第3話 そして夢の始まり
断る道理はなかった。
誰かがこの汚れ仕事をしているおかげで今の俺たちはある。そこは三人とも一致していた。
たとえ全てに納得できていなくても、俺たちだけがそこから逃げることは、やはり出来なかった。
村へ強奪に行く道中、浮かない顔で歩くリオの隣でレナは少しイキイキしていた。
「なんか嬉しそうだなお前」
「そ、そうか? なんだか、悪いことってちょっと興奮するものだな」
頬を赤て、レナは胸を膨らませた。
村長の言葉を思い出す。
「ここから約5キロほど離れた場所に、三十人程度の人間の村がある。お前達にとっては初めての仕事だから、まずはその程度から始めようかのう。なあに、ちゃんとベテランをつけてやるから心配するな。しっかり見学してちゃんと学ぶと良い」
「クソが。何を学ばせてんだよ」
草むらに唾を吐いて怒りマークを額に浮かべるリオ。
っていうか、
「お前らのどこがベテランなんだよ!」
三人を囲んで歩くのは、ゴブリンとオオカミ、イノシシのような低レベルの魔物。
ゴブリンの一人、ゲールが突っ込んでくる。
「ぁあ? てめえ文句あんのかよ! 俺たちは何度も強奪に成功してる超一流だぞ?。ついて来させるだけでもありがたくおもえ!」
「テメェになにが強奪できるってんだよ! 雑草でも集めてんのか!」
「クソガキがぁああ!」
「もーやめろよリオ。先輩なのは変わらないんだからー」
ナキはあたふたして止める。
そうこう言い争っているうちに、すぐに目的地に着いた。
家も数えるほどしかなく、家畜もニワトリしかいない、本当に貧相な村だった。
「いいか! 見てろ。強奪とはこうやるんだ!」
ゲールがひきつれる数体のゴブリンとオオカミ、猪は一斉に草むらを出て村の敷地内へ入っていった。
まず猪が突進し、柵や畑を荒らし始めた。
「うわ! 猪だ! 捕えろ!」
村人がこぞって猪を注目して追いかける。
その間に狼が匂いで食べ物やめぼしいものを嗅ぎ分け、樽に入っている食べ物や、作物の種子、鶏の卵などをゴブリンが一斉に奪ってきた。
一区切り着くとイノシシも迂回して息を切らして帰ってきた。
「どうだ!」
箱に詰まった作物を持ち上げてみるゲール達。
「どうだじゃねえよ! 情けな! 強奪っつーかただの盗人じゃねえか」
「仕方ねぇだろ! ゴブリン5体じゃ人間見つかったらあぶねぇだろうが!」
「拍子抜けだぜ。魔物のクセに何ビビってんだよ度胸ねぇなぁ」
「なんだこいつまじで。じゃあテメェやってみろよ!」
持っていた荷物を投げ捨てて、ゲール達はブチ切れる。
「やるからにゃなりきるしかねぇよ! おいレナ! 見せてやれ」
「お、おう」
レナは瞳を大きくして、一人村に出て行った。
トボトボとぎこちなく歩いていき、畑の策を弱々しく蹴り倒す。
「お、おらぁ・・・ 魔物だぞ〜 強いぞ〜・・・ えぇっと・・・ なんかよこせこら・・・」
村人の少年が一人レナをじっと見ている。
「ねえ父ちゃんなんか女の子が言ってるよ?」
「ん? なに言ってるか聞こえないな」
「魔物が緊張してんじゃねえ! 何しに行ったんだお前!」
リオは木陰からガミガミと突っ込む。
「お、おら〜。逃げろ〜魔物だぞ〜」
そう言って策を押したり蹴ったりして倒して行ったが、その後ろからナキが倒れた柵を立て直して回っていた。
「テメェはなにやってmんそあlsjdjっfls!」
言葉にならない怒りを放つリオ。
「だって、せっかく村人が作ってる畑を壊しちゃ悪いだろ?」
リオは頭を抱え項垂れた。
「何やってんだよお前ら! 口で言うほど何もできねぇじゃねえか!」
ゲラゲラと笑うゲール達。怒りが込み上げて遂にリオが動く。
あぁーくそ
何やってんだよ俺は
