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キラたちは、どのグループよりも早く拠点に帰ってきた。

他のグループはまだ山にいるみたいだ。教師が、控えていた護衛の兵士に事の次第を話している。兵士の一人が馬に乗って走り去った。


「明日からは兵士と共に討伐することになった。鞄に入りきれない獲物はそのままにしておいて構わないから、明日はどんどん倒して行く。多分予備の魔法鞄も持ってきてくれるから、君たちが鞄に回収しきれなくても兵士がやってくれるはずだ」

「先生、それでは討伐数の確認はどうなりますか?」


討伐数が多ければ、表彰されることになっていた。それがうやむやになるのがいやなのだろう。スタントンの発言にまた困った顔をする教師だった。


「今回は特例になるだろう。これほど地竜が増えてしまえば、それどころではない。まずは危険を排除する。それが一番重要なことなんだぞ、スタントン」


教師にいさめられてしゅんとなるスタントン。それに追い打ちをかけるようにベンゼルがからかい始めた。


「スタン、緊急事態だ。諦めろ、今年は表彰は無しになるかもな」


「容量が最大の魔法鞄を持ってきている人が一番になるんじゃない?」


ルシアーヌの発言で、チームは一斉にデストロルの方を向いた。デストロルはおどおどして俯く。


「私のは普通の容量だ。前回まで一度も地竜を倒せなかったから、父上には必要無いと言われたんだ」


ガックリするみんな。頼みの公爵の子供も持っていない魔法鞄。最大の魔法鞄とは、どれくらいの容量があるのだろう。


「高価な物だもの。子どもに持たせるはずがないわ。でも、皆一緒の討伐数になって良かったじゃない」


フェリーヌになだめられて、スタントンも渋々納得したようだ。


他にすることもなくなったので夕食の支度をし始めると、ちらほらと他のグループも帰って来た。するとスタントンがすかさず、駆け寄っていく。


「お前達はどれくらい地竜を狩った?」


彼らは一様に首を振って自分たちのテントに入って行く。


「地竜を見つけられなくて、採れたのは小さな魔獣だけだったんだってさ」


嬉しそうな顔をしてスタントンはその話をキラに聞かせた。


「きっと小石を投げなかったんだな。キラ!でかしたぞ。君のお陰で俺は一番になれるかも知れない」


まだ、諦めていなかったんだ。一番になれば何か良い事でもあるのだろうか。

次の日、報告に行った兵士が戻ってきた。随分急いで行ってきてくれたようだ。兵士は魔法鞄を大量に抱えていた。

キラ達には二つずつ予備の鞄が渡された。今日から百人の兵士が同行する。


「良し!これで一番間違い無しだ」


スタントンの言葉を聞いて皆もやる気に満ちてきた。


「分らないぞ。ここに居る誰もが一番になれる可能性がある!」


それを聞いて、デストロルも顔を紅潮させて、いつになく興奮していた。


「私でも一番になれるかも知れない」


キラは首をかしげて彼らの話を聞いていた。

――チームで競い合うのではなかったのかな? いつの間に個人戦になったのだろう。


他のチームが動き出す前に急ごうとスタントンにせき立てられ、岩山へ出発した。

昨日早めに帰ってきたので、十分に休養を取ったキラたちは走るような勢いで昨日のポイントに着いた。


昨日と打って変わって、地竜はのそのそと動き回っている。

岩壁から、体をくねらせて次々と降りて来ている。

それを見たキラ達は、直ぐに魔法を放ち、討伐していった。


「一体どれだけいるんだ。倒してもすぐに湧き出してくるみたいだ」


兵士達は、地竜を拾うのに忙しい。偶に生きている地竜にとどめを刺す程度だ。

小一時間ほどしか経っていないのに、次々と地竜が岩壁の上に姿を現す。

女子たちは魔力が切れ、疲れ切って危険のない離れた場所で休んでいた。


その後も、倒しても倒しても、地竜は次々と現れてくる。

キラはじっと観察していた。

岩壁のずっと上から、のそのそと出て出ているようだ。


「あそこだな……」


キラは、傍に沢山落ちている地竜の糞を体にこすりつけ、岩壁に手をかけ穴の傍までするすると登っていく。


「やめろ!キラ、戻れ」


教師が叫んでいる間に、キラはもう上に辿り着いていた。そこには大きな穴があった。その中をのぞき込んでみるが、思いのほか深い縦穴で、「きゅーきゅー」という鳴き声を上げながら、竜が穴の側面を登ってきている。


