7-13. 【閑話】ディートリヒの熱量
オレとファウスト様の出会いは――正直、あまり良いとは言えないものだった。
「ディートリヒ、お前には第二王子の護衛についてもらう」
代々続く騎士の家系、ワーグナー家の三男坊。騎士としての資質は、そこそこある方だと思う。
にも、関わらず! 悪い噂の耐えない第二王子の護衛を任されるなんて、何の冗談だろうか?
いつもなら、兄上の決定に異を唱えたりしないが、この時ばかりは思わず食い下がったのを覚えている。
「なぜ、わたくしなのでしょうか? 他に適任がいらっしゃるのでは?」
「うーむ、私もそう進言したのだが……第二王子たっての希望だそうだ」
冷遇されている王子とはいえ、護衛騎士の一人くらいは与えてやろうという、王からの温情だろうか。とはいえ、オレは第二王子と会ったこともなく、遠くから見かけた程度で、面識は皆無だ。
プラチナブロンドの髪色に、澄んだ青色の瞳。第二王子は、どこからどう見ても、王や側妃とは似ても似つかない色を持つ子供だった。
そんな出自の怪しい王族の護衛に、ワーグナー家の人間をつけるだなんて!
ワーグナー家の人間は、短命で知られている。だいたいが二十代前半で亡くなるのだ。けれど、短命であるかわりに、剣技に突出した才能を持ち、代々王の側近として仕えてきた。
今現在、父上はとうの昔に他界し、若干二十歳の兄上が家の長として家督を継いでいる。
我が家の平均的な寿命を考えれば、オレもあと十年ほどの余命だ。それを? 第二王子に? 使えと?
「くそくそくそ……なんでオレが第二王子なんかの護衛に……ありえない、何かの間違いだ……」
「ディートリヒ、本音が漏れてるぞ」
指摘されて、オレは口をつぐむ。兄上は大きくため息をつくと、二つのグラスに真っ青な液体を注ぎ、一つをオレに手渡した。
「今日はまだ飲んでないだろう?」
「はい」
「こんな薬じゃぁ、祝杯……とも言えないが、お前の成功を祈ってるよ」
兄上と軽くグラスを合わせ、オレは中身を一気に飲み干した。
くそまずい。
◆
「なぜ、君を選んだかって? まぁ、ちょっと、僕の実験に付き合って欲しくてさ」
目の前の王子は、そう言って朗らかに笑った。五歳の子供にしては、あまりにも流暢で、理路整然とした口ぶり。一言で言えば、不気味だった。
オレは挨拶もそこそこに――今、思い返せば無礼にも程があるが、なぜ自分を選んだのかとファウスト様を問い詰めてしまった。
「ディートリヒ……あぁ、ワーグナーっていうの? 僕の弟子と同じ名前だ」
「……はぁ?」
「いやだなぁ。そんな怪訝な顔しないで」
ファウスト様は無礼千万なオレの態度を咎めることもなく、おおらかな態度で机の上にある小瓶を示した。中身はたぷたぷと揺れる、青色の液体。毎日飲む、あのくそまずい薬に似ている。
「これ、見覚えない?」
「……ある、と言ったら?」
「やっぱり!」
ファウスト様は楽しそうに手を叩くと(その行為は年相応の子供に見えた)、わくわくした様子で、小瓶を手に取った。
「君たちの家のことを教えて欲しいんだ。これ、錬金術で魔物から抽出した液体でしょ? 君たちは短命から逃れるために、飲んでるみたいだけど、実は逆なんじゃないかという仮説を立てていてね。この薬は元々は、寿命と引き換えに剣技を強化するためのまじないとして導入されたものじゃないかなって。錬金術と魔術の合わせ技、そして、代々続く儀式、そう思えばそうなる、の延長で――」
「ちょ、ちょっと、待ってもらえます?」
矢継ぎ早に飛んでくる言葉の一欠片も理解出来なかった。オレは混乱する頭で、問い返す。
「要するに?」
ファウスト様は得意気に、その唇に弧を描く。
「僕が、君たちを早死にの宿命から救ってあげよう」
◆
「というのが、わたくしとファウスト様の馴れ初めで、その後はファウスト様の仰る通りあのくそまずい薬が――」
「騎士の兄ちゃん、話しながーい」
教会に誘拐された少女を送り届ける旅路。長時間の移動を無言で過ごすのはつまらないだろうと、ファウスト様の素晴らしいところを語っていたのだが、足りない。圧倒的に、時間が足りない。これでは、ファウスト様の良さを伝えきれない。
「まぁ、聞くといい。馴れ初めの後は、我が家を救ってくれた救世主ファウスト様、王に進言し各地の危機を収める大賢者ファウスト様、王宮内の魔物騒ぎを圧倒的魔術で捻じ伏せる天才魔術師ファウスト様、新たな生命の誕生を模索する偉大なる錬金術師ファウスト様、そして――」
「もういいよー! 飽きた! はやく、おうちに帰りたーい!」




