第14話:影のドン、誕生 〜Fランクの「内緒にして」が、絶対厳守の血の盟約に変換される〜
「……あー、やべ。ちょっと踏み込みすぎたか」
地下の災厄(の眷属)を足踏み一つで消し飛ばした後。
レイは頭を掻きながら、生徒会室の異様な空気に気がついた。
クラウスは床に平伏して震え、セリアは魔力計のバグった数値を見てフリーズし、ギルバートは祈るように手を組んでいる。ザックに至っては「お前、昔よりさらにバケモノになってんな!!」と目を輝かせていた。
そして、生徒会長のアリシアが、ゴクリと唾を飲み込んで一歩前に出た。
「レイ君……いえ、レイ様。先ほどの神話級の一撃……もう、誤魔化しは効きません。貴方の『真の力』と『目的』について、我々生徒会役員にすべてを打ち明けていただけないでしょうか」
アリシアの言葉に、他の役員たちも息を呑む。
(あー、これ完全にバレたな。……まあ、こいつら毎日一緒にいるし、適当に誤魔化すのも限界か)
レイは面倒くさそうに首をコキコキと鳴らし、フカフカのソファにドカッと腰を下ろした。
そして、かつて魔王と対峙した時よりも真剣な(本人はただ昼寝の権利を守りたいだけの)眼差しで、彼らを見据えた。
「わかった。特別に教えてやるよ。……俺は確かに、お前らが束になっても勝てないくらいには強い。さっきみたいなことも余裕でできる」
「「「……ッ!!」」」
生徒会室に緊張が走る。ついに、彼が真実を語るのだ。
「だけどな、俺は本当に、心底、心の底から……『面倒くさい』のが大嫌いなんだよ」
「……え?」
「もし俺が強いってことが学園中にバレたらどうなる? 教師からは特別クラスに入れられて課題が増えるし、他校からはお前みたいなのが毎日勝負を挑みに来るし、貴族からは面倒な勧誘が来るだろ? そんなの地獄だ。俺はただ、Fランクとして授業をサボって、学食で焼きそばパンを食べて、放課後はこのソファで昼寝がしたいだけなんだ」
レイはそこで言葉を区切り、アリシアたちにビシッと指を突きつけた。
「だから、お前ら。この力については『この部屋の中だけの絶対の秘密』にしろ。表向きのトップは今まで通りアリシア会長だ。俺はただのFランクの雑用係。他の生徒や教師には、絶対にバレないように立ち回れ。……もしこの約束を破って俺の平穏を脅かす奴がいたら……どうなるか、わかってるな?」
レイが軽く睨みを効かせた瞬間(※本人は「昼寝の時間を削られたら怒るぞ」くらいの意味合い)、特異体質から漏れ出した微小な魔力が、室内の重力を一瞬だけ倍増させた。
「ヒッ……!!」
「わ、わかりました! 命に代えましても!!」
クラウスたちが即座に土下座に近い姿勢でひれ伏す。
彼らの脳内では、レイの言葉はこう変換されていた。
(『面倒くさい(=表舞台で有象無象の相手をするのは私の役目ではない)』! 『表のトップはアリシア(=お前たちを隠れ蓑として、私は裏から世界を操る)』! 『約束を破ればどうなるか(=秘密を漏らせば、一族郎党すべてを次元の彼方へ消し去る)』……!!)
「レイ様のお心、しかと受け止めました……!」
アリシアが感極まったように胸に手を当て、跪く。
「この王立魔法学園生徒会は、今この瞬間より、レイ様を『影のドン』として頂く秘密組織として生まれ変わります! 表の顔は私が完璧に演じ切り、貴方様の御手を煩わせる有象無象は、我々がすべて排除いたしましょう!」
「おう! つまり俺たちは、レイの直属の親衛隊ってことだな! 任せとけ!」
ザックもなぜか得意げに親指を立てている。
「いや、親衛隊とか秘密組織とか大袈裟なことじゃなくてだな……」
「ご安心ください、ドン・レイ。今後の生徒会予算は、すべて貴方様が快適に昼寝をするための環境構築(と焼きそばパンの確保)に全振りいたします」
ギルバートが胡散臭い笑みでソロバンを弾く。
「……まぁ、お菓子と焼きそばパンがあるなら、それでいいや」
レイは考えることを放棄し、再びソファで目を閉じた。
こうして。
周囲のモブ生徒たちからは「相変わらず生徒会でこき使われてるFランクの落ちこぼれ」と嘲笑されながらも、生徒会室の扉を一枚隔てた空間では、Sランク会長やAランクエリートたちが彼にひざまずき、至れり尽くせりの世話を焼くという、奇妙でいびつな『二重生活』が完全に確立されたのだった。