「先生、ここから一杯上がってきています。」

「なに!」


キラは教師たちに糞を体に塗って上がってくるようにいうと、彼らもしぶしぶそれに倣って、しかめ顔で糞をこすりつけた。

ようやく壁を伝って登ってきた教師と兵士が穴の中を見て、真っ青になった。


「こ、これは……スタンピードじゃないか!」

「地中の大地竜が出てこようとしているのかも知れない。こいつらはそれに押されて出てきたんだ!」


兵士が慌てて岩壁を降り、報告に行った。

教師とキラも壁を伝い下りて、再び竜討伐に加わる。


「先生。本当に大地竜が姿を現すのでしょうか?」

「大地竜は滅多に地上へは出てこないが、卵を産んだあとは別だ」


子がある程度大きくなると、その子に巣を譲り親が巣から出てくることがあるそうだ。


「今、魔法騎士を呼びに行った。間に合えば良いが。兎に角倒せるだけ倒そう。回収は諦めるぞ」


兵士達も一緒になって倒して行くが次々出てくるので、キラ達の間をすり抜けて岩山を下っていってしまう。

程なく他の生徒のグループもこのポイントに到着した。


「す、すごいな……」


他のチームは初めて見る光景に浮き足立ったが、教師に叱咤されて、魔法を撃ち始めた。

皆で倒して時間を稼いでいる。周りには地竜の死骸が所狭しと横たわっている。


これだけ狩ってしまえば、この後の生態系が崩れてしまうのではないか?

キラは漠然とそんなことを考えていた。

そして一瞬頭の中に浮かんだ「生態系」という言葉に、どこからの知識かと考えを巡らす。


だけど、今まで読んだ本の知識ではなさそうだった。

キラにとっては馴染みのない言葉だったが、よくよく考えて見れば、確かに考えられる事態ではないだろうか。


今まではロックエイプや、他の魔獣は地竜達の餌になって増えすぎないようにバランスが取れていたはずだ。

それがいま崩れてしまえば、今度は繁殖力の高い魔物が増えすぎるのではないか。

しかし、今倒さなければ、興奮状態の地竜が里まで下りてしまう。にっちもさっちも行かない状況だ。

一番良いのは、大地竜を討伐することなのだが。まだ出てこない。

キラが心配してもどうにもならないことだったが。


そんなことを考えながらも、機械的に魔法を放っていたため、何時間経ったのか分らなくなってきた。


「すごい! 竜騎士と魔法騎士が来てくれたぞ、見ろ!」


ベンゼルの声で振り仰ぐと、飛竜が飛んでいた。飛竜から何かが落ちてくる――人だ!


キラ達のすぐ目の前に、マントを翻しながら背の高い六人の騎士が降り立った。


「遅れて済まない、後は任せて、君たちは避難してくれ。」


飛竜は上空で円を描くようにゆったりと飛んでいた。


――この人たちはあそこから降りてきたのか?


キラはこのまま見ていたかったが、教師たちに「大地竜が出てくれば、ここにいては危険だ」と言われ、連れ出されてしまった。


拠点に戻った生徒たちは、クラスごとに集まっていた。


「ベンゼル。さっきの騎士たちは、空から降りてきたように見えたけどどうなっているの?」


キラが聞くと、ベンゼルは、得意そうに話してくれた。


「竜騎士と魔法騎士は風魔法の使い手だ。浮遊魔法が使える。私の目標なんだ。魔法兵士になって、実力が付けば竜騎士や魔法騎士に昇格できるんだ」


浮遊魔法というのがあるんだ。頭の中の教本をもう一度探ってみるが、見付からない。彼等の特有の魔法なのだろうか。それとも、魔法大学で習うものなのだろうか。

この学校を卒業すれば皆バラバラになる。高等魔法学校へ行ってその先の魔法大学を目指す者もいれば、家業を継ぐ者もいる。貴族の子女は、結婚のために準備をするという。

ベンゼルは、騎士学校へ行ってしまう。キラはまだ自分がこの先どうなるのか分らなかった。商会ではキラをどこまで学ばせてくれるのだろう。


暫くすると、親の大地竜が討伐されたと知らせが届いた。

大地竜は、巣別れをする習性があるのだという。生まれた子に巣を明け渡して、新たな住処を探して歩き回るのだそうだ。

巨大な竜が、里に下りてきたら危険極まりない。その前に討伐できて、皆ほっとしていた。


「今回の課外授業はこれで終わりにする。皆帰り支度をするように」


予定を繰り上げて、キラ達は学校へ戻る事になった。


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