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茶番のような断罪劇に巻き込まれる・4

 さて、ジョシュア、アーサー、ルイス、そしてサラを拘束しよう。


 3年前。

 彼らは無許可で行った聖女召喚の儀式の件をうやむやにした挙げ句、召喚されたサラに『聖魔法』の固有スキルがあると分かると、謝罪どころか功績だと声高に叫んだ。

 中でも、ジョシュアに入れ知恵したと思われる彼の両親ティルダ元·王女とオーリー侯爵は、サラに聖女と淑女教育をする名目で国庫から毎年200億円。

 3年間で合計600億円!

 いや、この世界(ユーグランデ)では通貨の名称が一般普及してないから、白金貨(プラチナ)600枚と言うんだけど。

 どちらにしても凄い大金を要求してきた。

 その金額を値切ることも遅れることもなく国庫から払っていたのに、サラは『聖魔法』どころかステータスも初期から殆ど変わってなかったのだ。

 プライバシーの侵害と思って鑑定していなかったのが失敗だった。

 前世の倫理観は異世界では不要、むしろ足枷になるのがテンプレなのに、アラフィフ人生の延長みたいな感じで生きているから、こういう失敗をしちゃうんだよ。

 ついでにジョシュアたちのステータスも鑑定したら、入学時と変わりなかったし……。

 ふざけんな!


 私は近寄ってきた近衛兵たちに命じる。


「きみたち、侍従や侍女と協力してジョシュア、アーサー、ルイス、そしてサラ嬢をエンドレス·ルーム内へ連れて行きなさい。私はエリザベス嬢と話してから向かいます」


 近衛兵たちは礼をとると、すぐにジョシュアたちを連れ出した。

 出奔宣言に慌てふためく人々だが、当人の私には身分差もあって話しかけることができない。だからこちらを気にしつつも周辺で話をするしかない。


「エリザベス嬢」


 私は誰にも邪魔されず、彼女に話しかける。


「殿下……」

「不本意ですが、これでパーティーを終わらせます。その後、貴女には改めて話をします」

「はい」


 エリザベスから離れて壇上に立つと、人々も私に注目する。

 わざわざ注目って、言わなくて良いのは身分のおかげだ。


「今夜は私の学園卒業パーティーでしたが、自身の足りない部分をよく知ることのできた有意義なものとなりました。

 これから先も様々なことを見聞し、補う為に努力しましょう。

 それが我がグリース法王国の為にもなると信じているからです。

 それでは皆様、良い夜を」


 今の私は次期法王。

 この場にいる全ての者より位が高い。

 会釈の必要もなく、視線を巡らすだけでいい。

 人々は礼をとり、私が退場するのを黙って見送る。


「エリザベス嬢」


 壇上脇に控えていたエリザベスに声をかける。

 それだけで彼女は後をついてくる。

 本当は声に出さなくても良いのだが、これが婚約者として最後のパーティーだ。彼女が私に相手にされていなかった……などという噂が流れないように、できるだけ誠実であろう。






 大広間を出て、エリザベスを連れて行ったのは私の控室だ。

 彼女の控室では彼女の父親ハーネット公爵が入ってくる可能性があるからだ。そして先ほどの発言の真意は何ですか?と聞かれるに決まっている。よって私の控室一択だ。

 入室すると適当に腰を掛け、話を切り出す。


「ジョシュアたちをエンドレス·ルームで待たせているから、あまり長く話せないが……」


 エンドレス·ルームと聞いて、エリザベスは組んでいた手を震わせる。

 その名の通り、終わることのない尋問部屋。

 彼らには洗いざらい話してもらい、色々と片付けてからでないと国を出ていくこともできない。全てを放り出したい気持ちはあるが、そんなことをすれば連中の良いように処理される。最悪のシナリオは全ての泥を私が被ることだ。

