五話 兇弾、世を穿つ
「さて、そろそろ次のことを考えるか」
雑談に区切りが付き、フリードは持ち帰った大盾の欠片を見つめながら切り出した。
「そうですね。継承を始めましょうか」
カテナはフリードから欠片を受け取り、詠唱を開始する。欠片は宙に浮き、青白く光りだした。大きな粒子のようになった欠片はフリードの身体に入り込み継承が完了した。
これで二度目の継承になるがこの感覚はやはり奇妙で、ずっと昔からその武器を使っていたように自然と扱い方が分かってくる。
「これであいつの盾が使えるようになった訳か」
「初めて目覚められた際にお話した修練場で一度試されてみますか?」
今でこそ英雄達を縛っている水晶だが元々は兵達の訓練の為に幻影を作り出すための物と言っていたことを思い出す。
「そうだな。修練場はそのデカい扉の向こうにあるんだったか」
一際大きい扉に視線を合わせながらカテナに確認する。
「はい。早速向かいましょう」
二人は扉の前に立つと、カテナは扉に片手をかざしながら詠唱をする。すると扉に円陣が現れ、重々しい音を立てながら扉が開いた。華奢なカテナがどう開けるのかと思っていたが、なるほど魔法を使うのかとフリードは感心していた。
扉の先は四角形上の大きな部屋で、部屋の所々には木製の案山子のようなものが置かれていた。恐らくはこれに打ち込むことで戦技を磨いていたのだろう。
天井は一部窓になっており、窓からは漆黒のような空に無数の煌めく光が一同に同じ方向に流れていた。様相は夜空を思わせるが、ここは現世のどこでもない世界の筈だ。
「あれは..」
窓から覗く景色に思わず口に出したフリードの疑問にカテナは答える。
「あの光は星ではなく、人の魂。魂たちは転生するために皆同じ場所へ向かっているのです」
「なるほどな..まぁいい、とりあえず試してみるか 」
宝玉を出した時のように盾を頭に思い浮かべる。すると左手にファルゴルトが持っていたあの巨大な盾が現れる。見た目に違わず盾はかなり重く、機動力は損なわれるが鉄壁といっていいだろう。
フリードは盾を地面に突き立て構えてみる。爆炎という相性からそこまで気にならなかったが、敵対する者からすれば盾で全てを防ぎ変幻自在の武器で迫られるのは脅威以外の何物でもない。全身に鎧を着込んだ上でこの盾を持っていたというのだからファルゴルトの膂力に驚かされる。
フリードは実戦を想定してみるが、盾を常時出しておくのは機動力に加えて体力も消耗する。よって状況を見極め要所で出現させるのが最良だろう。幸い思い浮かべてから出現させるまでの間もほとんど無い。
一通りの確認を済ませ、水晶の元に戻るとカテナは再び羊皮紙を浮かばせ二人は目を向ける。
「次の相手はこちらがいいでしょう。名はセルト」
「セルト..どういう奴なんだ?」
「セルトは国や誰かに使える兵でもなければ、それらを統べる者でもありません。銃という武器のみで一人放浪する傭兵でした」
「銃?」
聞き覚えのない武器の名前だった。
「弓矢を小型化し、容易に発射をすることを可能にした機構です。技師としての顔を持つセルトの持つ銃は特別で、規格外の連射力を備えていたと言われています」
「遠距離から一方的にやられないためにも盾の出番て訳だ。しかしそんな傭兵が英雄として記録に残ってるのか?」
「セルトの銃の腕は凄まじく、遥か遠方から雑踏の中の標的のみを貫いたという伝えもある程です。いつどこから来るかもわからず穴を空けるかの如く最小限で対象を仕留める姿から、いつしか来禍のセルトと異名が付きました」
「ただある要人を殺す以前の暗殺の記録は然程残って無く、持ち前の技術で困っている人々を助け、銃を抜く時は同じく銃を使う者との決闘のみという記述もあり、考証の余地の多い人物です」
「都合の悪い奴らが歴史を書き換えた可能性もあるんだな。セルトは戦いにおいて銃しか使わないのか?」
「まず銃は喚び降ろしの影響で撃ち出す弾丸が尽きることは無いでしょう。その他に様々な機構を用いた武器を使ってきます。例えば..」
カテナから情報を聞き、それを元に対策を考える。意見を交わしながらの作戦会議を終えいよいよ転移を始める。
