第12話:エリート役員たちの洗礼(自滅) 〜絶対に終わらない雑用を、Fランクが数秒で終わらせて学園を要塞化する〜
放課後。レイとザックが指定された通りに生徒会室の扉を開けると、そこには王立魔法学園が誇るエリート集団がずらりと顔を揃えていた。
「よく来たわね、二人の雑用係」
Sランク生徒会長のアリシアが、王座のようなデスクから優雅に(内心はストーカー的歓喜で)微笑む。
「改めて、うちの優秀な役員たちを紹介するわ」
アリシアの言葉に従い、三人の役員が一歩前に出た。
「まずは昨日も会ったわね。副会長のクラウス(3年)。Aランクであり、この学園の規律の守護者よ」
「……チッ。Fランク風情が」
クラウスは忌々しそうにレイを睨みつける。昨日の『謎の現象(自分の魔法が消滅したこと)』を、彼はまだ受け入れられていなかった。
「次に、書記のセリア(2年)。Bランクだけど、情報処理能力においては学園トップクラス。冷静沈着なデータ主義者よ」
「よろしくお願いします。……ただ、データ上、Fランクがこの生徒会に貢献できる確率は0.001%未満ですが」
銀縁眼鏡を押し上げるセリア。手元のバインダーには、学園のあらゆる情報が詰まっている。
「そして会計のギルバート(3年)。Aランクの魔力を用いた緻密な計算と、学園の予算管理を担う金庫番ね」
「ふふっ、お見知りおきを。ですが、給料泥棒(Fランク)に払う予算は1ルピアたりともありませんよ?」
糸目のギルバートが、胡散臭い笑みを浮かべながらソロバン型の魔導具を弾いた。
いずれ劣らぬエリートたち。彼らの目は完全に「無能なFランクを今日中に追い出してやる」という意志で団結していた。
一方のザックは「おう! 強そうな奴がいっぱいでワクワクするぜ!」と見当違いな喜び方をしている。
「さっそくですが、新入りのお二人に初仕事です」
セリアが冷たい声で言い、部屋の奥にある『開かずの書庫』の扉を開けた。
そこには、床から天井まで、過去十年分の未処理の書類が山のように積まれていた。
「ザック君には外周の警備と体力仕事を。そしてレイ君、貴方にはこの『過去十年分の生徒会資料のデータ化と仕分け』をお願いします。手作業で一枚残らず目を通し、魔導書庫に分類してください。……まぁ、普通にやれば半年はかかりますが」
さらにギルバートが続く。
「それが終わったら、学園を覆う『大結界の魔力パスの再構築』もお願いしますね。結界の数式に乱れが生じているので、すべて計算し直して修復してください。……魔力が無い貴方には、数式の解読すら不可能でしょうけど」
嫌がらせ以外の何物でもない膨大な仕事量。
役員たちは「これで根を上げて逃げ出すだろう」と冷笑していた。
しかし、レイの目は書類の山の奥にある『最高級フカフカソファ』に釘付けになっていた。
(あそこ、絶好の昼寝ポジションじゃん。……パパッと終わらせて寝るか)
「わかった。じゃあちょっと下がるか、目閉じといて」
「は?」
セリアが眉をひそめた次の瞬間。
レイは小さくため息をつき、指先で空間を『トンッ』と叩いた。
——ブォンッ!!
書庫に積まれていた数万枚の書類が、突如として無重力状態になったかのように空中に舞い上がった。
「なっ!? 書類が……!」
驚くセリアたちの目の前で、宙に浮いた数万枚の書類は、意思を持っているかのように猛烈な速度で高速回転し始めた。
レイの持つ特異体質『魔力過剰分泌』。常に極限まで抑え込んでいるその出力を、わずかに『脳の並列処理』と『微細な重力操作』に回しただけ。
たった数秒の間に、数万枚の書類の内容が完全に読み取られ、瞬時に分類され、印鑑が押され、魔導書庫の正しい位置へとピタリ、ピタリと収納されていく。
「……終わった。次、結界な」
レイが再び指を鳴らす。
その瞬間、生徒会室の床に描かれていた結界の魔法陣が、眩い黄金の光を放った。
「ぎゃあっ!? な、なんだこの尋常じゃない魔力光は!?」
ギルバートが悲鳴を上げる。
レイは、面倒な計算式など一切無視して、特異体質から溢れ出る『神話級の純粋な魔力』を、結界の基盤に直接流し込み、力技で数式ごと書き換えたのだ。
学園を覆う結界は瞬時に最適化され、かつてないほどの絶対的な強度(魔王軍の総攻撃にすら耐えうる要塞レベル)へと変貌した。
時間にして、わずか十秒。
書庫はチリ一つなく片付き、学園の結界は神の領域へと昇華されていた。
「……ふわぁ、疲れた。じゃ、俺寝るから。ザックが戻ってくるまで起こさないで」
レイはそのままフカフカのソファにダイブし、一瞬で寝息を立て始めた。
「…………」
生徒会室には、死のような静寂が落ちていた。
「ば、馬鹿な……。数万枚の書類の視覚的データ処理を数秒で終わらせた……? 私の脳内魔力演算の、数億倍の速度……!?」
セリアは眼鏡を落とし、へたり込んだ。
「け、結界の数式が……美しすぎる……! 過去の偉人たちが何百年かけても辿り着けなかった『完全なる防壁』の黄金比だ! こ、これほどの神算鬼謀、一体どれほどの頭脳があれば……ッ!」
ギルバートは魔法陣にすがりつき、歓喜と恐怖の涙を流していた。
そしてクラウスは、完全に心が折れた顔で膝をついていた。
「私たちが追い出そうとしていたのは……人の皮を被った『神』だったというのか……」
完全に屈服し、戦慄する優秀な役員たち。
そんな彼らを尻目に、アリシアだけが頬を赤らめ、『レイ君観察ノート』に猛烈な勢いでペンを走らせていた。
(数万の情報を瞬時に処理する神の頭脳……! そして結界を『魔王城レベル』に要塞化した……! やはりレイ君は、この学園を拠点に世界を統べるつもりなのね!!)
こうして、Fランクのレイは何も知らないまま、王立魔法学園の頂点である生徒会役員たちから『裏の会長』として恐れ(崇め)られることになったのである。




