶』が、けたたましい電子音(魔力音)を鳴らして発光した。


「ッ! 誰だ、この時間に通信など……!」


クラウスが慌てて音量を最小に絞り、魔水晶を起動する。

空中に投影された映像には、血と泥に塗れ、周囲に多数のローブ姿の死体を転がした一人の青年の姿が映し出された。


『あー、あー。聞こえるかアリシア。俺だ、ヴィンセントだ』


不在のSランク生徒会役員(武闘派)、ヴィンセント。

彼は西方大陸での【深淵の教団】の調査と掃討任務の真っ最中であり、これは数週間ぶりの定時連絡だった。


「ヴィンセント……! 無事だったのね」


アリシアがホッと胸を撫で下ろしつつ、レイを起こさないよう「超小声」で画面に向かって囁く。


『ああ。今、教団の拠点を一つ潰したところだ。奴ら、間違いなく学園の地下霊脈を狙ってやがる。近いうちにデカい襲撃があるかもしれねぇ、警戒を——って、おい』


画面の向こうのヴィンセントが、怪訝な顔で眉をひそめた。


『お前ら、なんでそんなに小声なんだよ? しかも、後ろにデカい犬が……って、おい嘘だろ!? その銀毛と冷気……災害級の魔獣【フェンリル】じゃねえか!! なんで生徒会室にそんなバケモノがいんだよ!!』


「しっ! 声が大きいわヴィンセント! フェンは今、レイ様の『枕』として極限までクッション性を高める任務中よ!」


『はあ!? ま、枕ぁ!?』


ヴィンセントは耳を疑った。自分と同格のSランク魔獣が、ただの枕として丸くなっている。

そして、そのフェンリルの上に頭を乗せて爆睡している、見慣れない男子生徒(レイ)。


『おいアリシア、そいつ誰だ!? 制服のネクタイの色からして底辺のFランクじゃねえか! なんでそんなゴミがお前らの部屋で寝てんだよ!!』


ヴィンセントは、誇り高き生徒会室がFランクの落ちこぼれに汚されていると勘違いし、怒りで通信機に向かって怒鳴りつけた。


『おいコラそこのFランク!! さっさと起きやがれ! その神聖な部屋から今すぐ叩き出——』


「……んー……」

ヴィンセントの怒声が魔水晶から響いた瞬間。

フェンのお腹で寝ていたレイが、不快そうに眉をひそめ、寝返りを打ちながらポツリと呟いた。


「——うるさい。静かにしろ……」


ただの、寝起きの不機嫌な寝言。

しかし、その声に込められた無自覚かつ極小の【威圧感(プレッシャー)】は、通信用の魔力波に乗って、数千キロ離れた西方大陸のヴィンセントの元へと『逆流』した。


——ズゴォォォォォォンッッ!!!

『……ッ!?!?』


画面の向こう側。ヴィンセントの視界がぐにゃりと歪んだ。

全身の骨が軋み、心臓が鷲掴みにされたかのような絶対的な恐怖。SSSランクはおろか、かつて対峙したどんな巨大魔獣ですら比較にならない『理外の化け物の覇気』。


「が、はっ……!? な、なんだ……このプレッシャーは……ッ!?」


映像の中で、学園最強の一角であるSランクのヴィンセントが、白目を剥きながら膝から崩れ落ちた。通信機を持っていることすらできず、地面に突っ伏してガタガタと震え始める。


「ば、馬鹿な……。通信機越しに威圧を飛ばすなんて、物理的に不可能だ……! そもそも、こんなバケモノみたいな魔力……!!」


『だから言ったでしょう、ヴィンセント』


画面越しに、アリシアが冷酷かつ誇らしげな笑みを浮かべて見下ろしてくる。


『貴方は運が良かったわ。ここが通信越しでなければ、今の一言で貴方は概念ごと消し飛んでいた。……彼こそが、我らが生徒会が仕える絶対の王(ドン)。レイ様よ』


「お、王……だと……?」


ヴィンセントは息も絶え絶えに、画面の向こうで優雅に二度寝に入るFランクの少年の姿を網膜に焼き付けた。


(……深淵の教団が学園を狙っているだと? 冗談じゃねえ……。奴ら、学園(あそこ)にいる『アレ』のヤバさを全くわかってねえぞ……!!)


ヴィンセントは、学園に攻め込もうとしている教団に対して、かつてないほどの『同情』を抱いた。

そして同時に、彼自身もまた「帰還したら、あのFランクには絶対に逆らわないようにしよう」と、遠い異国の地で固く心に誓うのだった。

——ピピッ。


「あ、通信切れちゃいましたね。電波悪かったのかな」


「まぁよい。王の安眠を妨げる者は、身内(ヴィンセント)であろうと容赦はしない」


クラウスが淡々と魔水晶の電源を切り、生徒会室には再び、Fランクの少年の穏やかな寝息だけが響き渡った。

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