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勇者になりたかった俺はいろいろあって魔王になることにしました  作者: 海月 恒


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2/3

第2話 夢の終わり



 その日から俺は、超ひねくれた。


 上瞼は重く目にかかり、黒真子に半分のしかかる。

 以前の希望に満ちた瞳の輝きは消え失せた。

 薪を集める丘から、つまらなそうに魔物の村を眺める。

「初めてだな」

いつものように集め終えた薪を置いて、レナが話しかける。

「お前が、剣を握らなかった日は」

リオは何も言わず、微動だにしない。

「お前が血迷って、王都にいかないか心配だった」

「・・・もう行ったさ」

目を見開いくレナ。

「馬鹿もの! そんなことして・・・ 大丈夫だったのか!? 魔物だとバレていたらどんな目にあっていたか・・・」

「俺はやはりもう・・・人間でもないらしいな」



 昨日の夜、儀の後。

 どうしようもない焦燥感に狩られたリオは、王都に走り出していた。

 深く黒いフードをかぶり、小さな角が見えないようにしてギルドに入り込んだ。

 「じゃあ兄ちゃん、この書類にサインして、明日の試験を受けてきな。場所は中央広場に集合な」

 よし!試験は受けれる! 大丈夫だ。

 勇者にはなれる! なれるはずだ!


 どうにかこの喜びで、心を穿つような真実をかき消そうとぎこちない笑顔をみせた。

 ギルド内を見渡すと、筋骨隆々の屈強な男や、高価そうな金銀の装備を見つけた魔術師が楽しそうに話している。

 なんて華やかなんだ。同業の仲間がいて、時に協力して、時に競い合って。切磋琢磨していくんだろうな。

 いいな。いいな。俺たちも・・・

 そう言いかけたとき、壁にかかった装飾に目が止まった。

 あらゆる魔物、ゴブリン、キメラ、リザード。

 その首だけの剥製が、業績として並んでいた。

 初めは何も思わなかった。

 しかし、だんだんとその魔物の黒く沈んだ目から、感情が心に入り込んでくる気がした。

 それは一気に、確かに心に恐怖と気持ち悪さをリオの胸に刺しこんでいく。


 なんだこの・・・気色悪さは・・・

 俺は・・・どうなって・・・


 それは危機感となり、脳を乱すような危険信号に耐えられなくなった。


「おい兄ちゃん!」

 またいてもたってもいられず、ギルドを飛び出した。

 無我夢中で走り続けた。

 

 なにがどうなっているんだ!

 なんでこんな・・・


 城門の出口に近づいたとき、長い槍を突きつけられた。

 足を止めたリオの前には深いフード被った男が一人、道の真ん中に立っている。

「君、変な匂いがするね」

 男は槍を深く構え直した。

「君、人間? それとも、魔物?」

 淡々を突きつけられた問いに、リオは思考を止めた。


 舗装された石道をみて俯く。

 

 俺が人間か、魔物か?だと・・・


 そんなの・・・


「・・・俺が一番知りてぇよクソが」


 赤黒いオーラを漂わせ、刃物のような目つきで睨んだ。


 その気迫に、男は気圧される。

 そう言葉を残して、リオはゆっくり歩いて男を通りすぎると、そのまま王都を後にした。

 絶望を肩に乗せ、トボトボと歩いて行った。




「危険すぎる。よく無事で・・・。というか会話が出来たのか!?」

「なんだかわからねぇが会話はできたぞ普通に」

 会話できる魔物も存在するのか・・・

 レナは顎に手を当てて考えた。


「魔物の剥製を見た時、他人事に思えなかった。なんだか知り合いというか、すごく身近な誰かの死体が飾られてるような気がして。それが首だけになってて...。気持ち悪くて。あの鏡の光を浴びてから何か感覚が違うのがわかる。今までの感じてきた空とか風とか、地面とか土とか。そういうものにすごく敏感になってる」

「きっとそういう効果もあるのだろう。あれは、自身の隠れた特性を明らかにする魔法。今まで隠されていたものの真実を映し出すものだ。だから魔物としての感覚が新たに。いや、取り戻したと言っても過言じゃないな。そしてこれからもっと、それは強くなっていくはずだ」

