↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鎖牢の英雄  作者: 練錬
4/5

四話 庇護なき盾

「ファルゴルト?」


フリードはその名前を聞いたことが無かった。


「この者は、厳寒の地に成り立つ国に仕えていた兵士です。身の丈程ある大盾と柄の長い斧の穂先に槍が合わさった武器を用いていたと伝わっています」


「斧に槍..ハルバードか」


カテナの手元に数冊の本が現れる。


「ファルゴルト様のいた国は王族の人間、それも限られた女性のみが魔法を使える国でした。歴代でも屈指の魔法の素質を持った王女にファルゴルト様は騎士として仕えていました。」


「その王女はサリスティナ様といい、十三の英雄の一人として喚ばれていましたが、既にルイノス様に討たれています」


「ふむ..そいつはデカい盾とハルバード以外に戦法の情報はあるか?」


カテナは現れた本の中から一つ選び開く。


「魔法が使えないのはファルゴルト様も例外ではなく、喚び降ろした後も使用することはありませんでした。ですがハルバードに仕掛けが施されており、柄の伸縮、斧槍部分の変形、及び射出を駆使していたと記述されています」


「魔法を使った搦手は無いと思っていいってことだな。純粋な殴り合いを楽しめそうだ」


フリードは首を回しながら不敵に笑った。


「ですが用心するに越したことはありません。喚び降ろしの影響で一切使えないとは言い切れませんから」


「まぁそうだな。思ったんだが、俺が死んでも復活するなら何度も挑んで消耗させていけばいつかは絶対に勝てるんじゃないのか?」


何度も殺されるという点に目を瞑れば挑み続ければルイノス相手でも勝てるのでないかとフリードは少し前から考えていた。


「英雄達を封印している空間は、これ以上力を増さないように空間内のものは停滞するようにされています。仮に新たな戦技を編み出したとしても時間が経てば元に戻り、無かったことになります。逆も然り、どれだけ傷を負わせたとしても完全に殺さなければフリード様が死してここに戻り、再度転移させるまでの間に元に戻ってしまいます..空間内を縁深い地に変質させたのは想定外でしたが」


「なるほどな..ちゃんと一回で殺し切らないといけないのか。まぁとりあえずやってみるか。ファルゴルトの所まで飛ばしてくれ」


「その前にこちらをお受け取りください」


カテナの手元が光り、澄み渡った空を思わせる青藍の宝玉が現れた。


「乱心する直前にサリスティナ様を討ったルイノス様は、自らに継承せず私達に託しました」


「それを俺に継承させるのか」


「はい。構いませんか?」


「構わない。やってくれ」


カテナは目を閉じ、詠唱を始めた。宙に浮いた宝玉は光を放ち、徐々に透明になっていく。透けていく宝玉はフリードに向かい、体内に取り込まれていった。


フリードは少し驚くが、身体に違和感は無かった。


「これで何か使えるようになったのか?」


「はい。サリスティナ様の宝玉を通じて補助魔法を使えるようになった筈です。手を出して先程の宝玉を思い浮かべ、自信が治癒される姿を想像してみてください」


言われたようにフリードは左手を出し、青い宝玉を頭に浮かべながら傷が癒える姿をイメージした。すると左手の掌の上に宝玉が現れ、薄い黄緑の光がフリードを包んだ。


「これは..」


「成功しましたね。今は傷が無かったので効果がありませんでしたが、同じ手順通りにすれば傷を癒せます。特定の部位を想像すればその部位のみに治癒を集中させることも出来ます」


「傷を負ったとしてもこれで治せるのか、便利だな」


「ですがフリード様の魔力を消費し、傷が大きければ比例して魔力も消耗するのでご注意ください。例えば腕などを斬り落とされた場合、再生自体は可能ですが膨大な魔力どころか体力すらも消費します。戦闘自体は継続可能ですが魔法は一度死ぬまでは使用できなくなると思った方がいいでしょう」


「治癒魔法にかまけて無闇に攻撃は受けるなってことだな。」


「最後に、ファルゴルト様と戦うにあたっていくつか助言をさせていただきます。まず──」


カテナからのファルゴルトへの対策、及び問答を数分に渡って交わした。


「こんなもんか。じゃあそろそろ飛ばしてくれ」


「ご武運を..転移を始めます」


ルイノスの時と同じように、身体の感覚が薄れていく。


瞳を開けると、横幅は大の大人が十人並んでも足りない程広く両端が見えない程長い大橋にいた。空模様は薄い霧に覆われ、雪が降っており離れた景色は見えそうになかった。


「橋か..」


フリードは辺りを見回しつつ大橋を歩いていると、白銀の鎧を纏った黒い短髪の巨漢の騎士が立っており、身の丈程の鎧と同じ白銀に金の装飾が施された大盾を左手に持っていた。遠くから見るとまるで二つの柱が並んでいるようである。


