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少し短めなので、本日はこの15話と次の16話の2つをアップします。


 瑛司の好きな食べ物はカレーで、嫌いな食べ物は生クリームらしい。

 カレーが好きだという言葉で、おかわり小学生男子を思い浮かべ、なんだか意外でかわいいなと花音が思いかけたところで、カレーはカレーでも最近はタイカレーのアレコレだと言うので、おかわり男子のイメージは雲散霧消する。結局、生クリームが嫌いというのも、何となく元々のイメージから逸脱しないなあと思う。


 その日、最近のそんな些細なやり取りを思い出しながら、ぼんやりとしていた花音がトイレから出るところで、駆け込んできた誰かが肩にドンっとぶつかった。


 すっきりしてトイレから出てくる瞬間なんて、何の心構えもしていない、ゆるゆるのノーガード状態だ。

 思いがけないタイミングで、脳に電気信号が走ってハッとする。


「わ!ごめん!だ、大丈夫?」

 花音が反射的に声をかけると、同じC組のまのかだった。


 泣いてる。


「ご、ごめん!大丈夫!」

 まのかはそれだけ言うと、個室に駆け込んでしまった。



 ざわざわした気持ちでクラスに帰ると、一花を含む、まのかと仲の良い数人の女子が困惑した表情で残されていた。まのかは、花音にとっても、複数人で一緒に買い物や食事に出かけるくらいには仲が良い。ふと、先日、みんなでお揃いで買ったリップが脳裏に浮かんだ。


「今、トイレでまのちゃんと会ったんだけど…」

 花音はたまらず、声をかけた。

「花音…」

 まのかと特に仲のいい世莉(せり)が、こちらもまた涙目で振り返り、その背中を一花がそっと支えるように触れた。

「花音、ひどいんだよ、大屋くん、勉強の邪魔になるって、まのかのこと…!」

 紅羽(くれは)は、周りに聞こえないように小声ながらも、怒り心頭といった様子だ。

「何があったの……」

 おだやかグループの初めての事件に、花音は困惑した。



 まのかは、一年の頃からA組の大屋(おおや)くんと付き合っていて、学年中が知る爽やかカップルだった。 その大屋くんが、よりにもよって、まのかとの付き合いが受験勉強の邪魔になるという言い方で、昨夜別れを切り出してきたらしい。

 今日のまのかが何となく元気がなく見えたので、休み時間に世莉が話しかけたところ、まのかが何気ないことのように話そうとしてつい泣けてきてしまい、教室を飛び出したということだった。


 花音は、話を聞くうちに、胸がギュッとなり、知らず知らずのうちに左手で服の胸の辺りを掴んでいた。


「あんなに仲良く、長く続いてたのに、そんな別れ方有り得るの?」

花音が思わず、そう口走ると、周りの皆も頷いた。

 去年の文化祭だって、理想のカップル賞みたいなのに選ばれていたのに。


「別れるしかなくても、『邪魔』だなんて言い方、わざわざする必要ある?」

 一花が静かに吐き捨てるように言った。


 まのかは、その次の授業に戻ってこなかった。まのかが授業をサボるなんて、初めてのことだった。



 授業の後、世莉、紅羽、一花、花音の四人でまのかを迎えに行くと、まのかはトイレから出てすぐ脇の廊下の窓を開け、その窓枠に頬杖をついて泣き腫らした目でぼうっと外を見ていた。


 その姿を見て、四人はハッと息を飲んだ。

 トイレのすぐ傍なのに、まのかの周りだけ切り取られた映画のワンシーンみたいだ。やけに儚く綺麗に見えて、それが妙に心を波立たせる。


 それから、誰が決めたともなく、紅羽と花音がまのかの荷物を取りに動く。花音はついでに自分の持っていた予備の新しいマスクを手に取った。一花と世莉は、まるでまのかを守るかのように両側に周り、みんなで下駄箱のところまで送った。まのかは体調を崩して早退したことにする。


「大丈夫、マスクと髪で結構隠れるよ」

「今日よく学校来たよ。えらかったよ」

「今日は勉強なんかしないで、食べたいもの食べてダラダラして、自分を甘やかすんだよ!」

「あとで電話するからね」

「気をつけてね!」

 口々に声をかけると、まのかは、みんなありがと、と弱々しく微笑んで帰っていった。



 四人は口数も少なく、重い足取りでクラスに戻った。

 事情を知らないながら、何かがあったことを察した瑛司が気遣わしげに花音を見たが、花音は曖昧な表情でそれをかわして席についた。


 その日の夜、花音はとても瑛司とやり取りする気にはなれなくて、

『体調悪いから早く寝るね』

とだけ送り、返事も見ずにスマホを放置した。

 ボフン!とベッドにダイブして、そのままうつ伏せでじっとする。

 言葉にならない何かが、ずっと小さく喉元に引っかかっているような、嫌な気分だった。





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