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花音の突飛な行動に、瑛司がぽかんする。
「瑛司くんは知らないんだっけ?占い師のポーズ」
知らないと分かっていて、花音はとぼけた。
「占い師?」
「まのちゃんと大屋くんの事件のときに、突如私に占い師キャラが降りてきてね。ほら、ここに水晶玉があるような、それを手でこう…」
そう言って、見えない水晶玉があるかのように振る舞う。
「…よく分からないけど、占い師のマネなのは分かった」
瑛司が困惑する。
「ああ、見えますね、瑛司くん、闇が見えるよ。これはどうしたものかな。何を焦っているのか、話してごらん」
瑛司の戸惑いが増している。
「なんか、花音のキャラが突然濃厚なんだけど」
「こんな私は嫌かな?」
「いや…噛めば噛むほど味が出る的な…?」
「囲い込みたくなるようなタイプじゃないでしょ」
「それはどうだろ?…まさか、嫌わせたくてわざとやってる?」
瑛司の声の温度が途中から冷たくなっていく。少しだけ、花音は緊張した。
「その反対。もう少し、踏み込もうと思って」
「踏み込む?」
踏み込むのは、怖い。
花音は、緊張して強張りそうな体の動きとは逆らって、わずかに両腕を広げた。瑛司の何かを抱き留められるように。
どこまで、踏み込んでいい?
「瑛司くん、ずっと焦ってる。AIの話の時に思ったけど、私の焦りよりずっと……」
無言の瑛司に、言葉を続ける。
「…AIの進化、怖いよね。私たち、ずっと、勉強して、褒められて、もっと勉強して、時間をたくさん勉強に使って進学校に来たよね」
「…そうだな」
短い言葉が返ってきた。
「今だって、必死で受験勉強してて…」
花音は知らず知らずのうちに自分の胃のあたりに片手をやっていた。この焦燥感は、花音自身も持っているものだから。
「…一人で家で勉強してて、突然、後ろから真っ暗な何かに飲み込まれそうな感覚に襲われることがある」
瑛司が話し始めた。
「何か…何に?」
「…時代に?」
「あぁ…」
花音は得心した。
「それは私も感じる」
瑛司は、長いため息をつくと、
「来て」
と、花音を自分の横に座らせた。二人で横並びになってベッドにもたれ掛かるように座る。
「今更だけど、寒くない?」
「…あんまり寒いとか意識してなかった。強いて言えば足元だけ?」
瑛司はベッドから毛布を引っ張り、花音の足元にそっと置くようにかけた。
「今日俺ホント気が回ってない」
「そんな完璧王子様じゃなくていいのに」
「そのくらいしか取り柄がないのに?」
「なに?瑛司くんの闇を見せてくれる?」
花音はそう言って笑って、「一緒に入ろう」と毛布をお腹まで引き上げながら、瑛司にも半分かけた。
自然と肩を寄せ合って、瑛司が毛布の中で、恋人繋ぎする。
「…俺は、器用貧乏っていうか。花音の『知りたい』みたいな芯が無いんだよ」
「器用貧乏…」
「ただ、そこそこ勉強ができるだけの俺みたいな奴が、一番簡単に淘汰されるだろ、AIに」
「待って待って、瑛司くんはAIを使う側じゃない?」
「大して使えてないさ」
「…天上人と比較してない?」
「アメリカの有名大を出て、就職先がないってニュース見た。それだけ優秀でそうなんだから、俺みたいな中途半端な奴、打つ手が無いさ」
「……瑛司くん自身の思いは?」
「……だから、無いんだ、空っぽ、中身が。周りにテキトーに合わせてるだけ」
瑛司が自嘲気味に言う。
「これが花音の言う闇だろ、きっと」
花音は黙ったまま、そっと頭を瑛司の肩に預けた。
「そんな状態で花音を見つけて、心底欲しいと思えて、あー、あるじゃん、俺欲しいものって。…そりゃ執着するだろ?俺の欲しい唯一のものなんだから」
瑛司の「欲しい」が初めて痛々しく感じた。
そこで花音が繋いでいる手を離したので、瑛司の瞳が一瞬傷ついたように揺れる花音は一瞬それを見留めて、違うよと、心の中で言う。
膝立ちになって、両手で瑛司の目を塞いだ。
「今、きっとこうなってるの」
「焦りでよく見えてないだけ。空っぽとか、要らないとかじゃない。目隠しが外れたら、違って見えるかも」
毛布の中で温まった花音の手は暖かくて、瑛司の目元の方がひんやりしている。「手当て」という言葉が脳裏に浮かんだ。
「そうかな。そうこうしてるうちに、濁流に飲み込まれないか」
瑛司が目隠ししている花音の両手首に手をかけた。
「じゃあ、いっそのこと一緒に飲み込まれて流されてみちゃう?」
花音の言葉に、瑛司は、花音の手を目から離し、信じられないと言うような目で花音を見た。
「流された先に新天地があったりして」
花音が続けると、
「その先が地獄かもしれなくても?」
と瑛司が言う。
「地獄は困るね…。んー、瑛司くんが落ち込んでて、私が慰める側に立ってるから言えてるだけかも」
花音は正直に言った。
「えーと、つまり、当事者じゃない視点で見ると」
「ああ」
「諸行無常なのではないかと」
「…急に壮大だな」
「それか、行雲流水」
「四字熟語責め?」
「せっかく頑張って勉強してきたのに、無駄とか悔しいから、実生活に生かそうとしてみました」
「…ちょっと今の俺には高尚すぎてリアリティに欠けるかも」
「最初の頃、一花のアドバイスで、いわば行雲流水の精神で瑛司くんの誘いに乗ったのに?」
「…急にリアリティ出たな。今度一花さんにお礼言う」
瑛司は掴んでいた手首を引き寄せて、花音を抱きしめた。そうして、どちらからともなく、何が面白いのかよく分からないまま、二人でくすくすと笑ってしまう。
ずっとこんな話をしていて、だいぶ疲れてきているのかもしれない。
瑛司の腕の中で、体勢を横向きに変えて瑛司にもたれて落ち着くと、
「私が思い切って瑛司くんに流されてみて世界が開けたから、流されて見えるものもあるかもなーって」
と、まとめる。
「だな。AI時代の濁流に飲み込まれるのはまだ怖いけど」
「流されるときはきっと二人とも一緒でしょ。とりあえず、受かってから一緒に流されるなり、足掻くなりしない?」
花音の言葉に、
「占い師っていうより、どっちかって言うとカウンセラーっぽかったな」
と言う瑛司の顔は、うまく言えないが、先程までより随分落ち着いて見えた。
「じゃあ、『私たちはどんなことがあっても、きっと幸せになるでしょう〜』」
そう言って、占い師のポーズをまたとった。
「…どうしてもそこに着地したいんだな」
「気に入ってるんだけど、評判はイマイチなの」