この騎士がファルゴルトで間違いない。フリードは近付き屹立(きつりつ)するファルゴルトに言葉を掛ける。


「おい、今からお前と闘うつもりなんだが、やる気あるか?」


返事は無い。やはり意思疎通は不可能なようだ。


「やっぱり無理か..そっちが何もしてこないようなら──」


フリードは一瞬にして間合いを詰め、大上段で大剣を振り下ろす。ファルゴルトは盾を構え、斬撃を防ぎ大橋に響いた金属音が火蓋が切られたことを意味した。


剣と盾の押し合いが続き、ファルゴルトが右手に持ったハルバードでフリードの脇腹を貫こうとすると同時に、フリードの剣に熱がこもりだす。


──────────────────────


「フリード様の爆炎は、威力は勿論のこと衝撃にも目を見張るものがあります」


「ファルゴルト様との闘いにおいて近距離で放てばその衝撃は盾ごと仰け反らせ」


「闘いを優位に進められる可能性が高い」


──────────────────────


ファルゴルトが突きを出すよりも先にフリードは剣にこめた爆炎を炸裂させ、爆発を起こした。


盾越しとはいえ至近距離で爆炎を喰らったファルゴルトは構えが崩れ、よろめいた。


(斬撃は通り辛くてもこっち(爆炎)は通るだろ)


生じた隙を見逃さずフリードは爆炎を纏いファルゴルトの右半身目掛けて思い切り斬り上げた。


咄嗟に盾を構えるも全ては防ぎきれず、白銀の鎧が一部黒く焼けた。金属の鎧は衝撃を吸収出来ず反撃に移れそうにない。


(このまま押し切る)


ファルゴルトの首を斬り落とさんと横に構え再度距離を詰めるが、ハルバードの先端に付いた槍が飛んでくる。


フリードは瞬時に躱すが、槍とハルバードは鎖で繋がれており、フリードの右腕にからみつく。


「ぐっ..」


絡みついた鎖を解こうとするも動かず、膠着(こうちゃく)するがファルゴルトがハルバードを横に振りフリードを吹き飛ばした。


───────────────────────


「ファルゴルトのハルバードは変幻自在です。情報に無い機構を駆使することも考えられます」


「間合いを取っても、決して油断しないでください」


───────────────────────


(どんな腕力してんだよ..!)


地面に水平に吹っ飛ぶフリードは剣を突き立て、負傷を最小限に留めるが距離を離されてしまった。


フリードの腕から離れた槍先は火花を散らしつつハルバードに戻り、元の形に戻った。


「変形する武器に鉄壁の盾..」


「面白ぇ..!」


剣を引き抜き、右腕を軽く動かす。


(そこまで痛みは無い。さてどう攻略するかな)


(近距離はあのでけぇ盾を爆炎で無力化出来るのは大きい。飛んでくるハルバードの刃と鎖による拘束が厄介だ)


「なら..」


フリードは剣を左に構え走り出した。ファルゴルトは斧槍の部分ごと射出し、横に振り抜いた。斧槍に当たれば致命傷、内に入っても鎖による拘束と広範囲を制圧する攻撃だった。


真横から飛んでくる斧槍をフリードは剣で受け止め弾いた。そのまま斧槍の根元の鎖を剣に巻き付けた。


ファルゴルトはまたもフリードを投げ飛ばそうとするが、フリードは剣を後ろに構え、爆炎を纏わせ即座に爆発させた。


反動によりフリードは前方に大きく飛び、一瞬にしてファルゴルトの眼前に迫った。


(斬れなくても爆炎で仕留める)


剣に鎖を巻き付けた状態のまま爆炎を纏わせ、もう一度盾ごと叩き斬ろうとする。


これにファルゴルトは鎖を引き戻し短くすることで、剣を振り抜けないようにする。


完全に剣が動かなくなる前にフリードは切っ先をファルゴルトに合わせ、爆炎だけでも浴びせようとする。


ファルゴルトが持っている柄を捻ったかと思うと絡めとった斧槍からがこんと音がした。


(なんだ..?)


音と共に斧部分のみが切り離され落ちる。落ちた斧は根元部分が細くなっており、まるで持ち手のように──


「まさか..!」


思った束の間ファルゴルトは斧の先端を勢いよく踏みつけ、跳ね上がらせた。ファルゴルトは持っていた柄から手を離し足で鎖を踏みつけ固定しつつ、浮いた斧を取りそのままフリードに斬り込んだ。


左肩に斬撃を負い、爆炎を解除してしまう。剣を水平にした影響で鎖も解け、フリードは間合いを取る。


何とか致命傷は免れたものの、傷口からの出血が酷い。


「使うしかねえか..」


左手に宝玉を出現させ、傷を癒した。出血は止まったが闘いによる体力の消耗も癒された訳ではないが、それでも十分だ。


そして、僅かに宝玉を出現させた瞬間ファルゴルトの表情が険しくなったのをフリードは見逃さなかった。


(もしや..)


───────────────────────


「ファルゴルト様とサリスティナ様は生前強い絆で結ばれていました。サリスティナ様を想起させる宝玉を見せれば、何か反応があるかもしれません」


───────────────────────


「グ…う…」


ファルゴルトは呻き、苦しんでいる様子だった。


(生前の記憶を思い出しているのか?宝玉によって隙が生まれるのかもしれないが..)


