悪代官
遅くなりました。
城塞都市《王都クラービリス》小高い丘の上に城があり、分厚い城壁に囲まれていて防備に厳重さが伺える。街並みは、しっかりと舗装された石畳の道、そして石造りの家や建物が立ち並んでいて、その周りに高さが10mほどありそうな城壁が都市全体を囲んでいる。
私達は今、城門の前にいた……
門の前では警備兵がおり検問を行なっているようだ。
「名前を言って、この水晶に手をかざせ」
警備兵が私達に、透明で直径10センチくらいの大きさの丸い水晶を出しながら言ってきた。
「なんでしゅか? これ?」
「ん?知らねぇのか嬢ちゃん、これはな悪い人かどうか見分けるための水晶だ。……嬢ちゃんには必要ないだろうが、触ってみな」
と言って、警備兵がしゃがんで私の前に水晶を出してきた。
そっと触れてみる……
すると水晶が青く光った。
「よし! OKだ。これが赤く光ったら、悪い事した人って事だ。わかったか?」
「あい」
頭を乱暴に撫でられる。
どうやら原理は全くわからないが、犯罪歴や手配書が出てるかどうかを見分けるものらしい。
こんなものゲーム時代にはなかった。というか、検問自体なかった。
どこの国も自由に出入りしていたはずだ。
ジルフリーク達から少し話を聞いてはいたが、これも魔法の力だとすると、私の知らない魔法は多そうだ……
いろいろとこの街でも、調べてみようと心に留めておいた。
全員が検問を終え、城門をくぐり石畳の道を歩く。
日もだいぶ傾いて薄暗くなっていたせいか、道には人通りが少ないものの、建物の中を覗けば、おそらく冒険者なのだろう、戦士のような格好をした者や魔導師のような者いろいろな姿が、たくさん見えた。
ーーーおぉー! さすが最大の冒険者ギルドのある街だ! もっと近くで見たいのに……
私は今、エドモンドに脇の下に腕を差し込まれ、抱き抱えられていて身動きが取れない状態だ。
何故かというと、そう! 先程も走り出しそうになったからだ。
街中で首根っこを掴むのは目立つという事で、今の形に落ち着いている。
私はどうやら、テンションが上がると走りだすというと個性的な癖を見につけてしまっているようだ。
だが、現実世界で少し走っただけで肩で息をし次の日には、全身を襲う筋肉痛と戦っていた32歳の私が、俊敏に動けて、動き回っても疲れない体を手に入れたのだ。
そんな癖を身につけても仕方ないだろう!
と、自分で自分を納得させた。
キョロキョロと辺りを見回していると、お目当の店を発見した。
私は指を指し声を上げる。
「あった! あったよ! 酒場!」
そう、酒場だ。ずっとお腹が空いていたのだ、それ以外に探す場所なんてないのだ。
期待に胸を膨らませ酒場に入る。
店に入れば、丸いテーブルがいくつか並べてあって、奥にはカウンター席がある。たくさんの人が酒を飲み、飯を食べ、とても賑わっていた。
「おい、店の入り口に立つな! 空いてる席に、適当に座れ!」
と奥のカウンター越しに、いかにもこの酒場のマスターのような、40代前半くらいのスキンヘッドで顔に傷のある体格のよい男が声をかけてきた。
私達は頷き店の角のテーブル席に座った。
すると、茶色いポニーテールを揺らしながら元気いっぱいと言った雰囲気で給仕の可愛い女の子がメニューを持ってくる。
「いらっしゃいませー。メニューです。」
と言ってテーブルに置こうと、彼女がメニューから手を離した瞬間、私は一瞬で掠め取る。
「キャッ!」彼女は、あまりの早い動きに驚いたようだった。
私は、メニューを広げて見る。
すると文字はなんとなく読めるが、見たことも聞いたこともない名前の料理ばかりだった……
いちいち聞いていられるほど、私の食欲は待ってはくれないのだ!
「このメニューにありゅ物、全部ちょーだい。」
「はい?!」
女の子は驚きのあまり目を見開いている。
「全部ちょーだい!」
すると、ソージが
「え? そんなに食べるのセイラちゃん? 僕達は、お金持ってないよ」
と少し呆れ顔で言う。
「金か……フフフ……。フフフ……。ハーッハハハハ!」
笑いが込み上げてきた、いつしか大声で笑いだしていた。
その笑い方は、まるで悪代官のようだ。
その大声に、周りで騒いでいた他の客もこちらを見ている。
私はその視線を感じて、テーブルの上に飛び乗る。腰に手を当て、仁王立ちポーズは忘れない!
そう! 私はすぐ調子に乗るタイプなのだ!
「フハハハ! 金なら腐るほどありゅんだよ! 無一文の君たちにも、慈悲を与えてやろうではにゃいか! ハーハッハハハ! ハーハッ(ゴッツ)……
頭にエドモンドの鉄拳が落とされた。
「皆さん、騒がしくしてすみません。彼女はとても、頭の弱い残念な子でして。お詫びに今日のお食事代は、こちらで支払わせていただきます。」
と優雅にお辞儀をする。
それを聞くなり、
「よっしゃー」「やりー!」「ありがとよー」など酒場にいた者達、全員が盛り上がっていた。
ーーーひどい! 現実世界では言えない、人生で一度は言ってみたかったセリフを言っただけなのに!
