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その後、体勢を立て直した瑛司と階段を下り、図書館の外に出た。
木の葉が風に吹かれて擦れ、ザワザワと音を立てている。
「結構、風あるね」
そう言いながら花音が羽織っただけの薄手のパーカーのファスナーを閉めると、
「風なくなっても家まで閉めてて」
と瑛司が言った。
「その…、肌、見えるの心配」
少しだけ言いづらそうに、口元に手を当てて目線を泳がす。
その反応に花音は少しドキっとして、パーカーの上からお腹に手を当てて頷いた。
そのとき、向こうから業者らしき作業着を着た男性二人組が、何やら仕事の話をしながらこちらに向かって歩いてくるのが二人の目に入った。図書館の工事の関係者だろうか。気づけば、他にも測定機器のようなものを持った作業者が数人いる。
そんな他者の気配があったせいか、花音と瑛司はそれ以上の言葉を継がず、静かに歩き出した。
図書館の敷地を抜けると、木々のざわめきが次第に街のざわめきに変わり、狭い歩道に入ったところで、二人の指先が不意に触れた。
指先だけがツンと二回ほど触れたので、花音が戸惑って少し離れようとする。すると、瑛司の指がそれを追いかけて、花音の指を絡めた。
今までのように、逃がさないとばかりにがっちり繋ぐのではない、簡単に解ける指先だけの繋がり。きっと簡単に解けるのに、花音の指は絡まったまま妙に緊張して固まってしまった。
頬にじんわりと熱を感じる。
こ、これはこれで恥ずかしい…。やばい、絶対また赤面してるっ!
赤面を隠す癖がついている花音は、無意識のうちに俯いてしまった。
「……花音、俺たち、付き合うってことでOK?」
そんな花音の心を知ってから知らずか、瑛司が絡めた指をほんの少し自分の方に引きながら、そう切り出した。
その言葉に、花音は俯き加減の首を傾げて、キャップのつばの陰から瑛司の顔を見上げる。
瑛司は、緩んだ頬と真剣な目つきの組み合わさった絶妙な顔をして、歩きながらチラチラとこちらを見ている。
それを見たら、なんだか猛然とこそばゆい気持ちになって、口のあたりがむずむずする。
さっきのとんでもない口説き文句や初めてのキスより、こちらの方が随分と一般的で初歩的なはずなのに、ものすごく、ものすごくこそばゆい。
花音は小さく一言、うん、と答えた。
「……ぅっし!」
花音の答えに、瑛司は何とも言えない声を出すと、絡めた指先に力がこもり、反対の腕で口のあたりを覆っている。口元が、絶対に緩んでいる。
反対に、花音の頬の熱は落ち着いてきていて、今日は色んな瑛司を見るなあ…となんだか微笑ましく思う。
「あ、でもさ」
「…でも?」
「付き合うって何するのかな?」
花音の素朴な疑問に、瑛司が一瞬固まり、
「何って……イロイロ?」
と、動揺したような声が返ってくる。
「何となくのイメージだけど、みんな例えば、映画見に行ったり、カフェでおしゃべりしたりとか、お出かけデートするのかな?でも、私たち受験生だから、そんな頻繁にお出かけしてる場合でもないかもなあと」
「あー、うん、まあ、それは確かに」
平静を取り戻した瑛司が真面目に返し、
「じゃあ勉強会は?あと、たまには夜、声聞きたい」
と、提案してきた。
花音には、どのくらいなら勉強に影響が出ないかも、自分がどのくらい瑛司と時間を共有したいのか、まだ想像もつかない。素直にそう伝えて、二人であれこれ相談した。
結局、ざっくり決めてあとは運用して様子を見ることになった。
口説かれるでもなく、試されるようでもなく、初めて瑛司と横並びの状態で物事を決めた気がしたので、花音はなんだか心がほっかりとする。
「あとさ…、俺はいいというか、むしろうれしいんだけど…。花音は、俺とのこと周りに知られてもいいか?」
瑛司が少し気遣うように問うた。
「そっか、…ちょっと周りの反応が怖いけど…うーん、どうなんだろ。あえて言いふらさないとしても、隠すのはなんか、瑛司くんに悪いというか…」
一言ひとこと、考えながら答えた花音に、瑛司は、
「無理させたくないけど、素直にうれしいよ」
とはにかんだ。
結局、暁斗と一花には伝えて、あとは自然に任せ、聞かれたら答えることに決めた。
そうこう話しているうちに、駅は目の前だ。
「はぁ〜。なんか急展開だったし、初心者だし、全てが未知だし。瑛司くんの好き嫌いすらまだよく分からないし」
「好きなものは花音。嫌いなものは、狭いところ?」
「食べ物を想定したんだけど…。まあ、狭いとこは私も嫌だな」
「段々知っていってよ。俺も花音のこと、もっと知りたい」
「うん、そだね。色々教えてね」
花音が笑顔で返すと、何がひっかかったのか、突然、瑛司が立ち止まり、絡めていた手を固い恋人繋ぎに変えた。
「…今めちゃくちゃ抱きしめてキスしたい」
「何でスイッチ入った!?だめ!人前ではやめて!迷惑!公害!私、初心者だってば!」
焦って、止まった瑛司を引っ張る花音に瑛司はニヤッと笑った。
「うん、全部俺が教えるからな」




