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十二月に入ってすぐ、花音の誕生日がやってきた。
少し前に、大したことはできないけど、お祝いしたい、何か希望はないかと瑛司に言われていたので、
『帰りにちょっとだけ寄り道して、二人でコンビニの肉まん食べたい』と伝えてあった。
そんなことでいいのかと瑛司が聞くので、『それ以外は嫌だ、そしてピザまんも食べたい』と強めに返すと引き下がった。
当日は、朝から一花やまのか、紅羽に世莉が、ハンドクリームやら、お菓子やらをかわいくラッピングして、メッセージカードを付けたりして渡してくれる。
「受験終わったら、絶対みんなでご飯とかいこーね!」
そうして、口々に言ってくれるので、胸のあたりがじんわり温かくなった。
今までは、それぞれの誕生日の前後でファミレスに行ったり、カフェに行ったりしていたが、今この瀬戸際で友人たちの貴重な時間を削ることはできなくて、早々に断っていたのだ。
そう、瀬戸際だ。
十二月に入ってクリスマス一色になる街とは反対に、三年の教室がある廊下には、誰の目にも留まる大きさで、「共通テストまであと〇〇日!」というカウントダウンが貼り出されていた。
学校帰り、この日は自習をやめて、瑛司と帰路に就く。
二人で並んで歩いていても、周りも花音自身も、いつの間にかこの状況に慣れていることに、改めて不思議な気持ちになった。
「あんなにコロコロ髪色変えて、リア充軍団で、授業もサボったりして、めちゃくちゃ目立ってた人が今は黒髪に落ち着いて、私の横を歩いている不思議」
「今さら?」
「なんか誕生日ともなると改めて?すっかり落ち着いたねえ、瑛司くん」
「……親戚のおばさんみたいな言い方するなよ」
そんなことを話しながら、いつもの駅を過ぎ、少し行った先のコンビニに入る。駅近のコンビニよりも、こちらのコンビニの肉まんの方が花音は好きなのだった。
肉まんとピザまんを一つずつと、温かいミルクティーを買って店外に出ると、二人で半分こする。
「ホントにこれでいいのか?」
「いいというか、実はちょっと憧れてたの」
「肉まんに?」
「なんか、青春ぽくない?」
「肉まんが?」
「……学校帰りに、彼氏とコンビニに寄って、肉まんを半分こすることが!」
実は全然遠慮でもなくて、そんなとある漫画のワンシーンにひそかに憧れていたのだった。
「うそうそ、分かってるって」
瑛司は、笑って、半分にした肉まんを花音の肉まんにちょんと当てると、
「十八歳の誕生日おめでとう」
と言った。
二人で肉まんを齧る。温かくて、お腹がホッとする。
花音が一口一口を噛み締めてゆっくりと食べ進めていると、瑛司は二口くらいで肉まんを食べ終え、スマホを取り出した。
カシャ、と撮影音がする。
「なに、撮ったの?」
「うん、二人でも撮ろう」
瑛司はそう言って、一旦スマホをしまってピザまんを半分こにし、片方花音に持たせて、片手でスマホを操作して自撮り態勢になる。
「えっ、待って、私両手に持ってて食いしん坊みたい」
突然の写真に戸惑い、言いたいことはそこではないのだが、出てきた言葉はそんな言葉だった。
「それがいいんじゃん」
と言って瑛司がカウントを始める。三、二、一でぐっと瑛司が花音に寄り、カシャ、と音がする。
「待ってちょっと、見せて!」
「大丈夫、可愛く撮れてる」
そんな返事に顔が赤くなる。
「そ、それは私が判断するっ!」
「冷めるぞ。食べ終わってからにしたら?」
花音は急いで食べたが、他の客の流れも増えてきて、コンビニ脇は何となく居心地が悪くなってきてしまった。
食べ終わって、どちらからともなく、駅に向かって歩き始める。
忙しなさがあって、漫画のようにスマートにはいかなかったが、それでも自分が密かに憧れていたシチュエーションが叶ったことに花音はつい口の端が上がってしまっていた。
「機嫌いいな」
「ふふ。憧れが、一つ叶っちゃったからね」
そう答える花音に、瑛司は目で笑って、一瞬だけ、軽くポフンと花音の頭に手をやった。
「キスしたり抱きしめたりしたくても、今は無理だな」
「あ、当たり前だよ!こんなとこで!自粛自粛!」
歩きながら不意に耳元で囁かれて、花音は慌てて反論した。また顔が赤くなったのが分かったが、なんとなく、赤くなったこと自体は「まあいいか」と思えた。
それから、他愛無い話をしながらミルクティーを分け合い歩く。すぐに駅に着いてしまった。
ざわめく構内の隅に行き、瑛司がリュックから「はい」とシンプルな茶色い封筒を取り出して手渡した。
「なにこれ」
「誕生日プレゼント?」
「…いいのに」
「よくはないだろ」
でも瑛司の誕生日には何もしてあげられていないのにと言うと、じゃあ来年欲しいものがあるから楽しみにしてると返事が返ってくる。瑛司の誕生日は五月の初旬で、今年のその頃は口説かれ中だったのだった。
「…ありがとう」
肉まんを奢ってもらって終わりのつもりだったので、驚きに戸惑いながら受け取った。
「って言っても、大したものじゃないよ。コレだから」
そう言って、瑛司は自分のポケットから「合格守」を取り出して見せた。
この辺りでは学業の神様で有名な神社の合格守だ。
「とりあえず、できることは全部やりたいんだろ?」
「…ありがと。うれしい。…同じもの?」
「そ、全く同じやつ」
瑛司はそう言うと、手渡した紙袋をもう一度受け取り、「入れとくよ」と花音に背を向かせてリュックに入れてくれた。
「二人とも合格しますように」
花音がそう言うと、
「絶対に」
と瑛司が答えた。
家に着いて、部屋に行くと真っ先に封筒を取り出す。
にやけそうな締まりのない口になるのを、無意識にぎゅっと閉じるが、口のあたりがモニモニと動いてしまう。
封筒の中には、神社の名前入りの薄くて白い紙袋に入れられた合格守と、折りたたまれた紙が入っていた。
合格守を袋から出し、胸に当てると、そっと机に置いて、折りたたまれた紙を開く。
そこには、『誕生日おめでとう』の文字と、QRコードが一つ印刷されていた。