こんな子悪党やんなきゃいけないなんてよ。
もういいや。なるようになれだ。
鋭い眼光と赤黒いオーラを漂わせて、村へユラユラと練り歩く。
看板を派手に殴り飛ばすと、木々や鳥達が一斉に騒めき、太陽を雲が覆い隠す。
「おらああああああああ! 金よこせええええええええ!」
全力で叫んだ声に村人は作業をやめてリオの方をむく。
木の影からゾロゾロとゴブリンや狼が這い出てくると、その危機を声に出して叫び始めた。
「ま、魔物だあああああ! 逃げろおおおお!」
慌てふためく村人が、家の中に次々と転がり戻っていく。泣き喚く子供が一人、置いて行かれていた。
その子供をリオの後ろにゆっくり近づく。
子供は声にならない恐怖に、ただただ硬直した。
「お父さん! カイがいないわ!」
「なんだと! くそ! まさか捕まって・・・」
そんな会話をしていた家庭の民家のドアが激しく吹っ飛び、外にはただならぬオーラを纏う存在の目が鋭く光っていた。
震える人間は言葉を失い、腰を抜かして、侵入してくる存在を見つめた。
「おい・・・」
その魔物は、カイという子供をしっかり抱き抱えていた。
「子供置いて逃げてんじゃねえぞこらあああああ!」
「はいいいいいいえええええええ?」
リオの声に謎の返事をする両親。
「子供が怖がってんだろうが!」
「ええええええ! 怖がらしたのあんただろ!」
リオは子供を家の中で下ろすと、ゆっくり口を開いた。
「この村で一番偉いやつは誰だ」
村人が外に勢揃いし、一番偉いと言う村長が前に出てきた。
「ソンダという者じゃ。お主ら魔物じゃな。何のようじゃ!」
冷や汗を描いてソンダは懸命に話す。
「そうだ。俺らは魔物だ。魔物らしく侵略に来てやった。いろいろよこせ」
「話が出来る魔物など聞いたことないが・・・。しかし、残念じゃがこの村には渡せる物資などもう毛頭ないのじゃ」
「嘘つけ何かしらあんだろう!」
「嘘じゃないんじゃ。見ての通りこの村は恐ろしく貧困でな。王都に貢ぐ作物でもう自分らの食べ物すらないような状況なのじゃ」
「王都に?」
レナが割って入ってくる。
「この国の名前のある村は毎月決まった量の作物やお金を納めなければならない。しかし到底追いつかず、毎月、国を出ていけと叱責されるほどじゃ。お前たちには関係ないことかもしれんがな」
「それは大変そうだ・・・」
ナキは眉をハの字にする。
「頼む! 見逃してくれんか! お主先ほど我が孫、カイを家に連れて行ってくれたそうじゃな! その優しさに免じて、このまま去ってくれ! もう戦う体力も我々には残っておらんのじゃ!」
村人を見渡すと、着るものもボロボロ。手足も顔も泥だらけ。その表情から疲労がうかがえた。
少し考えたあとリオは口を開く。
「知らねーな。俺はこの村を征服する!」
村人と村長は落胆する。
「征服するにあたって、俺たち以外の村と物資のやりとりをすることは許さん」
ソンダは顔をあげる。
「この村で取れた物資と作物の種子。2割! 出来た分から俺たちによこせ!」
「2割!? 2割でいいのか!?」
村人は驚いてざわめく。
「その代わり、このゴブリン、ゲール達を門番に置く。獣に襲われなくなって安全で万々歳だろ?」
「おい! 何勝手なこと・・・」
「だが王都からのお達しはどうすれば・・・」
ゲールの言葉を遮るソンダ。
「うるせぇな! 今日からここは、俺の村だ! 他の奴の言うことなんか聞くな! いいな! 話は終わりだ!」
黙り込む村人。あっけに取られ、口を開けたまま動かない。
「おいリオ。2割は少ないんじゃ・・・」
「どっちにしてもゲール達がもってくる物資とあんま変わんねぇだろ」
「んま、それもそうか」
確かに、これが継続して収穫できればそれなりに・・・