 冗談ではない。

 後顧之憂(こうこのうれい)をなくして、自由気ままな一人旅をしたいからね。


「私は法王猊下に次期法王の証を返上し、王子の身分も捨てる。一人でこの国だけでなく世界を見て回り、見聞を広めたい。だから、貴女には悪いが婚約を解消する」


 中途半端に期待させてはいけないので、本音を話す。

 すると覚悟していたのかエリザベスは静かだった。


「ご一緒させてはくださらないのですね」

「そうだ」

「わたくしは殿下の妻となり、いずれ法王猊下となられるお姿を一番近くで拝見できると信じておりました」

「知っている」

「その時には殿下の子供を(さず)かって、一緒に誇らしく見上げるのだと夢見ていました」

「子供?」

「はい。たとえ生まれた子供が『聖魔法』の遣い手でなくとも、殿下との子供を授かれば寂しくありませんから」


 エリザベスが泣き出す。


「寂しいと思う理由は何だ?」


 彼女の涙が止まらない。


「お、お許しを……」

「構わない。話してくれ」


 まさか彼女が子供を求めているとは思わなかった。

 これは結婚しちゃダメな相手だ。

 今分かって良かった……。

 そもそも私は出奔しても『聖魔法』を失うつもりがない。

 その前に女性とエッチできるか?と聞かれたら、ごめんなさい、なんだけど。

 とりあえず、それは置いといて……。


「二人きりで話せるのはこれが最後だろう。非礼など気にせず、話してくれないか?」


 そこまで言うと、エリザベスは必死に涙を堪えて向き直った。


「殿下はお優しいですが、わたくしを……愛してはいらっしゃらないからです」

「……」

「政略結婚なのは分かっております。

 でも、わたくしは婚約者に選ばれる前からお慕いしておりました。

 聞こえてくる殿下のお話はとても素敵なものばかり。

 お伽噺の王子様より王子様らしい殿下のお話に、わたくしは勝手ながら想像を膨らませておりました。

 そして初めて会った時、想像よりもずっと美しく麗しい殿下に恋をしました」

「……」

「殿下はとてもお優しいです。わたくしのほんの少しの変化にも気付いてくださいます」


 それは前世のせい……というか、おかげ。

 3歳の時に自分の容姿がメチャクチャ良いと知って、男性に生まれ変わったことだし、ここはオタク女がひれ伏す……いやいや、夢想するレベルの王子様になってみようと思ったんだよ。

 清く正しく美しく……の正統派スタイルの王子様。

 それに、なんだかんだいってもアラフィフまで社会生活を続けていたら、周りの人たちへの気配りは必須だから。

 何しろ男性も化粧品を使って身嗜みを気にする時代。上司はもちろん同僚や部下の皆を適度に褒めたりしなくちゃ、気の利かない女扱いされたんだよね。

 あまり言うと細かい女だな、と陰口を言われるのがまた理不尽で……。

 だから何も考えずに普通に褒めていただけなんですよ。

 ……言えないけれど。


「けれども、そのうちに気付いてしまいました。殿下はわたくしを愛していない。わたくしだけでなく、どの女性も……」

「……」


 よく見てるなぁ。


「ですから、失礼ながら男性がお好みなのかと思ったのですが……それも違いました」


 危なっ……。

 好みのタイプいないし、一番身近があのバカ3人だったから恋なんてしている余裕なかったんだよね。


「殿下はわたくしだけでなく、誰のことも愛していない。それなら、殿下にお子を授けてもらえれば寂しさに耐えられる……と思ったのです」


 もしかして……。

 エリザベスって、法王の配偶者にしたら一番ヤバいタイプじゃないか!?


「貴女が私を愛してくれていたことは嬉しく思うが、それに応えることはできない。婚約解消は私から申し出たことだし、ハーネット公爵にはルイスの件とは別だと念を押しておく」


 どうも、これ以上一緒にいたら何か起きそうな予感がする。

 ここは早くエンドレス·ルームに向かわなくては。

 物好きでもない限りあの部屋に人は入ってこないが、一刻も早く解放しろと根回しされたら面倒だ。

 それにアレスティラ様にも早く挨拶をして出奔の許可をもらわないと。

 出奔に許可もないけれど、彼は私の養父で後ろ楯だ。

 随分と甘やかしてもらったから、礼を言わなくては人としてダメダメだろう。


「エリザベス嬢、貴女の道行きに幸あらんことを祈っているよ」


 そう言って椅子から立ち上がろうとした私に、エリザベスが急いで立ち上がり抱きついてきた。


「わたくしには殿下しかおりません。どうぞ、お連れくださいませ。わたくし、殿下の為ならどんなご要望にもお応えします」


 うわー。

 必死に胸を押しつけてくる。

 腰にもグリグリしてきた。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 女に襲われる~~!!


「殿下、どうか……」

「や、止めなさい」


 力を込めて引き剥がせば、エリザベスは自らドレスの胸元を開こうとする。

 あー、これ。

 既成事実をでっち上げようとしてますね。


『罰の法』


 常時発動している『聖魔法』の1つに引っ掛かり、エリザベスは身体が動かなくなって倒れる。

 死んだわけではない。

 私の赦しが貰えるまで目覚めないだけだ。

 就寝中などに襲われた時、対抗する手段として常時発動していた『私の命と貞操を狙ってはならない』という法。

 範囲は半径1m。

 破ろうとした者は赦しを得るまで深い眠りにつく。

 ちなみにこれはアレスティラ様直伝で意外と便利。

 遠距離から魔法や弓矢、もしくは呪術で狙っても半径1m以内に入ったら目に見えるもの、見えないもの関係なく完全消去してしまう。

 だから毒(媚薬含む)を仕込んでも無駄。

 結界魔法や状態異常無効スキルでも代用できるけど、こちらのほうが背後関係を辿るのが楽になるからオススメらしい。


 それにしても……。

 倒れたままのエリザベスを見下ろしながら思う。

 いつか……私にも愛する人ができたら、どうするのだろうか?

 この非常識なチート魔法を捨てられるのか?

 それとも……。


 やめやめ。

 そんな人に会えるか分からないし、今は世界を見て回るんだ!




 気持ちを切り替えた私が扉を開けると、近衛兵の他にエリザベスの侍女が立っていた。


「ちょうどよい。エリザベス嬢の介護をせよ」


 そう告げた私は、近衛兵を連れてエンドレス·ルームに向かった。





もう少しプロローグ、続きます。

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