エピローグ……?
幼い頃から、何度もお母様に聞いた話がある。
それは、お母様とお友達、それからお父様と、王子様。
そして――クロノス様がもたらしてくれた、守護天使様の話だ。
お母様はそのお話をするとき、とても懐かしそうな、そしてどこか、少しだけ寂しそうな顔をする。
やがてお母様は一冊の本を書いた。
その本の名前は、『灰かぶりと王子様』。
主人公は――お母様ではなくて、お母様のお友達の、明るくて愉快なコゼットという女の人。
本の中のコゼットは、現実のコゼットとは別人みたいに大人しくて、なんというか女らしい人だった。
私は本物のコゼットの方が好き。
いつも変な武器を持っていて、強そうな男の人を従えて武勇伝を話してくれる、お金に目がないコゼットが好き。
本の中のコゼットは、大人しいもの。
そして、本の中に出てくるお母様は、何故か悪者なのよね。
お母様は王子様の婚約者だったのだけれど、王子様はコゼットを選んだ。
お母様は婚約破棄されて、王子様とコゼットは結ばれて、めでたしめでたし。
「まぁ、お母様にはお父様がいますから。王子様なんてお呼びじゃないですけれどね」
私は何度も読み返した本を枕元に置いて、天井を見上げる。
アリスベルお母様とオスカーお父様は、とっても仲睦まじい。
お父様は寡黙だけれど、アリスベルお母様の前では表情が柔らかくなる。
お母様はいつも幸せそうで、万年新婚みたいな二人が私の憧れだった。
「婚約破棄かぁ」
私の脳裏に、今日見た光景が思い浮かぶ。
王子様や有力貴族、見目麗しい男性たちに囲まれて、困った顔をしている子爵令嬢の姿だ。
名前は、なんていったっけ。
あんまり興味がないから、思い出せないわね。
「私には関係ないけど、大変そうですね。まるで、この本の中の出来事みたい」
お母様の本に書かれている状況と、私の今おかれている状況はとても似ている。
ただひとつ違うのは、私には婚約者がいないということ。
私は無関係だけれど、大変つらい思いをされている方もいらっしゃるだろう。
「どういうつもりなのでしょうか。婚約者のある方を誘惑するなんて。お母様の書かれた話は、結構よくあることなのでしょうか。婚約者、いなくてよかったです」
私は、マリア・ストライド。
王立学園に入学したばかりの十六歳。
聖クロノス騎士団長であるストライド家の長女として産まれた。
もちろんそんな私ではあるので、婚約者がいるのは普通のことなのだけれど。
お母様の計らいで、私は自由にして良いと言われている。
つまり、自由恋愛。
自由って素晴らしいわよね。
だって、子爵令嬢に群がる男性たちを見て、ぎりぎりしなくて良いもの。
「それにしても、……自由恋愛というのも、難しいですね」
小さく溜息をついた。
お父様もそうだけれど、私の兄や弟たちも、見目麗しくて性格が良い。
良い男を見過ぎたせいか、中々興味を持つことができる男性がいないのよね。
『なぁに枯れたこと言ってんのよ!』
私は吃驚して大きく目を見開いた。
――私の頭の中で、誰かが話をしている。
これは、――これは。
お母様のお話と、一緒だわ。
艶がある女性の口調だけれど、野太く掠れた圧の強い、この声。
「もしかして、マリアンヌちゃん……?」
『そうよおおお……! あんた、アリスちゃんの娘でしょ、見れば分かるわよ! 恋の堕天使マリアンヌが来たからにはもう大丈夫、あんたの恋愛、ばっちり見届けてあげるわ~!』
私の脳内で、守護天使マリアンヌちゃんが『アリスちゃん、幸せになったのねぇ!』と、ものすごい勢いで泣きはじめる。
私はしばらく唖然としたあと、くすくす笑った。
――お母様に、教えてあげなきゃ。
だってずっとお母様は、――もう一度声を聞くことができることを、信じて待っていたのだから。
今読み返すとかなり読みにくいので、大きく変えていませんが改稿させていただきました。
楽しんでいただけたら幸いです!
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ありがとうございました!




