第10話:自称親友VS生徒会長 〜勃発する頂上決戦を、Fランクがこっそり無駄骨に変える〜
「たのもぉぉぉぉぉ!! 生徒会長、勝負しろォ!!」
放課後。王立魔法学園の最上階にある豪奢な生徒会室の扉が、木端微塵に吹き飛んだ。
土足で踏み込んできたのは、転校初日のAランク特待生、ザックである。彼は宣言通り、学園のトップを「シメる」ために一直線に生徒会室へと殴り込みに来たのだ。
「ちょっとザック、ドア壊すなよ。弁償とかめんどくさいんだから……」
その後ろから、Fランクのレイが欠伸をしながらついてくる。ザックに首根っこを掴まれて強制連行されてきた彼は、部屋の隅にあるフカフカの来客用ソファを見つけると、そのまま吸い込まれるようにダイブした。
「俺、ここで寝てるから。終わったら起こして」
「おう! 待ってろよレイ、俺がパパッとこの学園の頂点をもぎ取ってやるからな!」
ソファで丸くなるレイ。その無防備すぎる姿を、生徒会長のデスクから冷徹な視線で見つめる少女がいた。
Sランク生徒会長、アリシア・フォン・カルディアである。
(……ついに、組織が牙を剥いたわね)
アリシアは静かに立ち上がり、周囲の空気をピキピキと凍てつかせた。
(『頂点をもぎ取る』……つまり、王立学園の完全なる武力制圧。やはりこの男は、レイ君が差し向けた闇の組織の先兵。そしてレイ君自身は『ここで寝ている(=手出しはしない)』と言った。これは彼からのテスト……私の実力が、組織の幹部を退けるに足るか見極めているんだわ!)
アリシアの脳内では、ただの不良の殴り込みが、学園の命運と己の愛(?)を試される壮大な最終戦争へとすり替わっていた。
「いい度胸ね、転校生。学園のトップに立ちたければ、私を越えていきなさい」
「へっ、話が早くて助かるぜ! 俺の炎で、そのすました顔を溶かしてやるよ!」
ザックが両拳を打ち合わせると、彼の全身から爆発的な熱量を持った【紅蓮のオーラ】が噴き上がった。Aランク特有の、純粋な破壊力に特化した肉体強化魔法だ。
対するアリシアも、一切の詠唱なしで絶対零度の【氷結陣】を展開する。
SランクとAランク。二人の規格外の魔力が激突し、生徒会室の窓ガラスにヒビが入り始めた。
このまま二人の魔法が衝突すれば、学園の最上階ごと吹き飛ぶ大惨事になるのは火を見るより明らかだった。
「行くぜ!! 【紅蓮剛掌波】ォォォッ!!」
「凍てつきなさい!! 【絶対零度の棺】!!」
すべてを焼き尽くす炎の拳と、すべてを停止させる氷の嵐が、部屋の中央で激突しようとした——その瞬間。
「……あー、うるさいな。静かに寝かせろよ」
ソファでうつ伏せになっていたレイが、不満げにボソッと呟き、指先を『パチン』と軽く鳴らした。
——シュンッ。
音が、消えた。
いや、音だけではない。ザックが放った必殺の業火も、アリシアが展開した絶対零度の氷結も。
まるでロウソクの火をフッと吹き消すように、何の余波も、何の爆発も起こすことなく『完全に消滅』したのだ。
「……は?」
ザックは拳を突き出したマヌケな姿勢のまま、固まった。
「お、俺の最大火力の魔法が……何の音も立てずに消えやがった……!?」
ザックの目には、アリシアが未知の防御魔法で自分の炎を完全に無力化したように見えていた。
「これが、王立学園のSランク……! 俺の全力を、瞬き一つせずに消し飛ばしたってのか……! くっ、完敗だぜ……!」
ガクッと膝から崩れ落ちるザック。
しかし、当のアリシアもまた、信じられないものを見るような目で自らの両手を見つめていた。
(違う……! 私の魔法まで、根こそぎ消え去ったわ。あの瞬間、二つの魔法の衝突点に『絶対的な空間の断絶』が割り込んできた……!)
アリシアは恐る恐る、ソファで寝返りを打つレイの背中を見た。
(私がSランクの魔力を込めた魔法を、指を鳴らすだけで……いえ、指を鳴らした音すらカモフラージュね。寝息一つ乱さずに、AランクとSランクの大魔法を同時に、空間ごと『無』に帰したというの!?)
アリシアは全身の震えを抑えきれず、その場にへたり込みそうになった。
(もしあのまま衝突していれば、学舎は半壊していた。彼は私と幹部の激突を、誰にも気づかれないように最小限の力で仲裁したのね……! なんて慈悲深く、そして底知れぬ力なの、レイ君……ッ!)
「……ふわぁ。終わった? 決着ついたなら、学食行こうぜ。限定の唐揚げ丼、まだ残ってるかな」
のそりと起き上がったレイが、何事もなかったかのように頭を掻く。
その平然とした姿に、ザックは「お前、こんなすげえ会長相手に一歩も引かねえなんて、やっぱスゲエ肝座ってんな!」と的外れな感心をし、アリシアは「世界を統べる者の器……!」とさらに瞳を潤ませていた。
最強の力を隠したいFランク少年は、気づかぬうちに、自称親友(熱血バカ)と生徒会長という最高に面倒くさい二人の『絶対的なカリスマ』として君臨し始めていた。