すると、給仕の女の子が笑顔で頭を撫でてくる。
「あんまり、おいたして困らせちゃダメよ」
「あい。」
ーーーてか、どう見てもこの子17、8だよな……こんな一回り以上歳下の子に諭されるなんて、
悲しくなってきた。
私が一人落ち込んでいると、他のみんながどんどん注文していく。
気づけばテーブルの上は料理でいっぱいになっていた。
その美味しそうな匂いに、私は落ち込むのを忘れ料理に食いつく。
料理はどれも、現実世界で食べたことがあるような味が多かったので問題なく食べれた。
夢中でご飯を頬張る。
「ゲフッ。おいちかったー。余は満足じゃー。」
ポッコリと膨らんだお腹を摩りながら。満足感でいっぱいになった。
どうやらこの体は大食漢のようでテーブルの上にあった料理をほぼ一人で食べつくしていた。
ふと、全員を観察してみる。
ソージはまだ食べている途中で、肉ばかり食べているようだ。なんだか、実家の近くに住む元気な大学生の男の子を思い出す。
ーーー若いっていーな。
なんて思いながら観察していると、ふと腰にさしてある物に目がいく。
腰には2本の刀が差してあった。
ソージの服装からして、上位職のサムライあたりかと思っていたけど、2本持っているし、アサシン系なのかもしれない。
ーーーそういえば、みんなの職種まだ確認したなかったや。
私は、現実世界でもよく「あんたって、他人にまったく興味ないよねー。」とよく言われていたほど、他人に対して無関心だった。
「髪きった?」と、なんとなく聞いたら「切ったの先週です」なんて言われるのもざらだった。
ーーー仕方ないのだ。興味ないものは、無いのだから!でも今は、これからの私の伝説への道の為に興味ないなんて言ってられないのだ!
そう思い、観察を続ける。
シロは食事を終えていて、ワインを飲んでいた。その色気たっぷりの雰囲気は、おそらくだが、現実世界の私と同い年か少し下くらいだろう。だが、女装したオカマなので見た目の年齢は当てにならなさそうだ。
大きな杖を持っているので、魔法職だろう、見るからに魔女だ。これで魔法職じゃなかったら、全力であの杖を折ってやろうと、そう思った。
火力系のウォーロックとか補助系のプロフェッサーあたりだといいな。ソーサラーかもと思ったが、転移魔法を使えないと言ってたのでこれはないだろう。
レオはちまちまと、まだご飯を食べていた。色白の顔は、見るからに少食そうだ。なんだか、実家で飼っていたハムスターを思い出す雰囲気だ。
レオは、まあ……銃もってるしガンナー系だろう。
ソフィアは、食後の紅茶を飲んでいた。
見ていると彼女と目があった。
ニコッと笑ったかと思うと、ハンカチを取り出して
「つ、着いてますよ」
と言って私の口元を優しく吹いてくれる。
ーーー優しい! 天使か?! 君がこの物語のヒロインだったのか?!
と、わけのわからない事を考えながら観察する。
彼女は始めて会った時から、大きなハサミを持っていたが、まったく職種がわからない。シーフ系かな?
「ソフィアって、職種なんなにょ?」
私は思い切って聞いてみる。
「わ、私は、裁縫師です。」
……
ーーーな! 非戦闘職だと! ギルド拠点対戦用に作ったキャラが非戦闘職って……
長い付き合いのアレンさんの事がわからなくなってきた。
「しょうなんだ。ハハッ」
と私は、乾いた笑いを漏らした。するとエドモンドが口を挟んできた。
「彼女は、優秀な裁縫師ですよ」
「ん、そうにゃの?」
「はい、以前渡した着替えも彼女が作ったのですよ」
「あぁ! どっからあの着替えを用意したにょと思ってた!なるほどね」
「それに、彼女はアルケ二ーなので材料費要らずです」
「へぇー、ソフィア凄いね!」
私が褒めると、ソフィアは
「い、いえ。そんな事ないですぅ」
と、照れていた。
「アルケニーの種族スキル?」
《エレフスリア・オンライン》には、種族スキルという、種族毎に設定されたスキルがあり、パッシブかコマンド選択かも種族によってバラバラだ。
ちなみに私(天使)の種族スキルは、《慈愛の神饌》という自分のHPを消費してMPを回復するコマンド選択のスキルだ。
「は、はい。《支配糸》がつ、使えます」
「へー! 凄いね。どうゆうスキルにゃの?」
「え、えっと、自分が出した糸を自由に使えます。こ、攻撃封じたりもできます」
ーーー麻痺効果があるって事なのかな? アレンさん何故、戦闘職にしなかったんだよ!
「そっかー」
するとソフィアが急に顔を赤くし、はにかみながら言う。
「……お、お尻から出します。み、見ますか?」
私は彼女の一言を聞いて固まった、
ーーーおいー! 何はにかんじゃってるの? てか、なんちゅうスキルだよ! 見たくねぇよ! アレンさん、そういうプレー好きだったの? 性癖なの? 変態なの?
何故だろう、勝手にだけどアレンさんが変態に思えてきた。
「いえ、結構でしゅ」
丁寧に。お断りした。
私の中でのアレンさんのイメージ像が崩れていったのだった。
次の更新は明日になります。




