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課外授業から戻り数週間が過ぎた頃、キラ達最終学年は、今後の進路を決める時期に来ていた。
魔法学校に来て三ヶ月しか経っていないキラにとっては、物足りない。
このまま卒業してしまうのは、寂しかった。
せっかく出来た友達との別れが迫っている。
「スタントンは卒業したら神官見習いになって薬師の勉強をするんだよね」
「そうだよ。本当は地竜の討伐で一番になれたら、高等魔法学校へ行ってもいいって言われていたんだけど、それも無しになった。皆が一番だなんてあり得ないよ」
机にだらしなく倒れ込んだスタントンがふて腐れてこぼした。
ベンゼルは、机に腰掛けているし、デストロルも「そうだよ。期待して損した」といいながら不満をこぼしている。
キラも椅子の背を抱えて足を広げて座っている。
そんな男子たちの様子を呆れて見ているのがフェリーヌとルシアーヌだった。
それでも、キラ達の傍できちんと座って話を聞いて居る。
キラは、友達と一緒にだらけた姿をさらすのが何とも言えず心地よかった。
「確かに、学校側の言い分には納得できないわね」
ルシアーヌが、スタントンの境遇を知って同情してそう言った。
少し前に、スタントンは孤児だったことをチームの皆に打ち明けていた。
孤児と言っても、今は神官長の養子に収まっている。
生活も、他の孤児たちとは違う。
きちんとした服も与えられ、教育も受けられるのだから。
だけど、基本の教育が終われば、その後は神官見習いの生活になってしまうそうだ。
まだまだ、普通の生徒と同じような生活をしていたくて、彼は一番を目指していた。
神官長から「一番になれたら、高等魔法学校へ行かせてやる」と言われていたのだそうだ。
みんなが努力して危険を排除した褒美として、すべての生徒が一番の称号をもらった。だが、スタントンは進学できなかった。
「みんなが一番ということは、一番も最下位も同じだって養父に言われたんだ……」
スタントンにとって、一番の称号に意味がなくなったのだ。
あれほど一番に拘っていたのにはこういう訳があったのか。
だけど、校長先生が皆を前にして話したことには意味があるだろう。
『今年の最終学年は、今までになく優秀な子ども達に育った。それもこれも竜の討伐をしたお陰だ。君たちの力は相当なものだぞ』
キラ自身、自分の魔力が大きくなった自覚がある。額の魔石が少しだけ大きくなり、色も明るく変化していた。
スタントンやベンゼル、デストロルも、魔力が育ったと感じているはずだ。
フェリーヌたちも、女子の中では魔法を持続させられる時間が一番長いと自慢していたくらいだ。
「スタントン。校長先生が仰っていた。ボクたちは成長したって。神官長に話した?」
「……うん。それも進学できない理由らしい。俺の魔石、目に入っているだろう? これ以上大きくなれば眼窩に収まりきれなくなって危険なんだってさ。だから、今後魔物を倒すことは禁じられた」
神官は、魔石の同化が出来ればそれで良いそうだ。スタントンは光の属性を既に発現しているため、「これ以上、魔力を育ててはだめだ。高等魔法学校へ行く必要はない」と、神官長に言われたという。
高等魔法学校では、魔力を育てていくのが主な目的だという。
そのため、魔の森へ入っていく課外授業も組まれているらしい。
「神官って、光の属性さえあれば良いってこと? 魔石の同化には光だけを使うんだね。初めて知ったよ」
キラの言葉にスタントンははっとして、「誰にも言うなよ」と、キラ達に念を押した。
「キラ君は高等魔法学校を卒業すれば、大学へ進むんでしょう?」
フェリーヌに聞かれてキラは首をかしげて考え込んだ。
「……どうかな。高等魔法学校へは行かせてもらえると思うけど。大学までは無理だろう。それに、僕は商会のお抱え魔法使いになることが決まっているんだ。大学の研究者になるなんて考えていないよ」
デストロルが、「大学まで行くべきだ」と言ってくる。
「キラ君は天才なのに、商会の魔法使いでは勿体ないよ。大学で勉強して研究者になれば、国にとっても助かるはずだよ。父上に僕から頼んでみようか?」
「いや。僕は商会の魔法使いになるのが楽しみなんだ。大学へ行かなくても本を仕入れて自分で研究していく」
「まるで、賢者みたい。賢者様は、たくさんの本に囲まれて、お一人で研究なさっているそうよ。キラ君は賢者をめざすの?」
「え? 賢者?」
フェリーヌが話してくれた。
「この国の賢者様は二代目だそうよ。初代の賢者様は他国から逃れてきて魔石を埋め込む方法を発見なさった。その意志を継いでいらっしゃるのが、二代目賢者なのよ。魔の森の塔にお一人で閉じこもっていらっしゃるんですって」