意外と頭がいいのかなリオは。
レナは少し微笑んだ。
「収穫したものはゴブリンに渡して持ってこさせろ。いいか。ズルしてもすぐバレるからな」
「えぇー・・・ ほんとにそれで良い・・・」
「解散!」
ソンダの言葉が言い終わる前に、リオたちはゾロゾロと帰っていった。
村に帰ったリオ達はさっそく村長に報告する。
「なんと。物資を奪ってくるのではなく、征服して、納めてもらうことにしたと。そして勝手にゴブリンを置いてきたのか。なんとも危険な」
村長はあまり喜ばなかった。
「ゲールたちに正面から奪わずに盗みを教えたのは、そもそも存在を知られない為じゃ。見られなければ戦いにもならない。それほど安全なことはないからな」
「でも毎回泥棒家業は効率は悪いのではないですか?」
レナは淡々と言う。
「確かにそうじゃが、人間に魔物の存在を認知されれば、やがて王都まで噂は広がる。ここを突き止められ、攻めいられるぞ。その危険性は考えなかったのか?」
三人は黙る。
「皆が危険な目に会うかもしれないのだぞ。今後そのようなやり方ではなく、しっかりゲールの言うことを聞くのじゃ」
不満げなリオは口を開く。
「つーか思ったんだけど、あんな泥棒じゃ明らかに食料足りないだろ。他にどうやってこの村の食いもん調達してるんだよ」
「だから後はこの村での農作と養殖じゃ」
「ふーん」
リオは不貞腐れてこたえる
レナは思考した。
確かに。強奪物といくら村の自給自足をしたとしても、明らかに足りない・・・ 何か他に秘密が・・・
「でもよー村長」
ナキは柔らかな口調で話す。
「泥棒は、悪いことだぞ?」
「・・・ 村一つ征服した奴らに言われとうない」
村長の言葉を最後に、誰も口を開かなかった。
その後、2週間ほど暇な日が続いた。
罰なのかははっきりとわからないが、強奪班からは外されたのかもしれない。
久しぶりに三人は征服したソンダ村の様子を見に行くと、ゲール達が人間の子供を追い回していた。
「おい何やってんだ!」
リオはゴブリンを追いかける。
「あ、レナさん。こんにちは」
村人の男性一人が話しかける。
「うちの魔物が人間を襲ってますが」
「いえ違うんです。あれ遊んでくれてるんですよ」
「遊んでいる・・・ どう見ても魔物が人間を襲っている絵にしか見えない・・・」
「いえいえ。ほんとゲールさん達には意外とお世話になってるんです。おかげで害獣もこないし、食べ物も割と村人みんなに上げれてて、実は前よりいい暮らしだとか。ゲールさんたちは何言ってるかわからないけど、大体雰囲気で。子供達のほうが言いたいことを理解してあげてるみたいですね。」
「おいおい。俺たちへの納品忘れてないだろうな」
「はい、どうぞ」
渡されたのは箱いっぱいの黄金に光る綺麗なとうもろこしだった。
「こんなにいいのか?」
「ええ。王都への納税がなくなったんで、これくらいはあげられますよ」
前と変わらず泥だらけだが、その村人の顔は以前より明るく見えた。
早速持ち帰ると、給仕係のサハギン達は大いに喜んだ。
「あんたたちやるじゃないか!」
「ミールさん、美味しくできそうかい?」
「当たり前だよ任せな!」
ナキがいうとサハギンのミールは胸を叩いて大きな釜で茹で始める。
その夜のご飯は、コーンスープやコーンを使ったコロッケなどで、新鮮なメニューを村人は喜んで味わった。しかし村長はの眉間のシワは、とれなかったことをレナは見逃さなかった。
夜の食事を終え、ダラダラと屯っていたリオたちのもとに、ゴブリンが全力で走ってきた。
「おいリオ! 大変だ!」
直後、血相を変えてリオ達はソンダ村へ急行する。
(王都の衛兵が攻めてきた! 今ゲール達がなんとか抑えてるが、もう持たない! 急いできてくれ!)