冷静にレナは話す。


 本当に俺は魔物なんだな。


 「なんだったんだろうなこれまでの努力は。勇者なんて夢見て、馬鹿にしてきたあいつらが、正しいってことになっちまったのかな」


 リオの言葉に誰も反応しない。


「お前らは...何も思わねぇのかよ」

 リオはボソッとつぶやいた。

「思わない訳ないだろ。最悪だ」

 一仕事終えたナキが丸太をドスンと下ろして言う。

「だが、逃れようのない事実だ。泣き喚いても変わらない」

 レナもまた太い薪をナイフで割りながら言う。

「何がなんでも、勇者になろうって思わないのか!?」

「仕方ないだろ」

 他人事のように言い、レナがナイフを振り下ろす。

「なんだよそれ。俺たちの、俺たちの夢だったろ!?こんな一晩で終わっちまう程度のものだったのかよ!」

「魔物の勇者なんか聞いたことないだろ」

「なんでそう簡単に諦め切れるんだ・・・  お前らの夢は、そんなもんだったのかよ」

複雑な思いが怒りとして溢れ出ていく。

「なんだよお前ら・・・ 納得いかないのは俺だけなのか!? お前ら、勇者になりたいって本当に思ってたのか!?」

「何を馬鹿げたこと・・・ 本気に決まってるじゃないか」

 レナは怒って言う。

「だったらなんで簡単に諦めがつくんだよ! お前ら・・・もしかして勇者になりたいっていう俺に合わせて嘘ついてたんじゃ・・・」

 そう言いかけた時、ナキが大きな拳でリオを殴り飛ばした。

「良い加減にしろ! 滅多なこと言い出すんじゃねえぞ!」

 何周か転がって止まるリオ。

「俺は良いよ。大抵のことは。だがレナの気持ちも考えてやれ!どんな思いでお前と話してると思ってる!レナはな...」

「ナキ」

 ナキを止めるレナの目は少し潤んでいた。

「確かに君に比べたら勇者への渇望は足りないかもしれない。でもなリオ。私は、私なりの覚悟を持って決めたことに違いはない」

 四つ這いになってうろたえるリオの肩に手を置いてレナが続ける。

「悲しいよ本当に。君の夢が、遠ざかっていって・・・。でも、絶望も悲しみも、私が一緒に受け止めるから」

 両の肩に手を置いてグッと顔を近づけるレナ。


「覚えていてほしい。君は一人じゃないよ。ずっと一緒だ。苦しみも半分こだ。だから私はいいんだ。自分が魔物でもなんでも」


 レナが純粋無垢な笑顔で涙を流す。


「もういっそのこと、一緒に地獄の魔王にでもなってみるか?」


 そう囁いたレナを真っ直ぐに見つめるリオの頬に、ゆっくりと涙が伝った。

 

 ナキはほっとした優しそうな顔を見せる。

「さ、村長が話があるってよ。戻るぞ」

背を温める朝日に見守られ、トボトボと村に三人は降りた。





 村に戻り薪をアンさんに渡すと、区長が俺たちを手招きして、村長の屋敷まで案内した。

 高級感のある木目が美しい長テーブルを挟んで、尊重は座っている。

「先日の成人の儀、ご苦労であったな。さぞ驚き、そして絶望したことだろう。この村と、うぬら自身の真実に」

 三人は浮かない顔で傾聴する。

「苦しいと思うが、どうか受け入れてくれ。皆そうして大人になったのじゃ」

 「最初から魔物だって分かってりゃ、こんな思いはしなくて良いだろうによ」

 気怠そうにリオは呟く。

「そうじゃな。しかし前も言ったが、もし外部の人間に姿を見られたら、子供のお前達では何もできずに殺されてしまう。この村の未来を担うお前達をどうしても失うわけにはいかんかったのじゃ。自分で身を守れるある程度の魔物としての強さを得るまではどうしても、身を偽る必要があったのじゃ」

「だったら、大人になっても魔法をかけ続けたらどうなんだ?」

 淡々とレナが言い返す。

「18歳を過ぎる頃から、魔物の匂いと魔力は強力になり、もはや魔法をかけても掻き消えなんだ。魔法の効果も数分と持たないことがわかった」

 レナは黙り込んだ。

「そして、本題はここからなんじゃ。まぁ座りなさい」

 三人は並んでいる椅子に腰を下ろす。

「この小さな魔物の村が自分たちだけで生きていくことができているのは秘密ある」

 お茶を一口含んで村長は続ける。

「ここに住むもの達を食べさせていくには食料も飲み物も、実は到底足りていないのじゃ。そこで大人になった魔物には、外へとある出稼ぎに行ってもらっている」

 「出稼ぎ?」

「人間の村から金品や物資を強奪してくるのじゃ」

「は? まじ?」

 ナキは目を丸くして驚く。

「冗談じゃない。なんでそんな魔物みたいなこと・・・」

「もう魔物なんじゃ!お前たちは」

 村長は珍しく怒りを露わにする。醜い異形の顔の村長はより一層迫力を増してみえた。

「お前達が今まで幸せに生きてこれたのも、その役目をに担ってきたもの達がいたからじゃ。お前達もそれを続けていくのが筋と思わんか」

 レナは動揺し沈黙している。細かく震えながら、リオが口を開く。

「・・・俺は、勇者になりたかったんだぞ。人々を、俺たちのような魔物の手から守りたくて。魔物を滅ぼしたくて、勇者になろうとしてたんだぞ! それがその・・・正反対の存在になれなんて・・・あんまりだジジイ」

 涙を溢して訴えた。

「あんまりだよ・・・ジジイ。俺の、俺たちの夢は・・・どうなる?」


「叶わぬ」


 表情ひとつ変えず一村長は言葉を落とした。

「幸運なことに、お前達は魔物の中でも特別優れた存在だ。レナはエルフ。ナキはオーク。そしてリオ、悪魔の血統。お前達ほどの魔物が動けばこの村もより一層安泰するだろう」

 村長は立ち上がって続ける。

「今までだれもがその苦しみに耐えて生きてきた。私もその一人だ。痛みならもう十分すぎるほど分かる。だが頼む。どうか、この村の為、この村に尽くした先祖の為。そして幼き魔物の未来の為。お前たちの力を、貸してくれぬか」

 荒れ狂う感情の槌の落とし所なく、今にも爆発しそうなリオを、レナは見つめる。

「・・・ふざけんなよ」

 そうつぶやいたリオの肩にレナは手を添える。

「今日はもう、帰ろう」

 レナがリオの手を引いて歩き、三人は屋敷を出た。


 過酷すぎる真実が、三人の胸を締め上げる。

 この現実を乗り越えた先に、一体なにがあるのか。

 今の三人には何一つ、想像できない。


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