同行者はだれを選びますか?
部屋に戻った私は、着替えをすませるとベッドに横になってお兄様から貰った腕輪を眺めた。
角度を変えてみると、赤い宝石が妖しく煌めいてみえる。
魔法の使い方は魔石が込められた魔法道具があればさほど難しくないという。
魔族の方々は呼吸をするように魔法が使えるけれど、私たちの場合は道具と呪文で成り立っている。
力ある言葉を唱えることで、魔石の中の魔力が反応する。
実際に使ったことはないし、家の中では危険だから使えないのだけれど。
『あたしってば、てっきりあんたとオニーサマは不仲なのかと思ってたわ。あたしの知ってる話の中じゃ、全然出てこないんだもの。たとえば、レオンルートの場合あんたはコゼットをねちねち正論で攻撃するんだけど、ソルトはレオンの友達とか、あんたの兄ってぐらいしか情報はないのよ。でも、アリスちゃんのことを心配してくれてるんじゃない、ちょっと自由人すぎる気がするけど、良い家族を持ったわね』
「マリアンヌちゃん。やっとゆっくり話せますわ。声に出さないと、何だか落ち着かなくて」
『口に出さなくても会話はできるんだけどね。でも、あたしも二人きりで話してた方が気が楽よ。アリスちゃん、今日もおつかレインボ~』
「はい、今日も一日お疲れ様でした」
『ところで、さっきのあんたたちの話聞いてて思い出したんだけど。レオンやティグレの母親って、半獣族のお姫様でしょ?』
「えぇ。そうですわ。確か、三番目の姫かと。ロザリンド・リンドブルム様、今は、ロザリンド・クロイツベルト様ですね。ご挨拶はしたことがありますけれど、あまり人前には出ませんわね」
『半獣族の王族ってやたら選民意識が強いのよね、確か。リンドブルム家は半獣族同士でしか結婚をしないのに、ロザリンドは嫁がされてずっと怒っているんじゃなかったっけ?』
「王家のことは、噂でも悪く言ってはいけませんわ。ロザリンド様はリンドブルム家から来ておりますから、国際問題にもなりかねませんし。国王陛下との仲は良好と聞いたことがあります。それに、ロザリンド様は私のために教師を派遣してくださったのですよ」
『あんた、さっきの話聞いてた? あんたのオニーサマは性悪半獣姫とか何とか呼んでたわよ?』
「お兄様は、昔から自由ですから……。私は王妃様に嫌われているとは、思っていなかったのですけれど……。嫌われるほど会う機会もありませんでしたし」
『アリスちゃんが気に入らないっていうよりは、自分の息子と結婚する女にケチつけたいだけよね。つまり、親馬鹿よ。子離れできないのよ。たまにいるのよ、そういうコワァイ姑って』
「レオン様が可愛いから、ということですのね?」
『そうじゃない? それに、レオンには半獣の特徴があるし、半獣族と結婚させたかったんじゃない?』
「ティグレ様は?」
『ティグレは次男だからねぇ。長男ってのは特別可愛いのよ。長男に執着する母親ってのは、よくある話よ。そうねぇ、あたしの知ってるコゼットとレオンの話じゃ、ロザリンドお母様はコゼットの味方だったわね。性悪教師を使って虐めてもしれっと乗り越えたように見えたあんたが、気に入らなかったんでしょうね』
「マリアンヌちゃんの知るお話では、コゼットとレオン様は末長く幸せに暮らすのでしょう?」
『そうそう。婚約者であるあんたを追い出して、皆に祝福されて幸せになるわよ。ご都合主義よね~。特にロザリンドとの諍いの描写もないし、問題は起こらなかったんじゃないかしらね。知らないけど』
私は腕輪の丸い穴の中から、天井を覗き込んだ。
当たり前だけれど、そこには白い天井しか見えなかった。
『それよりも、あんた本当に魔石集めに行く気? あんたの自分探しに、魔石集めって必要?』
「お兄様に頼まれてしまいましたし。私、気付いてしまったんですけれど、自分で目標を探すのが苦手なのですわ。お兄様に魔石採集を頼まれて、心が軽くなったといいますか。だから、外出の目的としては良いかなと思っていますの」
『そこは普通デートとかぁ、ショッピングとか、ご飯食べに行く~、程度のもんでしょ。何で外出にまでアルバイト感を求めちゃうのかしらねぇ、あんたは。貧乏性なのねぇ、きっと』
「私、裕福な家庭で育ちましたわ」
『性格の話よ。遊ぶのが苦手なのよ。まぁ、それであんたの気が晴れるなら、あたしは良いと思うわ』
「はい! マリアンヌちゃんのおかげで、私今日も無事に過ごせましたわ。明日は、オスカー様に外出の同行のお願いに行こうと思います。オスカー様なら王都周辺の地理に詳しいでしょうし、週末以外の日の実戦訓練所の使用許可も頂きたいですし」
『オスカー様に! 会いに行くのねぇ!』
「お兄様から魔晶石の腕輪を頂きましたし、練習もしたいと思っておりますわ。学園で飼育されている魔物は、三学年の騎士科が管理していますの。オスカー様は騎士科学科長ですから、話が通りやすいかと思いまして」
『んふふふっ、こうしちゃいられないわ! アリスちゃん、早く休んでよおおく寝なさい! お肌も髪も艶々にしておくのよ、それが推しへの礼儀というものだからね!』
「わかりましたわ、身嗜みは大切ですものね。王妃を目指さないとはいえ、だらしない姿はみせないように気をつけますわ」
『そうよ~、あんた可愛いし美人なんだから、磨けば磨くほど光るわよ! 一番良いのは恋をすることだけどね~! うーん良いわねぇ、明日も楽しみねぇアリス~!』
「はい、マリアンヌちゃんと出会ってから、毎日楽しいです」
『奇遇ね~、あたしもよ~!』
きっと明日も良い日になる筈だ。
色々あるけれどきっと大丈夫。
私にはマリアンヌがいてくれるのだから。




