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高校生活最後の文化祭がやってきた。
一、二年生はニ、三週間かけて毎日暗くなる時間まで気合の入った準備をするような企画も多いが、三年生は、やはり受験のため、準備負担の少ないものを選ぶことが多い。今年のC組は、毎年どこかのクラスが必ずやっている、有名チェーンのカップアイスを販売することになっていた。
花音は、一日目に一花たちイツメンと最初の販売時間になり、瑛司は、その次の最も忙しくなりそうな時間帯に、暁斗、愛菜を含めた陽キャ軍団で担当する。二日目は、逆に瑛司たちが先の時間で、次の忙しい時間帯が花音たちになった。
二日目の一般公開に紅羽の彼氏が来ることもあり、花音たちイツメンは、一日目の販売時間が終わったら、校内を一緒に回ることにしていた。そして、この学校伝統の、最後のファイヤーストームは、みんなでほどほどに冷やかして帰ろうと話していた。まのかの一件以降、結束は固い。
瑛司とは、二日目の花音たちの販売時間が終わってから、一緒に少し回ろうかという話になっていた。
一日目の朝、いつも通りの時間にクラスに着いた花音だが、ずっと先に来て迎える側になっていた瑛司の姿が見えない。今回のアイス販売の中心になった生徒が出たり入ったりしているだけだ。さすがに文化祭でざわついた朝は朝勉する気になれなかったのかもしれない、と思いながら、体調でも崩したのかと気になって、スマホを取り出す。
『 』
何て送るのが自然なんだろう。
花音の指は、チャット画面を開いたきり、止まってしまった。
発言に失敗したと落ち込んでから、つき合う前とは別の意味で、なんとなくメッセージ一つ送るのにも慎重になってしまうことがある。
そうこうしているうちに、次第に生徒が増え始め、教室は少し浮ついた空気になってきた。
「黒っ!誰かと思ったわ!」
男子の大きな声に反射的に振り向くと、髪を黒くした瑛司が教室に入ってきていた。
わ……!
花音も、声こそ上げなかったが、驚いて目を丸くする。
瑛司の髪が黒かったことなんて、あっただろうか。
「瑛司が黒いの、珍しいよなー」
同じ電車で来たのか、暁斗が瑛司の肩にのしかかるようにして瑛司の代わりに答える。
「ホントだー。どしたの瑛司?」
「なんだよ、心境の変化?」
愛菜やほかの男子に突っ込まれると、
「んー、飽きてきてたし、もうじき受験用に写真も撮るしな」
と、瑛司が返す。
それから、瑛司が自分の席に着いて少しすると、花音のスマホが震える。
『びっくりした?』
それに対して、びっくりが激しく伝わるスタンプを送る。
『大成功』
『実は、朝いなかったから、体調崩したのかと思っちゃった』
『マジか!ごめん!そのドッキリのつもりはなかった!』
慌てる瑛司に、
『大丈夫』
と送ると、続けて、
『黒いのも、かっこいい』
と送信した。
そのやり取りの向こうで、瑛司の片方の口端が弧を描いている。
『惚れ直した?』
『惜しい。一言余計かな』
そこで、一花たちに声をかけられ、花音は出店の準備と販売の確認に向かう。
限られた時間での軽いやり取りにホッとしながら、教室を出た。
そのまま、一日目は、思いのほか楽しめた。
販売のときは、最初のうちこそお客さんとのやり取りに赤面してしまったものの、周りは仲の良い友達だけだし、少し忙しくなってくると作業に集中できて、それほど恐れることはなく済んだ。
その後も、いわゆる陽キャの子たちのように文化祭の中心になって楽しむとか、こんな時ばかりはと羽目を外すような楽しみ方はできないながらも、友達とおしゃべりしながらいくつか見て周り、模擬店で食べ物を買って、人の少ない空き教室の隅で友達と分けながら、またおしゃべりする。
「こういう時の焼きそばとかってさ」
一花が焼きそばを一口もぐもぐして、花音に回す。
「よく考えたら大しておいしくもないのに、なんでか食べたくなる不思議」
「あるよねーお祭りマジック」
「これとかも」
世莉がフランクフルトを持ち上げて見せると、ガブリと齧る。
「別に買わなくてもいいのに買っちゃった」
「それは、また違うでしょうよー」
「あんなに後輩くんに熱心にお願いされちゃあね」
「うん、別の理論だね」
世莉をつつくように口々に言う。
世莉は引退した部活の後輩男子に熱烈に営業をかけられて、押されて購入していたのだ。
『先輩、今ここで食べて行ってくれませんか』
という謎の追加要求には冷たい視線を返して答えなかったが。
「でも、このアイスはいつでもどこでも安定のおいしさ…」
紅羽が、それぞれ一つずつ、売上貢献のために買った自分たちのクラスのアイスの蓋をあけると、
「わ!もう結構溶けてるよ!」
と、みんなを促す。
「あー、そりゃそうだよね!焼きそばよりこっち先だった!」
「え!先食べよ、先!」
焦る一花とまのかに、
「私はこのくらいがちょうどいいかも」
と花音は、溶け始めた外周をスプーンですくって口に入れた。
「もう暑すぎだからねー」
世莉ものんびり続いて、食べ始める。
すっかりみんなが食べ終わると、
「あー、最後なんだねー、文化祭。来年の今頃は、みんな違う場所だ」
食べ終わった紅羽がそう言って、窓の外を見上げる。
「みんなと周れてうれしかった」
ちょっぴり照れながら花音が言うと、
「そうだね」
「ホント、ありがと」
「泣かせないでよー、てかまだ終わってないし!」
と世莉、まのか、一花が続く。
せっかくなので、花音が一花に向かって、
「泣かせちゃうぞ」
と、例の水晶玉占い師ポーズを繰り出すと、一花以外のみんながそれに続いた。
「え、花音、これ、定着させるつもり?」
と一花が微妙な表情で返した。




