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六月も下旬になり、三者面談、月イチの外部模試、そして、七月最初の週末にある、高校生活最後の文化祭と続くので、クラスはどこか落ち着かない雰囲気だ。
『三者面談ダルい』
とは、瑛司のメッセージ。
『たしかに。でも避けては通れないね』
『花音、志望校H大だったよな?』
先日瑛司とそんなやり取りをしたばかりだ。
『うん、一番は、H大〇〇学部』
『俺はK大△△学部だけど』
うんうん、と頷くスタンプを送る。
『総合型選抜なら、さすがにここでもう決めなきゃで』
と返ってくる。
『それを三者面談で話さなきゃいけないダルさ』
と返ってくるので、花音はさらにまた口の端が上がってニヤついてしまった。
『三者面談が憂鬱なんて、かわいいね』
と打ったメッセージへの返事は少し間が空いて、
『親父が行くとか言ってるから』
と、倒れこむスタンプが送られてきた。
『あのウワサの』
『そう、そのウワサの』
『お父さんのお父さんがフランス人?』
『そう。性質は真逆の四角四面』
『なるほど〜』
そうして、キャラクターがギュッと慰めるように抱きしめているスタンプを送る。
すると、突然、電話がかかってきたので、花音はビクッとしながら指をスライドさせた。
「今日は電話は無しかと思ってたよ」
はっきりとは決めていないが、何となく受験勉強の妨げにならないような区切りが決めてあったのだ。
「ごめん、どうしても話したくなって」
「どうしたの?」
「今、キャンパスの場所調べてたんだけど、もし、花音がH大で、俺がK大行けたらさ」
「うん」
「住む場所にもよるだろうけど、全然会える」
「そうだね」
花音は頷く。
「…でも、お互いどちらかでも第二志望だと、めちゃくちゃ遠くなる」
「うん」
「俺は、大屋とは違うよ、花音」
「うん…ん?」
突然の第三者の登場に、一瞬引っかかり、花音は、眉を顰めた。
「まのちゃん達のこと、もう知ってるんだね」
花音は、誰かに話すことが友達の悲しみを売るようで、瑛司にも話さないでいたのだ。
「一部で別れたことは広まってるよ。大屋はほら、暁斗と部活一緒だし、暁斗に聞いた」
花音は、ああ、と納得し、
「どんなうわさになってるんだか」
と、返す。
「勉強に専念したいからって、大屋から別れを切り出したんだろ?」
「そんなキレイな物言いじゃなかったみたいだけど」
と、つい語気が強くなる。
「…それで?大屋くんとは違うって、何が?」
強まった勢いのまま、荒々しく尋ねてしまって、花音はそんな自分に対して、また眉を寄せる。
「ごめん、勢い余って言い方が……。私も、大屋くんの物言いに対して腹が立って…」
「大屋、何言ったんだ……聞いてもいいか?」
話すつもりはなかったが、大屋側からの話があまりにキレイに都合の悪いところは切り取られていそうだったので、まのかから聞いた話を伝えた。
「それは…確かにひどい言い草だな」
「うん」
「花音、もちろん俺はそんな言い方しないし、第一志望も諦めないし、そもそも花音を手放す気がない」
「……そんな言い方はしなかったとしても、受験勉強と両立は難しいのは、事実なんじゃないかな」
「花音、大屋達の話聞いて、俺とのこと迷ったり、受験との両立が不安になったんじゃないか?」
瑛司の言葉に、花音はびくりとする。
そうだ。まのか達の話を聞いて胸が苦しくなったのは、そういう感情もあったのだ。
「どうして。なんでもお見通しなの?」
思わずそう呟くと、瑛司はそれには答えずに、
「俺のことが嫌いになったとか、見限ったのでなければ、手を離さないでほしいんだ。花音がしんどくならないように、話し合いながら付き合い方探していきたい」
と、静かに言った。
「なんで…」
花音は、その言葉に思わず涙ぐんで、言葉が途切れる。
「…なんでそんなに私のことよく見て大事にしようとしてくれるの」
「えっ、か、花音…」
花音の涙声に動揺した瑛司が吃る。
「違うよ。私がしんどくならないようにだけじゃなくて、瑛司くんだってだよ!」
「私に良くしてくれるだけじゃなくて、二人ともだよ!」
「わ、わかった、ごめん、花音!付き合うってのにOKは貰ったけど、まだ自分が口説く側にいたから…」
「私、初心者だけどさ、でも、もう瑛司くんの彼女だよね?」
「そうだな、ありがと、花音」
まるで癇癪を起こした子どもが宥められているようだとも思ったが、自分ばかりが慮られるのではなくて、お互いにだ、という自分の思いは伝わったようだ。
「私に良いようにしてくれても、瑛司くんだけが我慢したら意味ないんだから、我慢しないでね」
花音は少しホッとしたものの、さらに釘を刺すように重ねると、
「……いや、でも間違いなく俺は我慢しなきゃだろ…」
と、瑛司がスマホ越しに困惑している。
「え?なんで?」
せっかく伝わったと思ったのに、なぜそうなるのか。
「…花音、どこまで分かってるのかな…。俺は最初性急すぎたの反省してるし、花音のことめちゃくちゃ大事にしたいし尊重したいんだけどさ」
「ありがとう。私だって、瑛司くんに、そう思ってるよ」
「…だけど、それと同時に、やっぱりめちゃくちゃ花音のことが欲しいんだよ…意味分かるだろ?」
そう、熱の籠った声で言われて、
「わっ!わわわわわ…」
と花音は慌てふためく。一気に顔に熱が広がる。
「な?俺が我慢しなきゃなのは、そういうこと」
「うっ、それは、確かにお手柔らかにお願いしたいけど…が、がまんって、そんなに…?」
「いやー、花音さん、十八の健康な男を舐めてもらっちゃ困るなー。今もしもリアルに目の前に花音がいてさ、花音も俺のことを少なからず想ってくれてる状況だと。しかも、受験だなんだとか何の気兼ねもなく、誰にも邪魔されない空間に、二人きりだったら?」
ふぅ、とため息が聞こえる。
「……ん、その想定だと我慢する必要あるか?」
「あああ、そっ、それは今のところ有り得ない状況だから、仮説の立て方が間違ってるんじゃないかなっ!」
最後の一言はからかいだったのか、狼狽える花音に、瑛司はクククッと笑う。
「そんな状況でも我慢するには、素数か、円周率を唱えるしかないな。相当な自制心が必要です」
「でも、別に私だって全然興味がないわけじゃ…」
「え…?」
花音のボソボソとした言葉に、今度は瑛司がフリーズする。
「なんでもない!」
「あー、うん、その、まあ、花音を大事にしたいし、卒業までは我慢するつもりだけど、たまにそういう欲が見えちゃうのは許して」




