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勇者になりたかった俺はいろいろあって魔王になることにしました  作者: 海月 恒


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第1話 魔物の村


 早朝の柔らかな日差しに照らされ大きな木の影で、少年が木刀を振っている。

「精が出るな、リオ」

 幼馴染のレナが薪を背負って話す。

「ああ、おはようレナ」

 一息ついて剣を下ろし袖で汗を脱ぐ。

「あの日から十年。結局お前は一日も欠かすことなく鍛錬したのだな。」

「お前たちもだろ? 約束だからな」

 雲の隙間から顔を出す朝日を眺めて、二人は続ける。

「明日だ。明日から、俺たちの冒険が始まるんだ」

 瞳には光を反射させ未来への期待と希望を映していた。

 

 

 此処はマーラ王国。

 魔法が飛び交う、華やかで豊かな国だ。

 その領土は広く近辺の海、山々は領地であり、自国内の産業で国民の生活が回るほど、完成された世界である。

 しかしそんな世界にも問題がある。

 それが魔物の存在だ。

 魔物はいつからいるのか、どこから湧いて出るのか分かっていない。ただ分かっているのは問答無用で人間を殺している事だ。

 スライム、ゴブリンから、サイクロプス、キメラ、そしてドラゴンまで。確認された魔物の全てに意志の疎通はできず、人間をみれば発狂したかのように暴れ、対象が死に至るまで追いかけてくる。

 人々の恐怖そのものとなっていた。

 

 その脅威に対抗すべく、対魔物に特化した冒険者が生まれた。

 それが勇者ブレイブと言われる、ギルドに所属する者達だ。

 勇者はその強さや、戦績によって五つのランクに分けられる。

 それは星の数で示され、ファーストスターからフィフススターまで存在する。

 中でも世界最高峰勇者、テラ・アートルムはドラゴンをたった一人で討伐し、最年少でファイブスターとなった。

 

 彼の存在は勇者という仕事を軒並み輝かせ、その世代の多くの若者を勇者へと誘った。

 

 

何にも変えがたい栄光を得るために。

 

 

「リオ明日は秘策があんのか?」

薪を集めているナキがリオに話しかける。

 幼馴染のナキとレナと一緒に薪集めをするのは毎朝の日課だ。

「ああ? 秘策なんかいらねぇよ。今持ってる実力を全力でぶつけるだけだ」

「そんなに単純で上手くいくだろうか」

 レナはボソッと呟く。

 白色のショートヘヤーに黄色い目をしているレナ。村一番の秀才で、どんな時も冷静だ。ちなみに村の1番の美女としても有名だ。

 ナキはガタイがよく、おっとりとした性格をしている。やさしい顔立ちで、力仕事ならなんでももってこいの男気あふれる奴だ。


 明日は成人の儀。今年十八歳になる人に行われるこの村の一大イベントだ。その内容は儀式に参加する人だけに教えられ、あまりの衝撃に人間が変わったようになる人も多いらしい。

 噂では未来を占うことで、その後の人生が決まると言われている。

「明日の儀式って一体なにするんだろうなぁ」

ナキがポカンとした顔で呟く。

「私たちももう成人か。早かったな」

「そして、勇者の試験が受けられる年だ」

 目を輝かせて言うリオに、微笑む二人。

「私たちの夢だったからな」

「長かったなぁ十年か」

 リオとナキが空を見て言う。

「ずっと。ずっと待っていたんだ。お前らとこんな村出てよ。前線で活躍する勇者になる日を」

 



 八歳の三人がそれぞれの剣を頭上で重ね合わせて誓っている。

「どんな魔物も倒し、苦しむ人を救う、最強の勇者に」

「ベリオルス・シルファーレ!」

「レナ・ライトフィールド」

「ナキ・オルグハート!」

 


その日から俺たちは鍛え続けた。十年後の今日の為に。

 

 

「なぁ一気にサードスターまで合格したらどうする?」

「馬鹿言え。サードスターなんか普通にクエスト進めたって10年はかかるという話だぞ」

 大きめの薪を半分に折りながらレナが言う。

「でもわかんねぇだろ? テラは最初からフォーススターだったって言うし」

「ありゃ別格だろ。なんせ火、水、電気、風、土、の五大魔法と聖属、闇属そしてその複合技、その全てにおいて上位魔法を最初から撃てたって話だぜ。お前ができるのなんか火の魔法一つだろ」

