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茶番のような断罪劇に巻き込まれる・6

少し残酷な表現があります。

 聖女召喚の儀式というが、方法は残酷だ。


 もともとは『聖魔法』の遣い手が誕生しない他国の上層部や魔法師たちが、グリース法王国に対抗する為に心血を注ぎ作り出した召喚魔法で、100の『清らかな魂』を捧げる。

 それらを受け止めた聖なる存在……つまり異世界の聖女が降臨する。

 なぜ聖なる存在(イコール)聖女なのか?という考えはともかく、『清らかな身体』でなく『魂』というものを集めるのが難しい。

 そして、そんな『魂』の持ち主が100も奪われるのは人として心苦しくなる。

 だからその召喚方法に異を唱えた者たちが外部に洩らした。

 情報を掴んだグリース法王国のご先祖たちは召喚魔法の方法を奪いがてら、その国を滅ぼした。

 しかし詳しい方法を知って使えない。と判断した。

 100もの『清らかな魂』の持ち主を探し出すのも大変だが、それらを失って絶望する民衆の怒りのほうがもっと大変だと理解したからだ。

 よって、使い道のない愚かな召喚魔法として封じられていたはずだった。

 それをなぜ?

 3年前に聞きたかった答え。


「ジョシュア」


 この部屋で発せられる私の言葉には凄まじい強制力があるのだろう。

 力なく座っている様子は変わらないけれど、ジョシュアはしっかり話し出す。


「母上は、法王家直系の王女という出自をとても誇りにしている。だから結婚相手を周辺国の格下王子ではなく、法王家に連なるオーリー侯爵家を継ぐ父上にした。と常々言っているくらいだ。

 だから母上は法王猊下を嫌っている。

 身分の低い女から生まれた庶子なのに、『聖魔法』の遣い手だったことから誰よりも尊い存在として崇められているから」


 それから始まったジョシュアの話を纏めると、ティルダは法王家がどうして法王家と呼ばれているのか。

 その根源を思い違いしていることが分かった。


 ジョシュアの母親ティルダは、アレスティラ様が嫌いだ。

 ティルダにとって祖父にあたる先代の法王家当主ジェローム(私とジョシュアからすれば曾祖父(ひいじいさん))が、下級貴族の若い娘に手をだして生まれた存在だからだ。

 ティルダにしてみればアレスティラ様は2つ年下の叔父にあたるのだが、もちろん内心は認めていない。

 150年ぶりに誕生した『聖魔法』の遣い手に民衆は熱狂し歓迎しているが、下賎な女から生まれた子供……として見ているのだ。

 それに対して自分は法王家当主の孫娘として恥ずかしくない血統を引いている。それなのに民衆は王女として敬ってくれるけれど、それだけ。

 それが腹立たしく憎い。

 ティルダがそういう風に育ったのは、彼女の母親であるシルヴィア(私とジョシュアからすれば祖母)のせいらしい。

 由緒正しい貴族出身のシルヴィアは『聖魔法』の遣い手誕生に喜び浮かれる法王家当主(舅)ジェロームに「遣い手を生んだのは私が目をつけた騎士爵の娘」と何度も言われて深い怒りを抱いた。

 当主ジェロームの妻……要は姑が生きていたら事情は違っただろうが、すでに他界していた。

 法王家の女主人は次期当主マクミラン(現宰相で、私とジョシュアの祖父)の妻であるシルヴィアだったのだ。

 彼女は表に出せない感情を一人娘のティルダに繰り返し向けて育てた。

 ティルダも自分を認めてくれない周囲への不満を母親に愚痴り続ける。

 前世でも見掛けたことのある共依存、一卵性母娘(おやこ)の完成だった。


 しかし状況は変わった。

 シルヴィアの二人の息子から、それぞれ『聖魔法』の遣い手が誕生したのだ。

 長男ラザラスと妻ヴェロニカからは(レンフィールド)が、次男フィリップと妾レイチェルの間にはヴィリジアンが生まれたのだ。

 シルヴィアは自分の孫から2人も遣い手が誕生したことにより、亡くなる間際のジェロームから見直され、法王家の女主人としての自信と輝きを取り戻した。

 そして……ティルダに言った。


「わたくしの愛しい三人の子供たち。

 ラザラスは次期法王となるレンフィールドを。

 フィリップは政略的に何でも使えるヴィリジアンを。

 それぞれ法王家に与えてくれたわ。

 ねぇ、ティルダ。

 貴女は何を与えてくれるのかしら?」


 共依存、一卵性母娘の崩壊であり……毒親の本性が発揮される。


「ああ、ごめんなさいね。

 貴女はもう、法王家の人間ではなかったわね」


 ティルダは法王家直系の王女である出自(プライド)を折られた。

 それも今の今まで、ただ一人の味方だと思っていた母親に……。

 更にダメ押しとばかりに言われる。


「本物の法王家の人間とはね、配下の者に血の忠誠を誓われるのよ。

 貴女はそんなことも知らないし、されたこともないでしょう?

 さぁ、もうお帰りなさい。

 貴女の家、オーリー侯爵家に」


 ティルダには、もうジョシュアしかいなかった。

 まずは何としてでも息子を出世させる。

 その為に次期法王の側近にさせる。

 次は『聖魔法』の遣い手を生む可能性の高い女性と婚姻させる。

 そうはいっても、遣い手が生まれるのは規則性がない。

 法王家の血筋から誕生する。

 それだけだ。

 悩んだ末に、昔マクミランが言っていた他国が開発したという聖女召喚魔法を思い出した。

 宮殿内でも使えない書物は扱いが乱雑だ。

 ティルダは聖女召喚の儀式の方法を記した書物を手に入れた。

『清らかな魂』を『清らかな身体』と思った彼女は、まだ手をつけられていないと思われる10歳以下の孤児たち100人を集めた。

 そして───3年前の聖女召喚の儀式となる。


 叔母ティルダだけが悪いのではない。

 祖母シルヴィアも悪い。

 曾祖父ジェロームも悪い。

 法王家が法王家と呼ばれるのは、法王となる『聖魔法』の遣い手が誕生する唯一の家系だから。

 血の忠誠だって法王家にするのではない。

 法王個人にするのだ。


「聖女召喚の儀式といっても召喚された者が必ずしも『聖魔法』の遣い手とは限らない。そんなことに……」


 100人の孤児たちが使われた。

 私は溜め息をつく。


「でもレンフィールド様。『聖魔法』の遣い手であるサラが来てくれました。母上が言ってましたよ」

「何を?」

「サラなら『聖魔法』の遣い手を産める可能性が高いって」


 夢見るようにジョシュアは笑う。

 怠いはずの身体なのに、蹲ったままのサラを見つめる。


 そうだ。

 その話も聞かないとって思っていたんだ。

 あまりに3年前の儀式に絡む話が酷くて、忘れそうになっていた。

 だいたい予想はついてきたけれど……。


 また溜め息が出た。





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