クソ。早速きたか。間に合ってくれ!
そう願いながら猛スピードで森を抜けると、村の明かりが見えてきた。
「待てリオ! 一旦様子を見よう!」
レナはリオの服を引っ張って止める。
衛兵の数は10人ほどであった。しかし新品の鎧や鈍く光る槍先、ブロードソードの刃が、権威を奮っている。
「魔物に侵略されていながら、なぜ助けを呼ばんのだソンダ!」
衛兵の一人がソンダを怒鳴っていた。
「勇者様、これには訳がありまして・・・」
ゲールはその勇者の足元に倒れていた。
「怖くて何も出来なかったのだな? もう大丈夫だ。我々がいま退治してくれようぞ!」
ゲールにトドメの一撃が入る寸前、村の子供が一人立ちはだかる。
「やめて! ゲールは悪くないよ!」
涙を流して子供はゲールにおおいかぶさった。
「カイ! 危ないから下がりなさい!」
「なんだこのガキは! 一体どうなっているんだ! 魔物を庇うなんて・・・」
「注目すべきはそこではないですよ。トーマ」
「ダンデさん」
その男は明らかに周囲の兵とは違う、輝かしいオーラを漂わせていた。
「ソンダさん、この村の納税はいつもギリギリ、または足りない月も多かったですね?。今月分はもう収穫できたのですか?」
「いいえ。実は・・・」
「魔物に襲われていたから、出来なかった。とでも?」
「そ、それは・・・」
ダンデの使い古された装備は、戦いの戦績を物語る。
長く重厚な斧槍を肩に置いている様は、まさに歴戦の勇者そのものであった。
「襲われたにしては、村は平常どうりそうですが? そしてこの子供の様子をみるに、魔物を恐れているどころか、愛着があるようにも見えた」
村の全体を見渡し、ダンデは続ける。
「村も襲われた形跡はない。寧ろ綺麗に手入れされている。ちゃんと時間があった証拠だ」
顔に影をつくり、真顔で詰め寄る。
「正直に答えなさい。どういうつもりですか?」
斧槍を怯える子供に向ける。
「くそ! まずいぞ、もう行こうレナ!」
「待て! あの男、明らかに本物だ。今の私たちではどうもにもたちうちできない」
「関係ねぇ! ゲールはまだ息をしてる! 急いで助けなきゃ。あいつ下手すりゃ人間まで殺りかねないんじゃ・・・」
「いいから待て! ソンダが正直話せば、ここまま終わるかもしれん・・・」
いいから正直に話せソンダ・・・
胸の中で強く念じた。
「この村は魔物に征服されたのじゃ! あの魔物以外と物資のやりとりを禁止された! なので・・・」
「税を納められないと? こんなに村は健常なのに? 何を訳のわからぬことを」
「信じられないのもわかる! じゃが本当なんじゃ! 言葉を話す魔物が・・・」
「言葉を話す魔物? ついにボケたのですかね?」
衛兵たちは、小さく嘲笑う。
「ソンダさん、脱税は、立派な犯罪ですよ」
目を色を変えて、武器を振り上げた。
「国を出ていきなさいと、何度も忠告を受けていましたよね? しかしそれももう叶わぬなら・・・ その罪と共に、消えてしまいなさい!」
「やめろ!」
リオは木陰から叫んでレナを振り払う。
空気を割いて振り下ろした斧槍は、子供ごとゲールを切り裂いた。
その寸前、ゲールは体を捻り、カイを庇うように入れ替わった。
斧槍は子供の腕を切り、そしてゲールの胸に抉り込む。
「馬鹿な・・・ 」
ソンダはカイを引き寄せ抱き抱えた。
「そんな!ゲール! ゲール!」
「外したかね。じゃ次は、あんたも死になさい!」
またもや目に見えない速さで武器を振り下ろす。
ソンダとカイを頭から真っ二つに切りさくかのように思えた。
しかし、ダンデの斧槍はソンダの頭上2センチで停止する。
「おいおい。いい加減にしろよてめぇ」
怒りにみちたオーラを漂わせ、赤く光る瞳が、衛兵たちを静止する。
「あんた、なに?」
なんだ? 今、身体がまったく動かなくなった。あのガキの魔法か?