「では、ご武運を」
「あぁ」
短いながらも込められた想いを受け取りフリードは転移された。
目を開けるとそこは、見渡す限り一面荒野だった。乾いた風が肌を伝い、まるで本当にこの地にいるかのように感じた。建物は幾つかあるが、人気はやはり無い。
歩いていると、建物の陰から男が現れた。茶髪に黄色が混じった髪に顎に髭を生やした軽装の男だった。手に持っているのはカテナの説明の通り銃だろう。
フリードは歩みを止め、緊張が走る。盾をいつでも出せるように準備しつつ、相手の挙動を見逃すまいと捕え続ける。
僅かに踏み出した瞬間、爆発したような音が鳴りフリードは殆ど反射で盾を出した。盾で防いだ弾丸が地面に落ちるが、軌道はこちらの頭部を精確に狙っていた。構えていない状態でこの精確さというのだから技量の高さが伺い知れる。
「危ねぇ..!」
盾を構えたまま前進し、距離を詰める。セルトは押し返さんとばかりに盾に撃ち込み続けるがフリードは止まらない。
(そのくらいじゃこの盾は砕けねえよ)
盾を壊すことは不可能と悟ったセルトは銃撃を止め銃を降ろした。銃を持っていない反対の手には黒い球状の玉のようなものが数個握られており、それをフリードに投げた。宙を舞った玉はフリードの近くで次々に爆ぜた。
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「セルトが持つ武器の一つに爆弾と呼ばれる物があります。これは球状の小型の武器で栓を抜け爆発を起こします」
「言うなれば貴方の爆炎を機構で作り出した物です」
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爆発の衝撃と熱は盾越しでも凄まじく、仰け反りそうになるが盾をより強く地面に突き刺し耐える。
(話には聞いていたがこれ程とはな..中々厄介だ)
爆発により砂煙が巻き起こり、辺りが見えなくなる。収まった所で盾から周囲を覗くがセルトの姿が消えていた。
(最初からこれが狙いか。どれかの建物に隠れてこっちを撃ってくるつもりだな)
先程の発砲音や爆発から一転して静寂が荒野を包み、フリードは複数ある建物を見渡す。
(こっちを一撃で仕留めるつもりなら..咄嗟に対応できない)
再び火薬が弾ける音。
(右手側の側面を狙ってくる!)
読みが当たり弾丸は盾によって受け止められたが、少しでも判断が遅れていれば間違いなく死んでいただろう。
「逃がさねぇ!」
盾を消し即座にセルトがいる建物に大剣で頭部と心臓を隠すようにしつつ走り込む。建物の中は元々酒場のようで、机と椅子と、奥のカウンターの棚には酒瓶が並んでいた。
セルトの姿は見えないが確実にこの中にいる筈だ。カウンターに向かおうとすると、銃口とセルトの半身が現れ瞬時にこちらを撃った。
フリードは身を躱しセルトに一気に近付く。セルトの左手には小型のナイフを持っており、接近戦に対応する。紙一重でフリードの大剣を避け、的確に腕の靭帯や喉を狙う。フリードもナイフによる反撃を捌くが、密着されると小回りの効くナイフには分が悪い上、建物の倒壊を考慮し爆炎も使えない。
フリードはセルトに蹴りを入れ、こちらの大剣は届き、向こうのナイフは届かない間合いを作ろうとする。蹴られたセルトは後ろに跳んだと同時に数発の弾を撃った。フリードは後ろにあった机を立て盾にし、打たれ続ける中机を思い切りセルトに向かって蹴り飛ばした。
セルトは飛んで来る机を掴み高飛びのように机を飛び越え、そのまま空中で連射した。フリードは出現させた盾で凌ぐが、やはり距離を離す訳にはいかない。
(離れれば銃、近接はナイフ..このままじゃ埒が明かねぇ。倒壊するだろうから使わないでいたが一か八かだ)
大剣に爆炎を込め、斬り上げようとするが右手に何かが突き刺さるような感覚に襲われ剣筋がぶれる。大剣はセルトを捕えることが出来ず、爆炎によって酒場は激しい音と共に倒壊した。瓦礫と盾で身を隠しながら自身の右手を見ると、セルトが持っていたナイフの刀身が刺さっていた。
(ナイフの刀身を射出出来たのか..情報に無かったな。そもそも動きを止めるなら銃じゃなくてナイフなんだ?)
