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今年最後の課外授業があると、クラス中がウキウキしている。
年三回あるという課外授業だがキラにとっては初めてのことだ。詳しい事情が分らず、スタントンに聞くと、
「五人から六人のグループを作って、魔の森に隣接する岩山まで行って竜を討伐するんだ。岩山には小さい地竜がいる。それをどのグループがどれだけ獲ったかを競う。危険もあるけど愉しいよ。今年のクラスは十二人だから六人のグループ編成になるだろうな。もうグループは決まっているはずだ」
何でも二週間もその課外授業に割くそうだ。
魔の森の近くまで行くとなれば、それくらいはかかるだろう。
キラは、自分がこの国に入ったときのことを思い浮かべながら、スタントンの話に聞き入った。
持って行く物や準備が兎に角大変だとスタントンは言っていた。
最終学年は三クラスだから、全部で六グループくらいだろう。
平均で竜の討伐数は一チーム四頭らしい。五頭狩れば上位に食い込めるとスタントンは意気込んでいた。
スタントンの光魔法のレベル上げにもなるそうだ。
キラのグループは、女子二人と男子四人の六人だった。男子はキラとスタントン、士爵家の長男ベンゼル、公爵の側室の子デストロルだ。
公爵の子供と言うことで気位が高いかな、と思っていたが案外そうでもなかった。引っ込み思案で気の弱そうな子供だった。
六人の中で先頭に立って計画を練っているのは女子の二人だ。
一人は男爵の第二子でルシアーヌ、もう一人は伯爵の三女でフェリーヌといった。
フェリーヌの家には女の子しか生まれなかったという。
長女は家の跡取りとして育てられ、次女はスペア。フェリーヌはいい縁組みを獲得するために魔石を埋め込んだそうだ。
彼女達は魔力も少なく、属性も水だけだ。貴族の女子は、魔法が使えると結婚の条件が良くなるのだと言った。
「私は王族との縁組みを期待されているの。それが、重くて……」
フェリーヌがけろっとしてそう言っている。貴族とは恐ろしい。
我が子の命を危険に晒してまで、魔石を埋め込むのだから。もし失敗していたら、フェリーヌは今ここにいなかったかもしれない。たとえ生き残れたとしても、片腕を失っていただろうに。
ベンゼルという男の子は魔法兵士になることが決まっていると言っていた。
魔法兵士になって手柄を上げ魔法騎士になれば、彼の代で爵位が上がるそうだ。彼の家では、男子が生まれるたびに魔石を埋め込ませていた。三度目でようやく生き残った子が、ベンゼルだという。
「我が家はお金がないからな。これ以上は諦めていたらしい。でも、私が生き残って、父上は相当喜んでくれた」
持ち物は皆で分担することになった。食料類は女子で、鍋釜などはキラの担当になった。他の物はそれぞれ男子に振り分けられた。
学校から魔法袋の貸し出しがあったのでキラはそこから借りることにした。養父は高価な魔法袋は持っていないだろうと思ったからだ。
家に帰って、養父に課外授業のことを言うと、慌てて商会へ走って行った。
暫くすると、養父はセレスティンを連れて帰ってきた。
「キラ君、君の担当は何だって?」
「えーと、鍋や釜、器です。でも、魔法袋は貸して貰えました」
「ああ、君に気を遣わせてしまったね。そんなことはしなくて良かったんだ。商会が総てそろえておく。気にしなくて良いからね。」
子供達だけでそろえて自分たちだけでやらなくても良いのだろうか?
誰にも言わないで自分でそろえれば良かったのだろうか。しかし、キラには鍋一つもそろえることは出来ない。何となくズルをしているようで気持ちが落ち着かなかった。
しばらくして、魔法鞄を二つ持ってセレスティンが戻ってきた
一つには学校の課外授業で使う鍋釜が入っていて、もう一方はキラ専用にするための真新しい魔法鞄だった。
「君が借りてきた魔法鞄は学校に返しておくよ。これは本人登録がされていないから、誰でも中身を取り出せる。万が一盗まれたら、学校に弁償しなければならないんだ」
そんなこととは知らなかったキラは、あわてて魔法袋をセレスティンに渡す。
セレスティンには、これからこの新しい鞄はキラの専用だから、暗唱言葉を決めなさい、と言われキラは父の名前にした。
暗唱言葉は、誰にも分らないようにしないといけないそうだ。
魔力のない人でも、その言葉を唱えれば魔法鞄の主人と認められる。だから、他人に知られれば中身を取り出されてしまう。
鞄の底に小さな魔石があり、それに手を置いて父の名を頭の中で唱えながら魔力を通すと、ビリリと痺れを感じた。それでこの鞄はキラの物になったようだ。
「さすが、魔法使いの卵だな」
セレスティンにいわれて、目をぱちくりする。
本来は、暗唱言葉は、魔法使いが一緒にその場にいて魔力を通さなければ、魔石に刻むことが出来ない。だが、キラは、魔石に力を通せるようになっている。
セレスティンは、もしかすると、キラの力の確認も兼ねてこの魔法鞄を持ってきたのだろうか。
セレスティンは、自分の魔法鞄から、登録を終えたキラの魔法鞄へ次々と荷物を移し替えた。それから「じゃあな」と手を振って帰っていった。
自室で一人になってから、セレスティンが持ってきた物を確認する。
大型の鍋、中型の鍋、小型の鍋、皿、コップ、カトラリー、包丁、まな板、お玉。料理屋でも開けそうな位入っている。