「キラは賢者の弟子になるって事か? 俺は嫌だな。一生結婚出来ないぞ。賢者になるには、独身を通さなければならないそうだから」
そうなんだ。知らなかった。賢者とはそこまでしないとなれないのか。
この国の賢者は一人だというし、他の国に賢者がいるかどうかも、キラたちのような子どもが知るすべはなかった。
「僕は、賢者は無理だな。魔の森は危険だし、そんな寂しそうな場所で一人っきりだなんて耐えられそうにないしね」
「あら、たまに街へも出ていらっしゃるみたいよ。天才のキラ君なら賢者の弟子になれるわ。推薦してあげましょうか?」
とんでもない話だ。キラは、賢者になんかなりたいとは一言も言っていないのに、フェリーヌにまで押されてしまった。貴族にとって、賢者とは憧れの存在なのだろうか。
キラは話題を変えた。
「ところで、大地竜はどうやって倒したんだろう」
ベンゼルが勢い込んで話し始めた。
「魔法騎士が穴に入って行って、倒したんだって。勇気あるよな」
大地竜は、それほど危険な魔物ではないという。
他の地竜と同じく普段は大人しいそうだが、地上へ出てくるとなれば、話は変わる。
二十メートル以上もあるような巨体は、それだけで脅威だ。
魔法騎士たちは、穴の中深くに潜り、魔法を放ち、地竜をやっつけたという。その体を、特大の魔法鞄に収め持ち帰った。
キラには、意外と単純な討伐に思えた。
魔法に威力さえ込めれば、魔法騎士でなくても倒せるのではないか。
ただ、深い穴に下りていくのは難しそうだ。
「浮遊魔法が使えたら、結界を張りながら魔法を放てば、魔法使いなら誰でも倒せそうな気がする」
「何言ってるんだ。浮遊魔法は飛竜隊の奥義だぞ。飛竜隊に入っていなければ教えて貰えない。結界だって凄く難しい魔法だ。何年も修行しないと会得出来ないんだぞ」
それは、結界の魔道具があれば大丈夫な気がするが、浮遊魔法が門外不出の魔法なら、魔法騎士はやはりすごいのだろう。
「そうだったのか。ベンゼルは、魔法兵士のための学校へ進学するんだったね」
「ああ。父上にも期待されている。俺が立派な魔法騎士になれば、我が家は爵位が上がる」
その日、学校から戻ったキラに、来客があった。セレスティンだ。
キラの今後について相談に乗ってもらえそうだ。
友達の前では、高等魔法学校へ行くとは言ったが、キラにはまだ確信が持てなかった。
「商会では錬金術を是非覚えてもらいたいと思っている。魔法鞄や、魔具は商会の目玉商品だ。いつも高い金を払って魔法使いギルドの貴族から買っている。キラ君には高等魔法学校へ行ってそれを学んで欲しい」
セレスティンにそういわれて、ようやくキラの将来が確定した気分だ。
――まだ、学校へ行かせてもらえるんだ。
クラスのほとんどが高等魔法学校や、魔法兵士の学校へ進学する。スタントンや、ベンゼルとは離ればなれになるが、デストロルとはこの先も一緒に勉強できそうだ。
そうして卒業式になった。その日キラは、首席で表彰された。
卒業生の代表はデストロルだった。壇上で答辞を読み上げる。
気弱だった彼だが、その日は両親の前で堂々とした声で、立派に務め上げていた。
卒業式が終わった数日後、キラのグループは、デストロルのタウンハウスに招待された。
「母上が、是非とも招待したいと仰ったのだ。キラ君たちには世話になったからって」
はにかみながらデストロルは招待状を一人一人に手渡してくれた。
流麗な文字でキラの名前が書かれた招待状には、ピンク色の上質な紙が使われていた。
キラは、なにを着ていけばいいのか分からない。公爵様のお屋敷など見たこともない。第一、貴族の屋敷がどこにあるのかも分からないキラだ。
養父に泣きつくと、青ざめた養父はまた商会へ走って行った。
セレスティンには、今回も手伝ってもらった。
貴族のお屋敷でも見劣りしない服を用意してもらい、手土産まで持たされたのだ。
持たされた木箱にはしっかりと商会の名前が入っていた。中には珍しい食材が入っているという。
「サミア国特産のナッツだ。これなら申し分ないはずだ」
商会が用意してくれた馬車で、オルヴェール公爵のタウンハウスにやってきた。
ここは、デストロルの家だ。
立派な門柱があり、兵の詰め所まである。門の前には兵が二人いて目を光らせていた。
招待状を差し出すと、兵士は慇懃に一礼をして門を開けてくれた。
馬車に乗ったまま、門をくぐる。
馭者まで緊張しているのか、絶えずキラに声を掛けてくる。
「坊ちゃん。あっしは一度戻ればいいんですかね。それとも待っていればいいんっすか?」
「……待っていてくれる?」
「分かりやした」




