茶番のような断罪劇に巻き込まれる・1
3ヶ月放置していた1話目です。
再開にあたり、少しだけ改稿しました。
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剣と魔法の世界ユーグランデ。
この世界にある『グリース法王国』は、グリエス法王家に時折誕生する『聖魔法』の遣い手を法王……すなわち国家元首とし、遣い手の不在時には法王家当主が統治してきた。
この『聖魔法』というのは他の6属性(火、水、雷、土、風、無)魔法と違い、遣い手の人生を縛る。
神々の代行者ともいえる強大な裁きと癒しの魔法は、遣い手に『清らかさ』を求めるのだ。
所謂『清らかな身体』をしていなければならない。
これは表に出せない話なので知っているのは法王本人と後継者、成人後も法王家の一員として生きる人間と血の忠誠を誓った配下の者たちだけだ。
何しろ敵対する者に知られたら、『聖魔法』を使えないようにハニトラでも仕掛けて汚してしまえば良いのだから。
神のごとき力を持っていても人の子。
好みのタイプと接していけば揺らいでしまう。
暗殺手段を用いるより穏便な方法として、200年ほど前までは後継者争いで使っていた手段らしい。
もっとも今は、貴重な遣い手を失わないようにそんなことはしない。
先代法王マーガス様の崩御後、現法王アレスティラ様が誕生するまでの150年間、『聖魔法』の遣い手が現れなかったからだ。
けれども歴代法王が全て独り身なのは勘繰られる恐れがあることから、選ばれた者と白の婚姻を結ぶこともある。
私の大叔父であり、養父のアレスティラ様もそうだ。
そして次代の法王とされる私も同じ。
幼い時からの婚約者ハーネット公爵家令嬢エリザベスと寝所を共にすることはない。
それを今の彼女は知らない。
法で決められているからだ。
彼女が知るのは私と婚姻を結んだ初夜の場。
伝えるのは私の側近となる血の忠誠を誓った者。
形ばかりでも配偶者となった私ではないのだ。
本当に酷い話だ。
そんな彼女に与えられるのは法王の配偶者という栄誉だけ。
しかも適当なところで法王家に生まれた子供を実子と偽って育てることもある。
私たちの場合は弟バージルの子供になるのだろうか?
それとも従兄弟たちの子供だろうか?
どちらにしても10年前に亡くなられた法王の配偶者アイヴィー様と同じように、慈愛の笑みを浮かべながら生きていくのが勤めとなる。
そう。
それくらい私と結婚する相手は気の毒な一生を送るというのに……。
「エリザベス様、あなたはレンフィールド様のお相手に相応しくありません!」
前世の私が生きていた日本から異世界召喚され、その際に『聖魔法』の遣い手であることから聖女認定されたサラは、エリザベスを私の婚約者の座から引きずり降ろそうとしている。
「そうですとも。次期法王であるレンフィールド様に相応しい方は聖女サラしかおりません」
「そのとおりだ! エリザベス、お前は子供の頃から身分に合った言動をしろって煩かったが自分はどうなんだ!? 異世界から来て何も分からないサラにこの3年間、意地の悪いことを沢山してきただろ!」
「僕も何度も聞いたよ。姉さんは散々、僕にハーネット公爵家に相応しい行動をしろって言っていたのに、サラの心を悲しませることをしたそうじゃないか」
しかも一緒になってエリザベスを否定しているのは私の側近候補たち。
援護を始めたのがオーリー侯爵家の嫡男であり、従兄弟のジョシュア。
次が聖騎士団団長ノア·コックス伯爵の次男アーサー。
最後がエリザベスの異母弟ルイスである。
……頭が痛くなる。
彼らはまだ血の忠誠を誓っていない側近候補だが、この様子では再考しなくてはならないだろう。頭の中で新たな候補を思い浮かべながら、いっそのこと生涯独身でも良いか……とすら考えてしまう。
どうせ配偶者は孤独な人生を歩む法王の贄だ。
エリザベスが幼い頃から法王の配偶者に相応しくあるよう、努力してきたのを知っている。
けれども私が彼女に返せるものは栄誉だけ。
彼女を自由にしてあげられるチャンスなのかもしれない。
何より、前世のアラフィフ女の記憶がバッチリあるせいで女性に恋愛感情がわかない。
