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一花と暁斗の番外編的回で、比較的短めです。
「もう帰んの?」
帰り支度をする一花に、暁斗がゴロンと寝転がったまま声をかける。
「うん。勉強しなきゃだし」
そう言いながら、一花は身支度を整えて、忘れ物がないか念入りに確認する。
ここは近年亡くなった暁斗の祖父宅で、普段人は住んでいないが、定期的に手入れされている状態らしい。将来的には暁斗か暁斗の弟が相続するようだが、今は一部屋、暁斗の趣味の部屋として、時々好きなように使っているそうだ。
そんなところに、私物を忘れたりなんてしたくない。
総合病院の院長の息子は、生活環境がそもそもうちとは違うと一花は思いながら、トートバッグを肩にかけると、
「じゃあね」
と部屋のドアノブに手をかける。
「家まで送ってこうか」
「えーやだ、いらない。誰かに見られたら面倒すぎる」
「だよな。一応言ってみただけ」
そうさわやかな笑顔で言いながら、玄関まで送るからちょっと待てというので、一花は肩をすくめる。
「一花はホントあっさりさっぱりしてるよな。超現実的?」
二人の時はすっかり一花呼びが定着した暁斗に言われ、
「そう?そうありたいとは思うけど」
と一花が返す。
「時田さん達より、実は愛菜とかの方がタイプ近くない?」
「近いかどうかは知らないけど。だからつるむとかじゃないでしょ」
「だな」
そこで、一花はふと花音と瑛司のことが浮かんで、
「そういえば、日野くんのことが好きな子とかいそうだけど、その辺大丈夫なのかな?」
と暁斗に聞いた。
「大丈夫って?」
暁斗はとっくに身支度を終えたが、そのままそこで立ち話になってしまう。
「ほら、やっかみ?みたいな」
「あー、そこは大丈夫なんじゃない?あいつ、そこまで他の女の子に踏み込ませないでしょ」
「そうなんだ?」
「心配?」
「まあ、ちょっとね。私だったら跳ねのけるけど、難しい人もいるでしょ」
「…瑛司はさ、見た目クールなイケメンっぽいけど実は話しやすいし、つき合いも悪くなかったから女の子受けいいけど」
「うん、そんなイメージ」
「けど、女の子がその気になって距離詰めようとすると、よく見ると目が笑ってなくて、躱されるみたいな感じなわけよ。たぶん俺が知る限り」
「へえ…」
「だから、基本、泣くことになる前に撤退するしかないんじゃないかなー。時田さんと付き合ってからなんかあったとしても、手前で牽制してそう」
「そういうタイプなんだ。チャラさとか、去る者は追わなそうなイメージはあったけど、来る者拒んでたんだ」
一花が少し意外に思ってそう言うと、
「いやー、今思えば、サボったり遊んだりって、色々一通り経験しとこって感じで、そんなにそれ自体楽しんでたわけじゃなかったのかもなー」
暁斗がポリポリと頭をかく。
「…そっか、じゃあ安心?かな?」
「…安心かなあ…。いや、俺さ、時田さん口説くって聞いたときは、マジで驚いたんだよね。あいつがそんな自分から行くのも初めて見たし、全力?みたいな。だから相当執着してんじゃないかな」
「執着…なんかわかるかも」
一花は、花音から聞いた話や花火の日の様子を思い出して頷いた。
「進路が別れるこれからって時に、そんなに執着して、まあ、俺としてはちょっと危なっかしくも見えるわけよ」
「…まあ、来年お互いまた別の場所に行くのは確定だし、出会いもたくさんあるだろうしね」
「そ」
その言葉は、関係ないと思っている自分たちにも、ほんの少しだけ影を落としたようだった。
「…一花はさ」
暁斗は、立っているのが疲れたのか、腕を組んでドアにもたれかかった。
「大学卒業したら、地元戻ってくんの?」
「さあ?でも今のところ、そのつもりはあんまないかな」
「ふーん」
「そっちは、医師免許取って凱旋でしょ」
「まあね。でも、医学部のあと経営の勉強もしたい」
「…ああ、すごいね。そしたら、戻ってくるの相当先じゃん」
「だなー。道のりは長いわ」
暁斗はため息を一つついて、気怠そうにドアから離れると、ドアノブを引いた。
「送るよ」
「…玄関までね」
そう念押しした一花に、不意うちで軽く触れるだけのキスをした。
じろりと睨んだ一花に暁斗は笑って、その背をそっと押した。