刀身を引き抜きつつ、考えを巡らす。
(クソッ..向こうの思うツボだな..この状況をどう打開する?まずはこの傷を治さねぇと)
(いや..やってみるか)
フリードは宝玉を出したが傷を治さないまま立ち上がり、セルトを探す。やはりまたどこかの建物に隠れているようだ。フリードは大剣を地面に突き刺し、爆炎を発動させる。大剣を起点に地面から爆風が起こり、大規模な砂煙が上がった。
「これで狙えねぇだろ。あとは──」
フリードは他の建物を飛び越えるほどの途轍も無い跳躍で上空に浮かんだ。サリスティナの宝玉のもう一つ能力、身体能力の向上によるものだ。フリードは空中で盾を出し、近くの建物を盾と共に落下し押し潰した。
「出てくるまで壊してやるよ」
同様の手段で次々に建物を壊していると、セルトが未だ壊れていない建物から出てきた。
向上した脚力で一瞬でセルトを間合いに収める。セルトは爆弾をばら撒くが、爆弾を一閃で全て真っ二つにした。退がり銃による連射を浴びせるが、フリードは盾で防ぐ。防がれたとしても動けなくする為だろう。
「8、9、10、11、12..読みが正しければ」
フリードは盾を消し、懐に潜り込む。
(連射が途切れる間隔が毎回同じだった。恐く12発毎に魔力で弾を生成してるんだろ。だからあの時も銃じゃなくてナイフを飛ばした)
右手から流れる血液をセルトに向かってかける。血液は空中で光を発していた。
(やったことは無かったが俺の魔法は触れた物に爆炎を纏わせる。ならば体外に出た血液も例外じゃねぇ)
血液が爆ぜようとした瞬間にフリードはある物を投げた。
「ダメ押しだ」
それは酒場にあった酒瓶だった。爆発に巻き込まれたことにより瓶が割れ、中の酒に引火し一層強く爆ぜた。爆発を喰らったセルトはよろけ、すかさず銃を構えようとするが引き金を引くより前にフリードが大剣でセルトの胸を突き刺した。
セルトの手から銃が落ち、決着が付いた。フリードは剣を引き抜き、力無く崩れるセルトを横たわらせる。
「見事..」
一言と銃を残しセルトは光と消えていったが、しかしフリードは知っている。例え一言だけであろうと戦士が最期に遺す言葉の重さを。
書庫に戻り、戦果をカテナに報告する。
「お疲れ様でした。ひとまずはごゆっくり休んでください」
「あぁ、そうするよ。今回も無茶をしたな..」
フリードは右手の甲をさすりながら今回の戦いに思いを馳せた。
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燻銀の兇弾
銃身が燻された銀の銃。弾もまた特別であり、見極めて撃てば相手の動きを確実に止められるだろう。
セルトはこの銃で道を拓き、自他共に導いていた。
己の力を自覚した彼は自らに戒を刻んだ。
肝心なのは、撃つべき時を見極める事である。
決闘に魅入られたセルトは、この言葉を何としていたか。
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