茶番のような断罪劇に巻き込まれる・2
主人公が少しだけ怖い性格を出してます。
「わ、わたくしは、サラ様を貶めるようなことを言っておりません」
泣きそうな顔を精一杯引き締めて、エリザベスは答えた。
彼女の本質はとても心穏やかで控え目だ。
法王の配偶者となるには優しすぎる少女だと思っている。
そんな彼女が私の婚約者となってしまったのは、同じ年に公爵家という高位貴族の家に生まれてしまったからだ。
そして年の近い令嬢たちの中から選ばれるだけの素地と努力をしたから。
私も権力者の家に生まれた者としての責務を負う彼女のことは好ましかった。彼女なら偽りの婚姻相手であっても家族として愛せるだろうと思うくらいには……。
それなのに、私の側近候補3名は愚かにも程がある。
彼らと彼らに慰められ笑みを浮かべるサラに溜め息が出てしまうが、そんな姿は見せない。あくまでも公平に婚約者に問いかけ、周囲に彼女の無実を、彼らが言い掛かりをつけているのだと見せつけなくてはならない。
「では、先ほど彼らが貴女に話したことは心当たりがない。と言うことだね?」
「はい。殿下」
落ち着いてきたエリザベスが答える。
「わたくしは聖女認定をされたサラ様と同じ学園に通っていたとはいっても、カリキュラムが違います」
「そうだね。貴女はすでに学園の卒業資格を得ていたから、淑女教育の履修の為に通う他は法王宮に来て学んでいた……よね?」
「はい」
エリザベスが学園に通うことは殆どなく、将来の為に法王宮に来て学んでいたことは高位貴族でなくとも広く知られている事実だ。
それなのに、どうしてサラたちは覆される話をしたのだろう?
思惑は分からなくても構わない。
肝心なのは、今夜のパーティーは私の為に開かれたもので、エリザベスは私の婚約者ということ。
彼女への誹謗中傷は私へのものと同意になる。
次期法王である私への謗りは些細なことでも見逃すわけにはいかない。
俗に言うメンツというものに関わるからだ。
「ではサラ嬢に尋ねよう」
面倒だが茶番を続ける。
「貴女がエリザベス嬢から受けたヒドイこととは何かな?」
すると、待ってました。と、言わんばかりにサラが私を見上げた。
「エリザベス様は聖女であるあたしに身の程をわきまえて行動しろって言うんです!
レンフィールド様に声をかけたり、お茶会で隣に座ってお喋りしたり、パーティーでダンスに誘ったりしたらダメだって。
あたしはレンフィールド様と同じ『聖魔法』を使えます。
だから仲良くしたほうがもっと使えるようになるのに、邪魔ばっかりするんです!」
「他には?」
「え? 他、他ですか?」
彼女の訴えに同意することなく他のことを尋ねると、困ったように3人を見つめる。
「レンフィールド様、サラは被害者なのですよ。そんな言い方をされては困惑して話せなくなります」
助け船を出したのはジョシュアだ。
私と従兄弟であることから、良くも悪くも遠慮がない。
彼は同い年の従兄弟同士だし側近(候補)だから率直に意見を言って、お役目を果たしているのだ。という程度にしか考えていない。
確かに同い年の従兄弟同士だけど、私は法王に次期法王と認められている王子で、お前は侯爵家に降嫁した王女の息子だよ?
絶対に側近候補の教育をサボっていたな。
最低限の弁えもないほどバカじゃなかったはずなんだけど……。
「それにこう言ってはなんですが、エリザベスよりも聖女であるサラのほうが『聖魔法』の遣い手を誕生させる可能性が高い。婚姻相手には相応しいのではありませんか?」
ジョシュアの言葉にアーサーとルイスも笑いながら頷く。
その表情は私を嘲るものを含んでいる。
「血の忠誠、でしたか? あんなものをしなくても色々と知っているんですよ。わたしも法王家に連なる者ですからね」
ストップ。
その発言は許されないものだ。
様子を伺う貴族たちがざわめき、発言の真意を知りたそうにしている。
茶番を続けている場合じゃないな。
ジョシュアがどこまで知っているのか分からないが、吹き込んだのは母親である元·王女ティルダに違いない。
ほら、さすがにこんな場所で言い出すとは思わなくて青ざめている。
アーサーとルイスが、ジョシュアにどこまで教えてもらったのかも確かめないとマズイ。
「ジョシュアは面白いことを言うね」
私も負けずに微笑みながら、大広間だけでなく宮殿内に『聖魔法』の範囲を広げる。
この魔法の一番恐ろしいところは相手に感知させないことが可能なこと。
敢えて相手に感知させるも良し、こうして分からぬうちに広げた範囲を支配下に置くこともできる。
サラは同じ『聖魔法』の遣い手だと言ったけれど、一緒にされたくない。
『聖魔法』とは、簡単に言ってしまえば『遣い手が自由に法を決めて行使できる魔法』だ。
その範囲も法の内容も……遣い手が自由に定めることができる非常識過ぎる強大な力。
まぁ、遣い手の『魔力の力強さ·含有量·操作能力』によって力の及ぶ範囲や内容は大きく変わるけれど……。
その力があるからグリース法王国は、このアルカディア大陸の南方にあるファーガス王国と二分するほどの強国なのだ。
法王は国家元首として法に基づき国全体に癒しを施し、時に非情な罰を与える。
過去には罰という名目で法治国家とは言い難い侵略行為が多数ある。
私が法王になったら領土拡大はしないつもりだけど、政務の実権は宰相を輩出する法王家の人間や上流貴族たちが握っている。上流貴族たちはともかく、法王家の人間は私の身内でもある。
面倒さは半端ない。
だから彼らの傀儡にならない為にも、私は正確なステータスを生まれた時から隠蔽している。
「ねえ。きみにそんな作り話をしたのは誰かな?」
私がこの場で定めた法は、私の問いに嘘偽りなく答えること。
沈黙は偽りと同義とする。
そして、何人たりとも私の邪魔をしてはならないこと。
違反した時は、まずは声を封じられ魔法の行使ができなくなる。
詠唱破棄や無詠唱の魔法師は少ないからね。
次に利き腕が使えなくなり、足が動かなくなり、段々と身体の動きを封じられていく。
そこまでされたら、恐怖にかられて大抵の者は素直に話してくれる。
これが敵の場合は罰の内容をグレードアップすればいい。
ジョシュアはまだ17歳のお坊っちゃま。
どこまで耐えるか楽しみだ。