ダンデは困惑していたが、表面には一才出さなかった。
「仮にもお前、勇者だろ? 人が人を殺すってのか?」
リオはゆっくりと近づいていく。
「レナ! ゲールに治癒魔法を!」
ナキとレナはゲールに駆け寄る。
「私はサードスターブレイブ。ダンデ・オルガ。王都の誉れある星の勇者である。して、あんたは?」
「俺か? 俺はな、お前みたいな地位と名誉のある勇者になりたかった男だ」
「ほう。なれなかったの?」
「ああ。魔物だから」
そう言って髪の毛に隠れた小さな角を見せる。
「ソンダ。あんたが言ってたのってまさかこのガキのこと?」
「そうじゃ・・・」
「ゲール、大丈夫か?」
「リオ・・・何してる逃げろ・・・」
血を吐きながらゲールは言う。
「クソ。すまない。私の魔法ではもう・・・」
「レナもういい・・・ 逃げるんだ・・・」
言葉を捻り出すゲールにリオは歯を噛み締めて、そばに寄った。
「ゲール、俺のせいだ。本当にすまない。誤って済むものじゃないけど・・・」
「ふっ。恨むぜ、リオ。・・・でもな案外、悪くなかったんだ。ここでの門番は。いっつもあったい飯、カイが持ってきてくれて。こんな醜い俺たちを・・・ ちゃんと、ちゃんと人として扱ってくれた・・・ ゴホッ!」
飛びかける意識の中で、ゲールは続けた。
「自分が魔物だって知った時・・・俺も絶望したよ。しかもこんな最弱の。それでもみんな優しかっただろ? だからせめて村のみんなの役に立ちたかった。だからこの仕事も苦しかったけど、続けてきた・・・ でも初めて、心の底からよ・・・ 胸張って仕事できた・・・ 2週間だった・・・」
レナは真剣に話を聞く。
「ありがとな。リオ、・・・カイにもそう、伝えておいてくれな」
ゲールは手を伸ばし、リオの胸ぐらを掴む。
「頼むぜ?・・・ リオ? みんなを・・・頼ぜ?」
ゲールは最後に振り絞った力でそういう告げると、事切れて脱力した。
カイは、ただの一言も声を出さず、雫を頬に伝わせる。
ナキはオークのけたたましい声で叫ぶ。
腰を抜かす衛兵達。
「つくづく、悪魔なんだな俺は」
前髪で目を隠したリオは言葉を落とす。
「雑魚の醜い別れの挨拶は終わったのかな。何言ってるか分かりませんが」
ダンデは嘲るように言う。
その瞬間、揺れる前髪の隙間から赤眼が輝き、その視線がダンデに刺さると、また動きと声を止める。
これだ。また動きを止められた。こいつで間違いない。だがこれは一体なんの・・・
「だがお前らも、俺に劣らない悪魔だな」
リオがゆっくり立ち上がると、ダンデは、上から降りかかる圧力によって地に這いつくばる。
重力魔法か! いや、ならば私が効くはずがない。それにこの心臓を握りつぶされるような感覚は・・・
「俺は勇者に憧れてたんだ。だが今となっちゃ、ならなくて正解だったかもな。 ・・・真実なんか本当、想像を超えるくらい、くだらないもんだな」
レナは心配そうにリオを見つめる。
「あーあ。くだらねぇ。くだらねえな! 村の真実? クソみたいな勇者? 金儲けの国に、貧しい村?」