 薪を手刀で縦に割るナキ。

「で、でもよ! 俺にはこの剣技がある!」

「その剣技でも、テラは王都で五本の指に入る実力だ。奴の槍術は、見えないらしい」

「俺の振りだって見えねぇぞほら」

 レナの言葉を背中に受けながら、リオは木刀を振り回し、風を切る。

「次元が違うのだ」

「まぁファーストからでもいいじゃねえか。俺たち三人、一から武功積み上げて成り上がってやろうぜ」

 レナとリオに肩を組んでにっこりと笑顔で言うナキ。

「ああ」

 二人も微笑んでこたえた。

「さ。村に戻るぞ」

三人は薪を背負うと山を降りた。


 

 人口300人程度の小さな村。

 目立って特産物もなければ、有名人もいない。なんの取り柄もない村だが、みんな幸せそうにくらしてる。

 というのも自分たちが生きていければ良いので、農作や家畜業が安定しているここでは、特に困ることが何もないのだ。

 故に退屈。リオは幼いころからそう思っていた。


「おはようみんな。朝ごはん食べてきな。今日は大忙しよ」

「アンさんおはよう。薪たりるかな?」

レナは薪を下ろしてみせる。

「十分よ。毎日ご苦労さま」

 笑顔が素敵なこの女性はアン。村の母親的存在だ。

「あぁー腹減ったー。飯いこうぜー」

リオについていったナキとレナ。

村には大きな食堂が一つあり、大体の人がここで朝昼晩飯を食う。メニューは日替わりで、その日の材料の取れ高によって変わってくる。

 

「また卵料理・・・ 腹膨れねぇよ!」

「そう文句を言うな。あるだけでもありがたいとおもえ」

 ホットミルクを飲みながらレナは言う。


「あれあれ、勇者になるとかほざき回ってる夢見心地三人組じゃないですかー」

 嘲笑いならが近づいてきたのは、同い年くらいの男4、5人だ。

「きっと自分がフィフススターの勇者になる幻覚でもみてるんだろうなぁ。みーんな笑ってますよ。絶対無理だって」

「朝からうるせぇよあっちいってろコリアンダー」

見向きもせずご飯を食べるリオ。

「だいたい貴方、剣も魔法も人並み程度だし。なーんも取り柄がない。それと違ってああレナさん。今日も美しい。レナさんは魔法がお得意でしたねぇ。こんな妄想男とつるんでなくて、俺たちとくれば良いのに・・」

「・・・誰だお前は」

 氷のように冷たい視線をぶつけるレナ

「はあっ!」

 グサリと心に何かが刺さる音が外まで聞こえてきそうだ。

「レナ。生まれてから毎日ここで顔くらいみるのにまだ名前覚えてないのか?さすがに可哀想だぞ」

ナキがパンを頬に詰めて言う。

「あいにく、私の頭は余計なものは記憶しないようにできているのでな。容量がもったいない」

「冷たいレナさんも美しい!」

 コリアンダーは涙目でそう言って去って行った。


「諸君。おはよう。良い朝であるな」

村長がマイクを持って咳をしながら話している。

「明日はいよいよ成人の儀だ。それぞれの行く道が決まるこの日を待ち侘びておるものも多かったろう。この日を堺に今まで子供だったものは大人になる。そして自分の特性にあった仕事について、自分自身と、この村の繁栄のために勤むのだぞ」

 

 スープを口にかきこんだリオが気だるそうに口を開く。

「ありふれたくだらない挨拶だぜ。俺はこの村のつまらない日常とはおさらばして、輝かしい未来を生きてやるよ」

「そうなると良いがな」

「俺はこのままでもいいんだけどなぁ。うーん美味しいスープだ」

「あの舐め腐ったクソガキどもも、平和ボケしたこの村の連中からも崇められるような勇者になって見返してやるんだよ」

 明日で全て変わる。明日で。

 期待と野心を胸に食堂を後にした。



 そして次の日はすぐやってきた。

 日が完全に落ちて少し不気味な夜の中、荘厳な太鼓の音と、村全体を覆う燈が怪しげに道を照らしている。成人の儀を受ける白い袴のような着物をきた若者がと列をなしてあるく。

