第11話:生徒会役員共の反撃(未遂) 〜激怒するエリート達を無自覚に黙らせ、なぜか生徒会入りするFランク〜
ザックが生徒会室の扉を粉砕してから数分後。
見回りを終えて戻ってきた他の生徒会役員たちは、無惨に吹き飛んだ扉と、部屋の来客用高級ソファでよだれを垂らして寝ているFランク(レイ)の姿を見て、絶句した。
「……アリシア会長。これは、一体何の冗談ですか?」
こめかみに青筋を立てて進み出たのは、生徒会副会長を務める3年生、クラウスだった。
彼は王立学園でもトップクラスの【Aランク】魔術師であり、規律を何よりも重んじる潔癖症のエリートだ。その後ろには、書記や会計といった他の優秀な役員たちも怒りに震えて控えている。
「他校から来たという野蛮な転校生はともかく。なぜ学園の神聖なる中枢に、魔力すら持たないFランクのゴミが上がり込んでいるのですか! 即刻、私がつまみ出します!!」
クラウスが懐から杖を取り出した瞬間、ザックがニヤリと笑って前に出た。
「へっ、やる気かよメガネ! 俺とレイのコンビに喧嘩を売るとはいい度胸——」
「やめなさい!! 二人とも!!」
その場に響き渡ったのは、アリシアの悲痛(?)な叫びだった。
彼女は冷や汗をダラダラと流しながら、クラウスとレイの間に立ちはだかった。
(馬鹿な真似はやめてクラウス……! 貴方は何も分かっていない! そのソファで呑気に寝ている男は、息をするようにAランク魔法と私のSランク魔法を同時に消し飛ばす『闇の帝王』なのよ!? もし彼を本気で怒らせたら、生徒会どころか王都が地図から消滅するわ!!)
アリシアは必死だった。優秀な部下であるクラウスたちを、レイの「見えない怒り(※ただ寝ているだけ)」から守らなければならない。
しかし、クラウスはアリシアの制止を「会長は優しすぎる」と勘違いした。
「会長、下がっていてください! このような輩、私の【多重風縛陣】で一瞬にして拘束してご覧に入れます!」
クラウスが杖を振り下ろす。
Aランクの高度な無詠唱魔法。目に見えない不可視の風の鎖が、猛烈な勢いでソファで寝ているレイと、その前に立つザックに襲いかかった。
「……んあ?」
その時、騒がしさに目を覚ましたレイが、むくりと身を起こした。
(んー、なんか風が吹いてきたな。……あ、やべ。寝起きで魔力抑え込むの忘れてた)
レイの持つ『周囲の魔力を無限に吸い上げ、増幅してしまう特異体質(呪い)』。
彼がほんの一瞬、無意識にその制御を緩めた、ただそれだけだった。
——ヒュンッ。
クラウスが放った不可視の風の鎖は、レイの身体に触れる数メートル手前で、まるでブラックホールに飲み込まれたかのように『空間ごとえぐり取られて』消滅した。
「…………え?」
クラウスは杖を突き出したまま、ポカンと口を開けた。
自分の放った渾身の魔法が、レイの周囲にある「絶対的な真空地帯」に触れた瞬間、跡形もなく掻き消されたのだ。
(い、いま何が起きた……? 私の魔法が、あのFランクの寝息ひとつで消滅した!? いや、そもそもあいつの周囲だけ、世界の物理法則が歪んでいないか!?)
クラウスの背筋に、生物としての本能的な恐怖が走った。
レイは目を擦りながら、迷惑そうに口を開く。
「あー……よく寝た。てか、うるさいんだけど。ここ、昼寝にちょうどいいから静かにしてくれない?」
「ヒッ……!!」
クラウスはその一言に込められた(ように錯覚した)底知れぬ威圧感に、思わず数歩後ずさった。
他の役員たちも、レイの異常性に気づき、顔面を蒼白にして震え始めている。
(やっぱり、彼の中には『深淵』が飼われている……!)
アリシアはついに決断した。この規格外の男を野放しにしておくのはあまりにも危険だ。自分の手の届く範囲で、常に監視しなければならない。
「そこまでよ、クラウス! 彼らに対する処罰は、生徒会長であるこの私が下します!」
アリシアはビシッとレイとザックを指差した。
「転校生のザック、そしてFランクのレイ! 貴方たち二人には罰として、この生徒会の『雑用係(奴隷)』として働くことを命じます!! これから毎日放課後、必ずこの生徒会室に来なさい!!」
「なっ……! 会長、正気ですか!? こんな奴らを生徒会に入れるなんて!」
クラウスたちが抗議するが、アリシアの目は(ストーカー的な意味で)据わっていた。
一方のザックは「っしゃあ! 転校初日で生徒会の中枢に入り込んだぜ! 王手だなレイ!」と大歓喜。
そしてレイは——。
(……え? 毎日放課後ここに来るってことは、この超フカフカの最高級ソファで毎日昼寝していいってこと? しかも役員用の高級お菓子も食い放題……?)
「……まあ、雑用くらいならやってやらんこともない」
満更でもない顔で頷くレイを見て、アリシアは心の中でガッツポーズをした。
(勝った……! ついに闇の帝王を、合法的に毎日監視できるわ!!)
最強の力を隠したいFランク。
その底知れぬ力を崇拝する自称親友。
そして、彼を監視(観察)することに命を懸けるSランク生徒会長。
奇妙すぎる三人の思惑が交差したまま、レイの「ちっとも平穏じゃない生徒会ライフ」がここに幕を開けたのだった。




