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「遺伝子って。時田さんのつっこみオモロ。昔っからあの二人はずっとあんな感じよ。な、瑛司」
瑛司は、暁斗の言葉にまた嫌そうな表情だけ返すと、キッチンに飲み物を取りに行った。
二十畳ほどのリビングダイニングの奥に、アイランドキッチンがある。その向こうから、
「まず何飲む?コーヒー、紅茶、レモネード、ルイボスティー、それぞれホットとアイス両方できる。あ、炭酸水あるからそれだけもいけるし、レモンシロップ、炭酸で割れるけど」
と瑛司が声をかける。
「…カフェかなんかなの?」
と一花。
花音が「手伝うよ」と言って、キッチンに行き、手を洗わせてもらってコップを出すのを手伝う。
レモネードの元のレモンシロップは、瑛司の母の手作りらしい。
せっかくなので、花音と一花はレモンシロップの炭酸割りをいただくことにし、瑛司と暁斗はアイスコーヒーにする。
「ね、さっきの日野くんのお父さんさ」
一花が話し始めたところで、花音は「うんうん」と頷いた。何がいいたいか、もう分かる。
「ふるまいがスマートで、なんか…親世代なのに全然違和感なかったね…」
続けた一花の言葉に、
「うちだったら絶対想像できないよ。想像の時点で事故、頑張ってもコメディというか…。なんか瑛司くんのお父さんとお母さんって感じだったね」
と言いながら、花音はレモンシロップを炭酸で割る。
シュワシュワと音を立てながら、レモンのほろ苦いいい香りが立ち上ってきて、思わず口の両端が上がる。
「お爺さんの方がすごかったよな。『僕のプリンセス』的なことをおばあちゃんに言ってたし、やっぱ基本スキンシップ多め。それに比べたら、親父さんは日本育ち感あるよなあ」
暁斗がダイニングテーブルに勉強グッズを広げながら瑛司をからかうようにそんなことを言うので、花音と一花は目を丸くして「プリンセス…」と呟く。
「暁斗うるさい」
とひと睨みした瑛司は、
「じいちゃんは本物のフランス人だから。フランス人がみんなそうってわけじゃもちろんないけど」
と言う。
「本物って」と花音が言うと、
「親父さんが偽物みたいに言うなよ」
と暁斗に突っ込まれる。
「父親は、ああいうところはじいちゃん譲りだけど、それ以外は日本の頭固いクソ真面目な昭和の男だから」
と言いながら飲み物を配った。
キッチンの反対側にまず一花が座り、暁斗がその横に座って待っていたので、瑛司と花音は自然とキッチン側に並んで座ることになる。
「わ、おいし」
「ほんと」
炭酸割りしたレモンシロップは、ほのかに苦いレモンの香りと、キリッとした酸味、蜂蜜の優しい甘さでとてもおいしかった。こんなのを用意してくれるなんて、暮らしのゆとりを感じてしまう。
勉強道具は出して並べたものの、もちろんこんな環境で勉強が捗るわけもなく、
「瑛司、俺の持ってきたアイスも出して~」
との暁斗の言葉に、おやつとおしゃべりタイムになる。
「花音、浅野くんの家が浅野病院て、つい最近知ったらしいよ」
向かいの一花の言葉の矛先がこちらに向いて、花音はにわかに頬がほの赤くなったのを感じる。
瑛司と普通に話す分には大丈夫になった上、ここまでのところは瑛司や一花がいて、暁斗とも一対一で話すわけではなかったので、さほど赤くはならなかった。だが、こうしてみんなに一気に注目されるとまた違う。
「う、うん、びっくり…」
少し俯きながら答えた花音の横で、瑛司が、
「よし、暁斗、見るな」
と、腰を上げて暁斗の目を手で覆う。
「えー、なんだよ瑛司。過保護だなー。てか今日の協力者にとる態度じゃないだろー」
暁斗の楽しむような声に、奥歯を噛み締めながらわざとらしい笑顔を作った瑛司が手を外すと、暁斗はそんな反応も楽しみつつ、
「それにどっちかっていうと俺は一花さんのがタイプかな」
と頬杖をついて一花に笑顔を振りまく。
「かっる!」
一花は、暁斗に向かって、シッシと手を振った。
その様子を見ながら花音が、意を決して(他の人にとっては意を決するようなレベルの話ではないが)、
「あ、浅野くんは、医学部目指してるの?」
と自ら話しかけると、向かいの一花が子どもの巣立ちを見守る親のような表情でこちらを見る。
「うん、受けるよー。出願前の模試の偏差値で受けれそうな医学部いくつか受けて、受かったとこに行くつもり」
「親からどこを受けろとかはないんだ?」
一花が聞くと、
「まあ、あったみたいだけど、今はある程度、だな。とにかく医者の免許取れってのが一番だから」
と、さらっと答える。
「そうなんだ…」
「今は落ち着いてるけど、暁斗だって反抗期やってたんだよな」
さっきの仕返しみたいな瑛司のセリフに、
「いや、俺の反抗期は瑛司と違って中学で終わってるから」
と暁斗が返す。
「ま、弟の方が医者に向いてるから、弟が医者やればそれでいいと思うんだけど、どっちかってーと、俺は分担して経営の方行ったほうがいい気もして」
「だとしても、実家の病院に携わるつもりなんだ」
頬杖をつきながら感心する一花に、
「まあね、親のことはフツーに尊敬はしてるし、将来うちの病院無くなったら、実際のところ、この地域的にヤバくない?」
と、頭の後ろで手を組んで椅子の背もたれにもたれかかりながら言う。
「確かにな」
皆が頷くと、
「誰か雇って任せてもいいんだろうけど、せっかくなら弟と頑張ろうかなーって、今のところは」
と、暁斗はさらりと言った。
「浅野さま、ありがとうございます」
と一花が手を合わせるので、花音も続いて拝む。
拝み終えて、
「将来が決められてたのって、大変?」
思わず尋ねた花音の言葉に、
「んや、今は別にかな。それこそ数年前は色々思うところもあったけど」
と、暁斗は晴れやかに笑う。
「なんか、みんなかっこいいなあ」
花音が思わずそう言うと、
「待って時田さん、その発言はマズいかな」
と、暁斗が親指で瑛司を指す。
「花音、カッコいいの?暁斗が?他に誰が?」
横を見ると、瑛司が頬杖をつきながら、微笑みを作っている。いわゆる、目が笑ってない、という状態だ。
「えっ、いや、この前聞いた愛菜ちゃんの話とかさ。一花も、この間のスピーチコンテスト優勝してたし。瑛司くんも、アプリとか作れちゃうし」
「それを言うなら花音もだろ?方向が違うだけで」
「そうだよ、花音だっていろんなことに興味持って、どんどん調べて考えを深めて展開していくじゃん。私そこまでできないよ」
「へえ、時田さんそういうタイプなんだ。いいじゃん、みんなができることじゃないじゃん」
急にみんなに褒められて、恥ずかしくなって、また顔に朱がさすのを感じる。
「いや……わわわ…あ、ありがとう」
花音は先程よりしっかり赤くなったのを自覚して、思わず両手で頬を覆った。
「うん、なんか、ちょっとだけ瑛司の性癖予想できちゃったかな……ッ痛!」
そう言った暁斗に、瑛司がテーブルの下で何かしたようだった。