頑張り屋のエリザベスを可愛いとは思うけれど、それだけだ。
この茶番が始まったあたりで、前世の最期を思い出した乳児期の記憶が巻き戻った。
絶対に、かつてのオタク女の血?記憶?が騒いだのだろう。
聖女と悪役令嬢の断罪イベント。
ここからのザマァ展開が好きだったからね。
もちろん断罪されるのは性格の悪い聖女を推奨している。
「レンフィールド様もエリザベスではなく聖女サラをご自分に相応しいと思っていらっしゃる。これ以上の恥をかく前に辞退されては如何かな?」
「ジョシュア。間違ったことを言うな」
色々と考え込んでいたら、私がサラを大切に思っていることにされていた。
勝手に決めるな。
そんなこと、私は思っていないぞ。
思うはずもない。
私が『聖魔法』の遣い手とはいえ、17歳で生涯『清らか』でいなくてはならない法王位に立つことを厭わないのは恋愛対象が男性、だからだ。
理由はお察し。
前世のアラフィフ女の記憶…というか、生まれた時から前世の記憶があったものだから、このレンフィールドの人生も前世の延長になってしまっているのだ。
「照れなくてもいいんだぜ?」
「そうですよ。僕たちはレンフィールド様の側近です。あなたとサラの想いを十分、分かっています」
いや、全然分かっていない。
その前にお前たちは側近候補で、側近ではない。
血の忠誠もしていないのに、そんなことを口にしたら大変なことになるからな。
「レンフィールド様。皆がいる前で恥ずかしいです~」
私にすり寄ってくるサラ。
そのあざとさは女には通じないし、バレているぞ。
気持ち悪いのでやめてほしい。
そう思っても今の私は次期法王を約束されたレンフィールド王子。
よほどの事態にならない限りは王子に相応しい態度をとらなくてはならない。
「……」
ここは無視だ。
それにしても……。
私たちがいるのは宮殿にある大広間の一つ。
私の学園卒業祝いで催されたパーティーだから、招待客は上流貴族から豪商、城下町の顔役まで幅広い。
共に卒業した同級生たちも招いている。
そんな『皆』の前での茶番劇……言い方によっては断罪劇が先ほどから繰り広げられている。
恥をかかされエリザベスが泣きそうになっているが、私も別の意味で泣きそうだ。
……泣かないけれど。
「エリザベス嬢」
騒ぎを収めるべく、手っとり早くエリザベスの元へ向かおうとした。
「レンフィールド様!」
その私の礼服の裾をサラが引っ張る。
振り返れば、上目遣いで私を見つめている。
男ならば心を動かされる愛らしい表情だが、私には全く効かない。
前世の記憶もあって、彼女のような媚態は最も唾棄すべき行為としてしか認識できない。
「無礼者」
「ひっ……」
少しだけ『聖魔法』の一つ、身の程に合わぬ行為に対する『罰の法』を与える。
彼女も『聖魔法』の遣い手だが、魔力の質、量、操作技術、どれをとっても私に圧倒的に劣る。質と量は生来のものだから仕方ないが、操作技術が劣るのは彼女の鍛練不足からくるものだ。
腰を抜かして床に座り込んだサラに3人が駆け寄る。
「レンフィールド様、サラに何てことを!」
「サラ、怪我はないか?」
「聖女サラに『罰の法』を向けるなんて。あなたに次期法王たる資格はありません。心優しいサラのほうが相応しい」
3人に囲まれたサラは嬉しそうにしている。
「ジョシュア、アーサー、ルイス~~」
呆れた。
エリザベスだけでなく、私のことも否定したか。
しかも、この場で。
チラリと見れば、ざわめく人々の中で彼らの保護者たちが憤怒と驚愕、軽蔑の眼差しを向けている。それでも保護者たちは皆、上流階級で生きてきた者たちだ。取り乱すことなく彼らを……そして私とエリザベスの行動を見ている。
私に次期法王としての振る舞いが出来るのか?
エリザベスは婚約者として切り抜けることが出来るのか?
それらを観察しているのだ。
面倒なことだ。
「エリザベス嬢。貴女は彼らが口にしたようなことをしたのですか?」
そんなことはしていない……と知ってはいるが、周囲に言い聞かせる為にも質問は外せない。
泣きそうな顔のエリザベスが小さく頭を振って否定した。
プロローグは主人公が旅立つまで、となります。
もうしばらくお付き合いください。




