第16話:王の安眠を守る聖戦(防音) 〜他校のエリート達は、狂信者と化した生徒会に瞬殺される〜
王立魔法学園の生徒会室。
その日は、ライバル校である『獅子王魔法学園』の生徒会長・レオナールと、その側近たちが不敵な笑みを浮かべて乗り込んできていた。
「挨拶もなしか、冷たいねぇ。王立学園のSランク会長殿」
レオナールは余裕の態度で室内を見渡した。
「うちのAランクエース(ザック)が突然そっちに転校したり、王都の貴族が謎の没落をしたりと、王立学園の周辺がやけにきな臭くてね。一体、裏でどんな『切り札』を隠し持っているのか……視察に来てやったのさ」
挑発的な言葉を投げかけるレオナール。
しかし、迎え撃つアリシアたち王立学園の生徒会役員は、誰一人として彼を見ていなかった。
彼らの視線は一点、部屋の奥の最高級ソファに集中している。
そこでは、Fランクのレイが腹にクッションを乗せ、無防備な顔で爆睡していたのだ。
(((……レイ様が、お休みになられている……!)))
アリシア、クラウス、セリア、ギルバートの四人は、冷や汗を流しながら目配せをした。
ドン・レイの至上命題は『平穏な昼寝』である。もしこの騒ぎで彼を起こしてしまえば、自分たちは不敬罪で次元の彼方へ消し飛ばされるかもしれない。
一方、そんな彼らの緊張を「自分たちに怯えている」と勘違いしたレオナールは、勝ち誇ったように鼻で笑った。
「ほう? あんな無防備に寝ているFランク……。お前たちのようなエリート集団の部屋に、ただのゴミがいるはずがない」
レオナールは杖を抜き、レイへ向けて魔力を練り上げ始めた。
「あのゴミを盾にして、俺たちを牽制するつもりなら——まずはあいつを火あぶりにして起こしてやろうか!」
「【炎槍(フレイム——」
レオナールが魔法を放とうとした、その瞬間。
王立学園生徒会メンバーの中で、何かが完全に『ブチ切れる』音がした。
(((王の安眠を、妨げる気かァァァァァッ!!!!!)))
——直後、生徒会室は『完全なる無音の地獄』と化した。
「……ッ!?」
レオナールが声を出そうとした瞬間、アリシアの放ったSランク氷結魔法【凍てつく静寂】が、彼らの喉元と口周辺の空間だけを物理的に凍結させた。悲鳴はおろか、呼吸の音すら外に漏れない。
さらに、クラウスがAランク風魔法【真空の檻】を部屋中に展開。音が伝わる空気を極限まで薄くし、衝撃音を完全に殺す。
「な、なんだこれは……!?」
声を出せないレオナールたちがパニックに陥る中、セリアが冷酷な目で眼鏡を押し上げ、彼らの魔力回路の急所を無音の魔弾で正確に撃ち抜いていく。
極めつけはギルバートだ。彼は胡散臭い笑みを浮かべたまま、音の出ない特注のソロバンで、獅子王の側近たちの後頭部を物理的にフルスイングで殴り倒した。
「ぐ、ふぅっ……!」
音を立てて倒れることすら許されない。クラウスの風魔法が、彼らが床に落ちる寸前でふわりと受け止め、静かに床へと転がした。
時間にして、わずか三秒。
獅子王魔法学園が誇るトップエリートたちは、魔法を一つも発動できないまま、声も出せずにボコボコにされ、床に転がっていた。
(ば、化け物……ッ!)
レオナールは恐怖で涙を流しながら、見下ろしてくるアリシアたちを見上げた。
彼らの瞳は血走っており、まるで『触れてはならない神の逆鱗』に触れた愚者を断罪するような、狂信的な怒りに満ちていた。
「……よく聞きなさい」
アリシアが、レイに絶対に聞こえないほどの超小声で、レオナールの耳元で囁く。
「貴方たちの命運は、あの御方が『心地よく眠り続けられたこと』によって救われたのよ。……二度と、この部屋の静寂を乱さないことね」
レオナールは首がちぎれるほどの勢いで縦に振り、側近たちを引きずりながら、音を立てないように這いつくばって生徒会室から逃げ出していった。
『王立学園の生徒会は、全員がヤバすぎる暗殺者集団だ』という特大のトラウマを胸に刻み込んで。
「……ん? なんだ、急に冷え込んだな」
扉が静かに閉まった後、レイがようやく目を覚まし、大あくびをした。
「あーあ、よく寝た。……あれ? 今そこに誰かいなかったか?」
「気のせいでございます、レイ様」
クラウスが(先ほどまで他校のエリートを蹂躙していたとは思えない)完璧な笑顔で、温かい紅茶を差し出す。
「ただの『迷い込んだ小虫』でしたので、我々が速やかに排除いたしました」
「ふーん。まあいいや。アリシア、焼きそばパンある?」
「はい!! もちろんでございます!!」
レイの強さは他校に一切バレることなく。
ただ「王立学園の生徒会役員たちが、レイを溺愛するあまり凶暴化している」という事実だけが、静かに外の世界へと漏れ出していくのだった。




