第19話:Fランクの常識学習 〜Sランク会長が語る『世界の理』と、迫り来る闇の組織〜
放課後の生徒会室。
レイはいつものように、Sランク魔獣であるフェン(銀色の超絶モフモフ犬モード)のお腹に頭を預け、極上の昼寝を満喫しようとしていた。
ふと、レイはあくび混じりに口を開いた。
「そういえばさ、アリシア」
「はいっ! 何でしょうか、レイ様!」
書類仕事をしていたアリシアが、弾かれたように立ち上がり、直立不動になる。
「俺、学園じゃ底辺の『Fランク』扱いじゃん? まあそれでいいんだけどさ……この世界のランクって、結局どこまであんの?」
レイは本当に、この世界の常識をよくわかっていなかった。
面倒くさくて授業を聞いていないのもあるが、魔王を討伐するほどの力を持つ彼にとって、他人の強さの基準など「自分より弱い」という一括りでしかなかったからだ。
しかし、その何気ない質問を受けたアリシア、クラウス、セリアの三人は、背筋に冷たい汗をかいていた。
(……王が、あえて基礎中の基礎を私に問うている……? いや、違う。これは『我々生徒会が、この世界を正しく俯瞰できているか』を測る、抜き打ちのテスト……!!)
アリシアはコホンと咳払いし、極めて真剣な表情で語り始めた。
「……お答えいたします。この世界の魔力・戦力の格付けは、原則として【F】から【A】までが一般からエリート層に該当します。現在この部屋にいるクラウスや、ザック君などの優秀な騎士候補が【Aランク】のトップ層ですね」
「ふーん」
「その上が、国家の最高戦力であり、単機で軍隊を壊滅させうる災害級……私や現在不在のヴィンセント、そしてそのフェンなどが該当する【Sランク】です」
アリシアが自分のランクを口にする時、その声には微かな自嘲が混じっていた。世間では最強と持て囃されていても、目の前でフェンを撫でている『規格外』の前では、自分など赤子も同然だと知っているからだ。
「さらにその上、歴史に名を残す大英雄や、魔王軍の幹部クラスが【SSランク】。そして、人類の限界点にして伝説の存在が【SSSランク】と定義されています」
「へえ、SSSか。それが一番上?」
「……いえ。公式の記録にはありませんが、裏の世界の常識として……SSSをさらに超える、『理外の存在(規格外)』がいるとされています」
アリシアはそこで言葉を区切り、畏敬の念を込めてレイを見つめた。
(もちろん……世界そのものの法則を捻じ曲げる貴方様のことです、レイ様)
「なるほどねぇ。上がいるもんだな」
(まあ、俺の本当の力はその『規格外』ってやつなんだろうけど。絶対バレないようにFランクのふりしとこ)
レイは適当に納得し、フェンの毛並みを撫でた。
「……そして、レイ様。本日はもう一つ、ご報告しておかねばならないことがあります」
アリシアの表情が、一段と険しくなった。
「先日、レイ様が地下で『鬱陶しい虫』として粉砕された、あの禍々しい魔力の気配についてです」
「ああ、なんか泥水みたいな魔力のやつ? あれがどうかしたの?」
「……現在、この世界で暗躍している巨大な敵対組織……【深淵の教団】。奴らの仕業です」
アリシアは持っていた書類をテーブルに広げた。
「彼らは、世界を滅ぼす災厄を信仰し、この星の魔力を枯渇させようと企む狂信者の集まり。先日、学園の地下で復活しかけた災厄の眷属も、教団が手引きしたものでした」
アリシアの言葉に、クラウスたちも表情を引き締める。
「現在、不在のSランク役員であるヴィンセントが西方で調査しているのも、彼ら【深淵の教団】の動向です。……奴らは近い将来、間違いなくこの学園(地下霊脈)を本気で狙って攻めてきます」
敵組織の存在。
学園に迫り来る、SSSランクや規格外の化け物を擁するかもしれない闇の教団。
並の生徒なら絶望し、震え上がるような深刻な報告だった。
しかし、レイの反応は——。
「ふーん。大変だね」
「…………え?」
レイは大あくびをして、フェンのお腹に顔を埋めた。
「まあ、俺は戦うのとか面倒くさいからさ。その教団だかが来たら、アリシアやクラウスたち生徒会で適当に追い払っといてよ。俺の昼寝の邪魔にならないようにね」
「……ッ!!」
レイにとっては、本当に「面倒だから任せた」というだけの丸投げだった。
しかし、アリシアたちの目には、またしてもその言葉が別の意味に変換されていた。
(世界を脅かす【深淵の教団】すら、王にとっては『自身の睡眠を妨げるハエ』程度の認識……! なんという圧倒的な自信……なんという器の大きさ……!)
(『自分が出向くまでもない。SランクとAランクのお前たちで処理しろ』という、我々生徒会への絶対的な信頼と試練……!!)
アリシア、そしてクラウスたちAランク役員は感動で打ち震えながら、深く、深く頭を下げた。
「……承知いたしました、ドン・レイ。我々生徒会一同、命に代えましてもこの学園を防衛し、貴方様の安眠(平穏)を死守してみせます……!」
「おう、頼むわ」
こうして。
レイが常識を学び、敵組織の脅威が明確になった裏で、生徒会メンバーたちの『ドンへの狂信』と『教団を絶対に殺すという決意』は、かつてないほどに高まっていくのだった。