「こんなに使わないと思うけど。折角用意してくれたから持っていくか」
鍋が一つあれば、何とかなるのに。皿は大きな葉っぱがあればそれで良いし、木の棒に肉をさして焼けば、それだけで何とかなるのだ。他は必要無い。
キラはそう考えてしまうが、貴族の野営の仕方は違うのだろうと諦めた。
課外授業の当日になった。
生徒達はワクワクしているようだ。グループごとに馬車に乗り、それぞれに担当の教師が剣を持ち、防具を着けて一緒に乗り込んでくる。
「いくら課外授業と言っても、危険はあるからね。気を引き締めて、はぐれないようにしなさい」
教師は緊張している。毎年三回も経験していても、魔獣が沢山いる魔の森近くまで行くのだ。何かあれば、貴族の子供を危険に晒すことになってしまう。
「皆、絶対に一人では行動しないように。だが、魔獣は倒せれば倒してもいいぞ。君らのレベル上げにもなるからね。」
子供達は、魔法使い用の初心者ステッキを持ち、ローブを着ている。
キラも今回用意して貰った。このローブは防具になるそうだ。ステッキは魔力の通りが良くなって魔法の威力が上がるんだとか。
力ある魔法使いになれば、必要なくなるステッキだそうだ。
ステッキにはやや大きめの魔石が付いている。
普段魔法の練習のために使う魔石よりは色も澄んでいた。
「商会は、僕のために相当お金を使っているんじゃないのか?」
使ったことが無いので今回試してみるしかないだろう。他の生徒たちは使い慣れているみたいだったが、普段は持ち歩けないといった。
「危険なのよ。魔法の威力が全然違うんですもの。子どもには、普段は持たせられないんですって」
ルシアーヌが大人びた口調で話してくれた。
確かに、ここにいるのはまだ十歳の子ども達だ。子どもはなにをするか分かったものじゃないからな。
そんな感想が、キラの脳裏に浮かび上がる。
周りにいるのが年下のような考えになった自分が、キラには不思議だった。
馬車で半日ゆられ、休憩を挟んでまた馬車での移動。結構大変だ。
道路が整備されていたので、揺れは気にならないが、ずっと座りっぱなしは、身体が硬くなってしまって疲れる。
夕方になり、野営地に着いた。まるでキャンプ場のような所で、皆それぞれ準備を始めた。キラはなにをしたら良いのか分らない。周りを見て戸惑っていると、ルシアーヌに呼ばれた。
「キラ君、貴方、お鍋の担当でしょ。こっちへ来て火をおこして頂戴。」
「は、はい。」
竈はここに元々設置されていた。それに小枝を入れ火を付けるようだ。火打ち石は持ってきていない。またうろうろしていると、
「貴方、魔法を使えるでしょ! ステッキがあるんですもの、火くらいつけられるでしょう」
――オオ、そうか。魔法があった。
ステッキを手に少し念じると、先端から細い火が噴き出した。
枝に火が移り、みるみる燃え上がっていく。
「凄く便利だ。魔法って」
はしゃぐキラを、ルシアーヌは呆れたような顔で見ていた。
一緒にいた、フェリーヌがルシアーヌを、優しくたしなめた。
「ルシア、余り厳しく言わないで。キラ君はついこの間魔力操作を覚えたばかりなんだから。それにまだ八歳なのよ。キラ君凄く上手に火を付けられたわね。偉いわ。」
フェリーヌはそう言いながら、キラの頭を撫でた。
何となく子供扱いされているような気がして、ややムッとするキラだったが、何と言っても彼らの方が年上だし、経験者でもあるのだから。
そう思い直したキラは、素直に教わることに決めた。
「次はなにをすれば良いのか教えて。ルシアーヌ」
「そうね、じゃあ薪を運んできて。あそこに見える小屋が薪小屋よ」
薪を運び終わり次に鍋を出すと、ルシアーヌが鍋に水を入れる。これも魔法だ。まな板と包丁を出して、料理の下準備の手伝いをする。貴族の子供なのに随分手際が良い。これまで何度も経験しているせいなのだろう。
他のメンバーは何をしているのか見てみると、テントの設置をしていた。
食事の準備が終わり皆で食事をする。ここにはテーブルまで備え付けられていた。
フェリーヌが、テーブルに白い布を広げその上にキラの持参したカトラリーを並べ、シチューを皿によそう。
まるで、レストランでの食事だ。
皆、行儀良く、音も立てずに食事をし始めた。
野営と言うよりはお手軽キャンプだった。
後片付けは男の子の担当だった。片付けが終わると、皆でくつろいだ。
「デストロルのテントは新品か?」
「そうだよ。この度、父上が買ってくれた。温度調節機能が付いた最新式だよ」
「へえ、凄いな公爵令息は。俺のはまだ旧式だ。もうそろそろ買い換えて貰おうかな」
ベンゼルがそう言って自分のテントを眺めると、スタントンが茶化し始める。
「でも、デストロルのテントはきっと女子に取られるさ。僕達はベンゼルのテントを使う事になる。賭けてもいいぜ」
「仕方がないか。女子には機嫌良くして貰わないと。後で怖いからな。」
男の子だけで、クスクス笑っていると女子がトイレから帰ってきた。
「デストロルのテントを私達が使わせて貰うわ。」
「ほらな」
またみんなで笑い始めた。キラは愉しかった。
こんな風に同年代の子供と話したことがなかった。
少し年上の少年少女だが、貴族の子どもがほとんどで、立ち居振る舞いも気品があった。
貴族ではあるが、お高くとまっている子どもはいない。
この学校の生徒たちには、同じように命の危険をくぐり抜けてきたという仲間意識があるのかもしれない。




