茶番のような断罪劇に巻き込まれる・5
エンドレス·ルームは宮殿の地下2階、奥にある。
全てをさらけだすまで出られない尋問部屋は、拷問部屋とは違った意味で恐れられている。
私が到着すると、近衛兵たち、侍従、侍女が礼をとって迎える。
前列にいた近衛隊長が恭しく巻物を差し出してきた。
中身は祖父である宰相マクミランからの出頭命令……いや、パーティーであったことを聞きたいから部屋に来てくれるか?というものだった。
「こちらの用件を済ませてから、お伺いすると伝えてくれ」
今回も、うやむやにしようとしている連中に会いに行くつもりはない。
私が巻物をインベントリにしまいながら返事をすると、近衛隊長は動じることなく礼をして祖父の元に向かった。
「やあ、待たせたね」
エンドレス·ルームの中は『聖魔法』の遣い手を除いて、魔力が封じられるように造られている。
魔力を持たない存在はいない。
だから彼らの保護者たちは邪魔したくても立ち入って来ない。
この部屋は『聖魔法』の遣い手による断罪部屋なのだ。
断罪部屋といっても無粋な室内ではなく、見た目だけなら王侯貴族を迎えるのに遜色ない造りだ。
床には毛並みの良い豪華な敷物。
壁には一流職人の手による素晴らしい絵画やタペストリーを飾ってある。
おまけに心地良い感触の腰掛けを幾つも置いて、どこでも好きな場所に座れる。
ガラステーブルの上にはグリース法王国の国章とグリエス法王家の家紋をあしらったレースの織物。
灯りは天井からでなく、並べられた絵画やタペストリーの間に設置した間接照明。もちろん絵画などが傷まないように、蝋燭ではなく火の魔石をガラスケースに入れて使う。光が乱反射して幻想的な雰囲気を出してくれるのだ。
2年前にアレスティラ様から譲り受け自分で内装を調えたのだが、なかなか良い趣味の設えだと思う。
「レンフィールド様……。この部屋は何なんですかぁ? すごく体が重いんですぅ。こうして話すのもキツくて……」
サラがソファーに横たわったまま話してくる。
大したものだ。
やはり微々たるとはいえ『聖魔法』を持っていると違う。
ジョシュア、アーサー、ルイスは椅子に座ったまま話すこともできず、視線も虚ろだ。
私が近衛兵に命じた「4人をエンドレス·ルーム内に連れていけ」は『聖魔法』を使った。だからこの部屋に連れて入るまで、彼らは魔力を遮断されない。でも役目を果たしたらこの部屋は苦しい。よって彼らは扉の前で待っている。鍛練を積んだ騎士や兵士、格闘家、魔力が少ないといわれる亜人さえも、ここでは無力になるらしい。……大昔の文献によると。
「ここは秘密を話すには都合の良い部屋なんだ」
「そうなんですかぁ? でも、あたしぃ、秘密なんてありませんよぉ……」
サラはそう答えたが、ジョシュアたちは違った。
虚ろだった目に意識が戻る。
「そうか。サラ嬢に秘密はないか」
「ありませんよぉ~。だいたい難しい話は分からなくてぇ、ジョシュアと、アーサーと、ルイスが、話してるのを聞いてただけですぅ」
「では質問を変えよう。今夜のパーティー、どうしてエリザベス嬢にあんなことを言ったのだ?」
サラよりジョシュアたちのほうが青ざめる。
しかし思うように動くことも話すこともできないから、懸命にサラを見つめるだけだ。
「えー? レンフィールド様がぁ、そうしてくれって、お願いしてきたんでしょう?」
「そうなのか?」
「そうですよぉ~。忘れちゃったんですか? ジョシュアたちが言ってましたぁ。レンフィールド様がお願いしてきたって~」
てっきりサラがネット小説でありがちな勘違い聖女で、この世界を乙女ゲームに見立てジョシュアたちを巻き込んで暴走したのだと思っていたが……。
ジョシュアたちがサラを唆して暴走させたのか。
この部屋では、個人の意思は魔力と共に封じられている。
聞かれるままに真実を話してしまうのだ。
対象相手を自害させることなく白状させる為に造られた部屋。
領土拡大の為に戦争を繰り返していた頃は大活躍だったそうだ。
あらゆる拷問に耐性のあった間諜も、主の為なら身代わりとなり自害も辞さなかった英傑も、この部屋に入れられ『聖魔法』の遣い手の前では何でも答える従順な犬となった。
残念ながら『聖魔法』の遣い手が不在の時代には尋問部屋として使えないので、代わりに魔力を封じて適度に衰弱させる為の部屋として使用していた。とも書いてあったな、大昔の文献に。
彼らにも尋問をしたいが、もう少しサラに聞いてからだ。
「それでサラ嬢は受けたのだな?」
「そうですぅ。だってレンフィールド様はあたしが好きだけど、エリザベス様に言い出せないから~。あたしがエリザベス様にされた意地悪を皆の前でバラしたら、きっと感謝して結婚してくれるって……」
「ジョシュアたちに言われたのか?」
「そうですぅ……。それに……」
そこまで言って、サラが頬を染める。
また嫌な予感がする。
しかし、引けない。
「それに?」
私が尋ねると、サラは真っ赤になった。
チラリと私を見つめ、それからジョシュアたちを見て、自分の身体を抱き締める。
何だ?
「サラ嬢?」
「エ、エッチ……」
「?」
「レンフィールド様のお嫁さんになったら、側近のジョシュアたちともエッチできるから……。ずっと一緒だって……」
そう言うとサラはソファーに蹲った。
「は?」
はああああー!?
「な、何だ、それは……」
思わずジョシュアたちを睨む。
彼らは各自妄想しているのか、青ざめた顔から昂奮した顔になっている。
こういう時、見た目は17歳の健康な美青年だが中身はアラフィフ女だな、と思い知らされる。
とにかく恋愛や肉欲を司る脳ミソが枯れているのだ。
エリザベスに代わってサラと婚姻を結んだ私が、彼女とのベッドにジョシュア、アーサー、ルイスを招き入れ一緒に……。
ぎゃあああああ!!!
長いオタク人生を歩んでいたが、乱交物とか凌辱物にはハマったことがない。
オタクなりたての頃にイラストの可愛さに引かれて中身をパラ見し、衝撃を受けたのだ。
ロリ巨乳とか、怖い。
確かにサラも小柄なのに胸はGカップくらいある。
ヤりたい盛りの男から見れば魅惑的だ。
ま、まさか、この世界は私の知らないゲームか小説の世界だったのか?
個人作成のPCゲームだったらお手上げだ。
これは18禁ゲームなのか?
逆ハーエンドなのか?
───冷静になろう。
たとえ、そうだったとしてもサラのステータスでは攻略失敗だ。
私は攻略されてない。
なぜなら好きじゃない。
私が好きなのは、男性。
よし、大丈夫!
「では、ジョシュア。サラ嬢の言ったことは自分で考えたのか?」
蹲ったままのサラから離れ、ジョシュアの前に座る。
沈黙も許されない。
「ち、違います……」
「では誰に?」
「……母上と父上」
「そう、ティルダ元·王女とオーリー侯爵だね。彼らはきみに何を持ちかけたのかな?」
大広間では聞けなかった中身を話してもらおう。
「そうだな、まずは3年前の聖女召喚の儀式。なぜ、やった?」
始まりは、それなのだ。
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