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「いーちーかぁーー!」 

 

 その夜、チャットのやり取りだとまどろっこしすぎて、通話の約束をした一花に花音は泣きついた。


「なになになに〜、私の知らないうちに、面白いことになってるじゃん」

「うわー、音声だけでもニヤついてるのが分かるよ」


 今朝の会話の一部始終を話すと、一花は面白そうに茶化す。

「恋とか始まっちゃう?」 


 花音は通話をスピーカーモードにして、ベッドに倒れ込んだ。

「恋とか以前の問題だよー」

「だね。赤面症のことぶっこんできたってのはびっくりだわ」

 一花は少し呆れたような声を出した。


「そんな、ほとんど話したことない男子にさ、面と向かって突っ込まれるとは思わなかったよ…」

「花音、ホント必要最低限しか男子と喋らないもんね」

「もうさー、中学時代みたいな目に合いたくなくて、そういう感じで二年間来たら、今更どうやって何喋ったらいいかわかんなくなっちゃったんだよー」

 花音はゴロンと横に転がる。


「うーん、正直、日野くんの話、強引でちょっと引くとこはあるし、ナゾ展開だけどさ。あの人、チャラ感とかリア充感はあったけど、元々嫌な奴とかではなさそうじゃん?」


「まあ、嫌な人ではないとは思う。気安くてヒエラルキー高め女子たちとは仲良さそうだけどね」

と、先日の愛菜を思い浮かべる。


 勉強もそこそこやり、コミュ力も高く、メイクやファッションに手を抜かない、女子力高め女子。

 全然嫌な子たちじゃないし、嫌いじゃないけれど、勝手に気後れしてしまう。


「うちのクラスのそういう女子は、中学の時に花音に嫌がらせしてきたような奴らとは違うと信じたいけど」

と、一花はそこで一旦区切って、

「勉強教えるのは人目につきにくい場所でやるとか対策とれるにしても、正直、赤面症治った人のリアルが分かるのはいいかもと思った」

と、真面目な声で言った。

 

 声だけだけど、真剣に花音のことを思ってくれているのが伝わってくる。 

 花音は、ベッドにゴロンと寝そべっていた体を起き上がらせて、スマホに向かって正座した。


「私も、治したいと思う。色々調べてみた中では、病院行くほどじゃないかなとは思うけど、授業で当てられても赤面しちゃうし、そうならないで済むようになれたらって、いつも思ってる」


「私は、花音が赤面してもしなくても何も問題ないと思うし、むしろ赤面する花音はかわいいけどさ」

「ちょっと。そういうのいらないから」

「イヤイヤ、マジでね。でも、それが気になって何かができないとかは本当に勿体無いと思うからさ」


「うん…ありがと」

 一花の言葉に、胸が温かくなる。


「まー、なんで日野くんが普段接点なかった花音に強引に出るほど切迫詰まってるかはナゾだけどさ」

「そんなに急に親から圧かかってるのかな」


「よく分からないけど、赤面症の話聞いて、勉強一回教えるくらいなら、やってみてもいいんじゃない?もちろん、花音のストレスにならない範囲でだけどさ」

「そだね、別に悪いことするわけでもないし」

「むしろ、勉強教えてあげるなんて善行じゃん。徳積めるよ」

 そう言って一花が笑ったので、花音も少し力が抜けた。


「徳ね!うん、徳積んで、赤面症治すヒントもらう!……でさ、一花、もし空いてたりしたら、一緒に来てくれたりしたりとかする?」

「語尾どうしたよ。ついていくのは全然いいんだけど、うーん、向こうはいつがいいんだろうね?切羽詰まってるなら、早めかな?私、今週末、来週末はスピーチコンテストの準備に充てたくてさ」

「そっかあ、そうだよね…」


 一花は少し先にある英語のスピーチコンテストに出場する予定なのだ。そのコンテストの優勝は、一花の将来の選択肢を広げるために重要だとわかるので、自分のこの程度の事情には付き合わせられない。

 一瞬、花音はそのことを忘れていて、あわよくばと一花にすがってしまった自分を恥じた。


 一花は、ホールの大勢の前で、檀上で、英語でスピーチするんだ。

 私は、一人を相手に一回勉強を教えて話すだけ。

 これから、面接とか入試もあるのに、そのくらいできなくてどうする!


「当日は、私も応援にというか、聴きに行くからね!」

 ストレートにコンテストの準備をしたいと言ってくれたおかげで、無理に付き合わせることにならなくてよかったとホッとしながら、花音は力を込めてそう言った。


「ありがと!ばっちりカマすからね!」

「一花、最高!私も頑張る!……そんな、頑張るってほどのことじゃないけど」

「いやいや、何が大変かは人によって違うんだから。お互い、少しずつ頑張ろ!」


 それからしばらくあれこれ話して一花との通話を終えると、瑛司からのLINEが来ていたのに気づいた。


『今朝は強引に頼んでごめん』

『ごめんだけど、OKだったら、返事ほしい』

『ちなみに、21時にスマホ電源切らなきゃだから、よろ』 


 最後の一文に花音はちょっと笑ってしまった。


 リア充っぽくて、強引で、それからちょっと世の中を斜めに見ていそうなのに、実はめちゃくちゃ切迫詰まっていて、小中学生みたいに親にスマホタイムまで管理されてるのかと思うと、少し笑える。 


 ふと画面の端に目をやると、スマホの時計は二十時五十八分を示していた。 

 花音は慌てて、『OK』の文字だけ入力して、送信すると、すぐに既読が付き、シンプルな土下座絵文字が返ってきた。


 

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