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窓とドアを全開にし、花音を横にすると、瑛司は自販機にスポーツドリンクを買いに走った。
瑛司は、二本買ったうちの一本を飲ませながら、もう片方を首の後ろに当てて冷やしてくれる。
「大丈夫か?保健室?それとも病院行く?」
「ごめんね…。大丈夫。単純にキャパオーバーなだけだったと思いマス」
暑い暑いとは思っていたし、スポーツドリンクは美味しくいただいたものの、落ち着いてみれば、完全にただのキャバオーバーなだけのような気がしてくる。
そんなことで瑛司を走らせたことに少し気まずくなった花音は、思わず体育座りになり、膝小僧に顔を埋めて、お礼を言う。
「大丈夫なら、良かった」
横で首を冷やすペットボトルを支えながら、心底ホッとしたように瑛司が息を吐いた。
「俺にも飲ませて」
ペットボトルを支える方とは逆の手を花音に差し出す。
「あ、新しいのを…」
「こっちは念のため冷やしてた方がいいだろ」
花音は慌てて飲みかけている方のキャップを開けると、瑛司に差し出した。
ゴクゴクと音を立てて飲む瑛司の喉仏が、上下に動く。
さっきのキスを思い出してしまった花音は、目を逸らして、
「ちょっと、私にはまだ早いやつだったかも…」
と小さな声で言った。
ひと心地ついた瑛司が、ペットボトルを花音に返し、
「確かに、あれはちょっと破壊力がヤバかったな…」
とまた小さな声で同意した。
風が通るように窓もドアも開け放したので、体育館の音がよく聞こえてくる。そろそろ後夜祭も終盤のようだ。一階の通路を歩く誰かの足音も聞こえるので、自然と声を潜めてしまう。
「…勉強どころじゃなくなりそうだから、あれ以上は、卒業までセーブかな。来年以降もずっと花音と一緒にいるために」
小声でそう言うので、花音は無言でコクコクコクと首を縦に振る。
ぜひそうしていただきたい。でなければ、心臓がもたなそうだ。
「あ、後夜祭のステージ終わったな」
体育館の入り口が音を立てて開き、出てくる生徒のガヤガヤで急に現実に引き戻されたような感覚になる。
「ファイヤーストームどうする?」
「うーん、そんなにがっつり参加するつもりはないんだ。瑛司くんは、約束とか大丈夫?」
「俺は何の約束もないよ」
「そうなの?一軍男子は、中心で盛り上がるものかと」
「一軍?そもそも俺一年の時しか出てないよ」
その言葉に、花音はえっ、と驚く。
「去年何してたの?」
「忘れたけど、多分バイトだっけかな?」
しつこいようだが、バイトは禁止の学校である。
「ええ?じゃあ今年はどうするつもりだったの?」
「友達とはしゃぐ花音を遠目で見て焼き付けておこうかなーと。だから、水着も着てないし。あと、帰りが遅くなるから様子によっては送って行こうかなとも」
「へえええ…」
花音は間抜けた声で妙に感心してしまった。
「何というか、視点とか視野とかが違うんだなあ」
ん?と言って続きを促す瑛司に、
「…なんかね、昼間もちょっと思ったんだけど、私、自分が傷つくのが怖くて閉じこもってた間に、随分視野が狭くなってた、というか、視野を広げるチャンスを捨ててたのかもって、反省というか、後悔というか」
と、自分の思いをついこぼしてしまった。
「視野ねえ。そんなの俺もしょっちゅう思ってるけどな」
と瑛司は返してくれるが、ちょっぴりしょんぼりしてしまう。
そのとき、遠くから轟くような歓声が聞こえて、ハッとする。
ファイヤーストームが点火されたのだ。
「あ。始まっちゃった」
「これから合流しようか」
瑛司はそう言ってくれたが、始まってしまったし、瑛司が参加にこだわりがないようなので、今年はちょっと遠くから見て帰ることに決めた。
二人は帰り支度をして、校庭の、ファイヤーストームから最も遠い側に行くと、もう辺りは随分暗くなってきていた。
コンクリートの段になっているところに、二人横並びで座る。
瑛司は、後ろに両手をついて体を支えながら、花音は自分の膝の上で頬杖をつきながら、二人とも珍しく各々無言でファイヤーストームの方を見る。
パチパチとはじける火の音。古いスピーカーに乗って聞こえてくる音割れした流行りの音楽。にぎやかな声。時折、濡れたり泥にまみれて叫ぶ声もあれば、雄叫びのようなものも聞こえる。
中心で肩車をして何かの旗を振り回す人たち。幾人もで手を繋いで駆け回る人たち。どこまで火に近づけるか試す人。ホースで水をまき散らす人。わざと泥水に突っ込む人。巻き込まれる人。外周で、仲間だけと遊ぶ人。遠巻きにして、安全なところでしゃべりながら火を見る人。全校生徒数よりは随分と少ないので、既に帰った人も大勢いるだろう。
そしてその輪に入りもせず、帰りもせずにここにいる瑛司と自分。
「瑛司くん」
「ん?」
遠くのみんなを見つめたまま瑛司に声をかけると、気配で瑛司がこちらを向いたのがわかった。
「何ていうか、私のこと、見つけてくれて、ありがとうね」