フリードは宝玉を消し、啖呵を切った。


「目の前の敵に集中しろ!」


ファルゴルトは我に返った様子で、驚きながらもフリードを見ていた。


「折角凄ぇ奴らとやり合えるんだ。そんな勝ち方面白くねぇだろ」


平静を取り戻したファルゴルトは盾とハルバードを構え直し、フリードと向き合った。ファルゴルトの口が綻んだように見えたのは、気のせいなのか。


お互いに様子を窺っていると、ファルゴルトが盾の内で何かをしている。


フリードは訝しんでいると、ファルゴルトは盾を振りかぶろうとしていた。


次の瞬間、盾がフリード目掛けて凄まじい勢いで飛んできた。盾の持ち手と鎖を繋ぎ、盾すら攻撃手段としてきたのだ。


(この速度であの盾を喰らったらやべぇ..!)


鋼鉄の塊が遠心力を付けて飛んでくるのだ。喰らえば死ぬ。


力を正面から受けずいなすように剣で弾き、間合いを詰める。


盾による猛攻をぎりぎりで凌ぎ、飛んできた盾を斬り伏せ、地面に落とした。


「喰らえよ」


フリードは伸びた鎖を掴み、勢いをつけ盾を投げ返した。


ファルゴルドは躱し、真後ろに盾が刺さる。


避けた隙にフリードは距離を詰め、斬り掛かる。ファルゴルトは切り離していた斧で鍔迫り合いに応じるが、小ぶりな剣程度の大きさしかないためフリードの大剣とはせめぎ合うには分が悪く、押されていた。


しかし背中には盾が刺さっており、これを足蹴にしその勢いで押し返そうとしていた。


「本命は力比べじゃないんだよ」


ファルゴルトは気にも留めていなかった。後ろの盾が僅かに熱を帯びていたことに。


盾が赤みを帯び、爆ぜた。フリードは盾を投げる直前、鎖を伝って盾に普段ならしない、武器が自壊する程の爆炎を込めていたのだ。


盾とフリードの剣による正面からの爆炎を喰らい、盾共々ファルゴルトの鎧が砕けた。


「終わったな..流石に自分の魔法とはいえ、あの威力は応えるな..」


ほぼ自爆ともいえる攻撃にフリードもぼろぼろになりながらも、倒れたファルゴルトの元に向かった。


「..い..せん..」


「ん?」


よく聞くと言葉を発していた。


「お守りできず..申し訳ありません..」


「記憶が戻っているのか?」


「ですが貴女と..再会できて私は嬉しかった..」


「おい、聞こえるか?」


こちらの声が届いている様子は無い


「あぁ..もう一度..」


ファルゴルトが空に向かって手を伸ばすと、光に包まれ粒子のようになって消えた。


フリードは暫く沈黙し、大盾の欠片を拾った。


「..じゃあな」


フリードの目の前に細い光の柱が現れた。


「闘いに勝つことができたらのなら目印を出すのでそれに触れて帰還してくださいって言ってたな」


光に手を触れていると、転移の時のように身体の感覚が薄くなっていった。


気が付くと書庫に戻っており、カテナが待っていた。


「おかえりなさい。ファルゴルト様の繋がりが絶たれたのを感じました。勝利、おめでとうございます」


「ああ。面白い奴だったな。これしか持って帰られなかったが、いいか?」


フリードは大盾の欠片をカテナに見せた。転移される前、勝った時は持っている武器か象徴となる物を持って帰って欲しいと言われていた。


「大丈夫です。少しでも残っていればそこから継承を行えます」


「なら良かった。しかし..中々疲れたな。少し休憩がしたい」


「ええ。時間はありますのでごゆっくり休んでください。そしてこの勝ちを噛み締めましょう」


「休憩ついでにどんな戦いだったか話そう。まずあいつは──」


長い戦いの、束の間の歓談だった。


───────────────────────


真忠(しんちゅう)の大盾

対峙した者に聳(そび)える壁と思わせる程の大盾。主を失って尚、盾を地面に突き立て構えれば不撓の防御となる。

ファルゴルトは王女サリスティナに仕え、いかなる苦境をも跳ね除けた。

ファルゴルトは告げた。貴女と共に歩み、この身さえ盾としましょう。国や立場などではない、純然たる誓いだった。

だが、忘れてはいけない。盾が最も守れるのはそれを構える者のみである。


青白の玉楼(ぎょくろう)

濁りのない空色の宝玉。その色は霧と雪に覆われた国に生まれたサリスティナの憧憬の色だろうか。

宝玉を通じて治癒の他、身体能力を向上させる魔法を扱える。

ある騎士に守られるだけでなく、傍らに立つ為にサリスティナは魔術を練り上げ続け、それは叶った。

けれども、二人は分かたれた。

理を外れようとも人を蘇えらせる術を求め、更ける夜に国を発った。

再会は、叶ったのだろうか。


───────────────────────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。