声のボリュームを徐々に上げていく。
「どいつもこいつも、ああだこうだと! 人間だ!? 魔物だ!? 悪魔だ!? どうだっていいんだそんなこと! みんなただ、幸せになりたかっただけだろ!」
ソンダはリオの怒りの言葉に悔しそうに涙を流す。
「こんな世界ならよ! いっそのこと、全部壊すか! 全部ぶっ壊して、みんなが貧乏になれば世界は平等になるか!」
リオは拳を振りかぶり、そこに力を込めはじめた。そこには大気中から、あらゆるエネルギーをかき集め、膨大な一つの塊を形成し、拳に纏わりついた。
しかし、燃えたぎるような怒りの中でふと、リオはレナの悲しみの中に咲く笑顔と、言葉を思い出した。
絶望した俺の肩を抱いて、泣いてたのに笑ってた。
リオは少し考えて、ゆっくりと問う。
「・・・レナ、あの時言ってくれたよな?」
「なんだ?」
「ずっと一緒だって」
レナは少し頬を赤る。動揺して言葉がでない。
「やってみるか。俺たちで」
真剣な眼差しで前をみるリオ。
「俺は決めたぞ。レナ、ナキ」
レナとナキは驚いて目を丸くする。
「俺は、人間も魔物も、誰もが笑って暮らせる世界を創る! もう誰も、生まれとか金とか、くだらないことで苦しまないでいいように!」
その本気の眼光に、いつも前を向いて、明るく正義感の強かったリオの面影を重ねてみたレナ。
「誰もが、なりたいものに、なれるように!」
追いかけていた男の子の背中越しに見える笑顔。そのまっすぐな温もりを、全身に溢れるように思い出すと、自然と目の奥を熱くした。
「なってやろうじゃねえか、地獄の魔王によ! 世界を征服する、絶対の魔物の王に!」
レナは涙を下瞼にいっぱいに溜め込む
「文句ねえよな? レナ」
リオは微笑んで囁くと、レナはにっこりと笑って涙を流して頷く。
リオは不気味な笑みに切り替えると、ダンデをみて深く構えた。
「と言うわけで大層ご立派な勇者さんよ! 最初に俺にぶっ飛ばされるのはてめぇだ!」
これはまずい! あれに直撃するのはまずい!
身体動け動け動け!
ダンデは心の中で叫ぶも、微動だにできない。
「俺の名を聞いてたな。俺の名は、ベリオルス・シルファーレ。覚えておけ! 世界を統べる、魔王の名だ!」
ダンデのそばにより、右足を力一杯に踏み込む。
「てめぇが殺した魔物と、傷つけた人間の痛みを知れ! 宇宙までぶっ飛べ! このクソ野郎がああああああ!」
全身全霊のフルチャージスマッシュ。
振り抜いた左ストレートは、ダンデの腹部にめり込み、貫通するかのごとく背中を膨らませると、ダンデの身体をくの字に折り曲げた。
莫大に凝縮されたエネルギーがダンデの腹の中で爆発すると同時に、ダンデは目で捉えれないほどの速さで、上空へ飛び、瞬く間に見えなくなった。
レナはダンデが雲を突き破って飛び、キラリと光って消えた夜空をみて、微笑む。
おかえり、リオ
何かが吹っ切れたようなリオの顔は、あの時の夢見る子供のままだった。