 その道中で、涙ながらに村人が肩や手を触りおめでとうと伝えてくる。

 こっちももらい泣きしそうになってグッと堪えた。

 列は村全体を練り歩くと、いくつかに分かれ、一人ずつ小さなテントに入っていく。


 恐らくあれが占者がいる場所か。


 緊張もあってか、自分の番はすぐにやってきた。

 入り口を占者の従者に開けられ、誘われるように入ると、高価そうな赤い椅子に座らせられた。


 中にいたのはフードを深く被った顔の分からない人だった。

「ベリオルス・シルファーレ。其方は何をのぞむ?」

高齢女性の独特な渋みのある声で聞かれた。

「お、俺は、勇者になりたい」

「何故」

「誰からも認められる・・・」

 そう言いかけた時、違和感が胸を刺した。


 見栄や世間体のため、じゃないよな。ほんとは。


 改めて聞かれるまで忘れてた。

 古い記憶を思い出した。

 泣きじゃくる幼いレナを背に、立ちはだかるトロールに木の枝を向けていた。

「もう、怖い思いして生きる人がいなくて良いように。強くなって守ってあげたい。誰もが安心して生きていける国を作りたい」

純粋な曇りなき瞳で答えた。

「ほぅ」

 占者は水晶を見たまま少し黙って続けた。

「残念じゃがその夢叶うには困難かと思われる」

「けっなんだよ。いいよいいよ。そういうの。俺たちは自分の力で運命変えっからよ」

「......いや、そう言う問題ではないのだ。成人の儀は、真実の開示から始まる。そして、その者の真の姿を炙り出す」

 そういうと楕円型の大きな鏡を持ち出した。

「なぜ18歳が成人なのか。それは特性が顕現し始めるのがその歳だと言われているからだ。そして今それを著明に映し出す」

リオに向けられた鏡が赤黒い光を発すると、

「こ、これは・・・」

 驚いた占者が立ち上がって、鏡を覗いた。

 鏡に映ったリオの頭からは禍々しく捻れた角が二本生えていた。

「悪魔の血統!」

「はぁ?な、なんだこれ!」

 驚いて実際に頭を触るとそこには鏡ほど大きな角はないが、小さな角が髪に埋もれていた。

「小ちゃい角生えてるぅーー!ババア何しやがった!」

「それがお前の本来の姿じゃ」

「何の話してんだ! 悪魔?」

「先に見てもらった方が早いと思ってな」

椅子に座ると占者は一息ついて話を続けた。

「この村の真実を教えよう。この村はな、代々続く魔物の村なのじゃ」

「へ? ま、魔物の村?何馬鹿な事言って・・・」

 占者がフードをとると、人とは思えない異形の顔立ちであった。

「どぅわあああああ! 魔物!?」

「衛兵もいない小さなこの村が魔物に襲われずに安全にやってこれたのは、この村自体が魔物の巣窟だからじゃ」

「う嘘だ・・・だって、今日だってみんな普通に人間だった・・・」

「それはお前たち子供には人間に見える魔法をずーっとかけておるからじゃ。食べ物と一緒にな」

「なんの為にそんなこと!」

「だれも受け入れ切れんじゃろう。自分が魔物だなんて。だからある程度ものの良し悪しが分かるまではそうやって人として生かしておるのじゃ」

「そんなの・・・逆に辛いだけじゃ・・・」

 現実を受け入れきれないリオ。動揺して思考がまともに回らない。

「もし我々が純真の魔物。かつてのように思考を持たぬ野蛮な魔物のままであれば、こんなことにはならなかった。しかしある時点を堺に我々は自我を持つようになった。魔物も進化したのじゃろう。この世界では魔物は問答無用で忌み嫌われ、殺される存在。この上なく弱い立場にある。まだ幼いお前達を、守る為だったのじゃ」

「何か他に方法なかったのか?人間に話してみて・・・」

「残念じゃが、我々低レベルの魔物では波長が合わず、人と会話することができん。逆に今私の言葉がわかると言うことは、其方が魔物であるという確たる証拠じゃ」

「俺が・・・魔物・・・?」

 状況が飲み込めないまま、テントを後にしたリオ。

 目の前に映る景色は、一刻前とはまるで違う異世界。

 ゴブリンがはしゃぎ回っている様子。

 ハイオークが屋台で焼き鳥を焼いている様子。

 酒をゆっくり飲むアルラウネ。

「なんだこれ・・・」


 占者の言葉が頭をよぎる。

「俺にどんな道が残されてるんだ・・・」

「運が良いのか悪いのか。其方は悪魔の種族。何百年も前に滅んだとされていた強力な伝説の魔物だ。そしてー」


月明かりに照らされた闇夜に濡れる村を高台から眺めるリオ。遠くには連山がそびえ、山岨には月光が鈍く反射している。


        


        その種族はいつの時代も


        絶対の魔物の王として


           君臨する


 




 

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