三話 再戦
──稀なる才を持ったルイノスは、隣国の侵攻を跳ね除け英雄となった。民たちは仰いだ。国に降りかかる火の粉を払い、尚も研鑽を続けた姿は明日を示す曙光と──
如何にも王らしい格好になったこと以外はあのルイノスだった。ルイノスから言葉は発せられることはなく、意思の疎通は出来そうにない。
封印される直前に誰かが自分を討ってくれるようにと自身の剣をカテナ達に託したからか、手には何も持っていない。フリードは臨戦態勢を取りつつ思索する。
まず警戒すべきは魔術。あの時の戦いでは風魔法を主に使っていたが、見せていなかったものないしその後に会得した魔法がまずあると思っていい。
近距離は剣術で、中遠距離を風魔法でカバーしていたが、剣が無い以上魔術のみで応戦してくる可能性が高い。転移の魔法は召喚の影響で変質していることを含めると、実は剣を使えるということも有り得る。
「どう出る?」
手の内が分からないならこちらから暴けば良い。ルイノスの胸部へ向けて一直線で突きを放つ。しかし人体を貫いた感覚はなく、鋭い金属音が響いた。
ルイノスの手には淡く光が脈打つ剣が握られており、刀身でフリードの突きを防いでいた。
「まあ使えるよな」
転移魔法の応用かはわからないが剣を使ってくることは予想通りだった。
フリードは怯まず切り込み続けるが、ルイノスもこれを捌き続ける。鍔迫り合いになり押し込もうとするが突風がフリードを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたフリードは受身を取る。突風は風魔法で間違い無い。見立ての通り魔法も使える。生前の戦術は一通り使えることを確認し、フリードも剣に爆炎を纏いつつ再度踏み込もうとする。
だが次の瞬間、ルイノスは自身の周囲に数十本の剣を出現させた。宙に浮く剣は切っ先をフリードに定め、高速で襲いかかった。
フリードは咄嗟に飛んできた剣を弾くが、全てを捌くことは出来ず避けようとするも避けきれず腕に傷を負ってしまう。
「っ..成程な」やはり転移魔法を戦術に組み込んできた。剣の本数からみて魔力の消耗が激しいという欠点も何らかの方法でクリアしているのだろう。
弾いた剣は地面に落ち、粒子のように消えた。詠唱等の工程を踏まず簡易で転移させた物質は一定の時間が経つと崩壊するのは変わっていないらしい。
傷は浅いが、遠距離から無尽蔵に剣を飛ばされ続けられるのなら為す術も無い。やはり距離を詰める他に無く、ルイノスの懐に潜り込むべく踏み込もうとするが、ルイノスの握っている武器が剣から槍に変わっている。
槍を逆手に持ち替えたかと思うと、フリードの足元に目掛け凄まじい勢いで投擲した。フリードは咄嗟に横に軽く跳び、さっきまでフリードがいた場所に槍が突き刺さる。
(魔法で武器を出し入れしてるのか?まだ他にも持ってそうだな)
槍を横目にフリードが走り出す。自らの魔法を剣に纏わせつつフリードに斬り掛かるが、ルイノスが手から出現させていたのは斧だった。
フリードが間合いに入るよりも先にルイノスが斧を振り下ろし、地面に叩きつける。次の瞬間叩きつけた地面が隆起し、巨大な岩のようにせり立った。
ルイノスを守る岩壁に思わず後ろに下がるが、すぐに持ち直し爆炎と共に剣を岩壁に向かって振り抜く。
壁があるなら砕けば良い。フリードにとってこういった力業は得意であり、迷いなく岩壁を粉々にした。隔てるものがなくなりルイノスの姿が見えるが、既に剣に持ち替えており、前にかざした反対の手には紫色の円陣のようなものが浮かんでいた。
不審に思ったのも束の間、背後から閃光が走り、雷がフリードを貫いた。
「ガっ..ァ」
咄嗟にフリードは背後を見ると、突き刺さっていた槍が雷を纏っており、ルイノスの手元と同じ円陣が浮かんでいた。恐らくは術者と指定した対象物の直線上に雷を発生させる魔法なのだろう。
雷撃をまともに喰らい、フリードはよろめく。腹部から出血しているもののまだ動ける。剣を肩に担ぎ、呼吸を整える。
じりじりと間合いを縮めて行く中で、ルイノスの剣が最初に出現させた剣とは異なることに気付く。
刀身は長く細く反っており、唾は丸い。見たこともない様式の剣だが、光を反射し輝く刃からは鋭さを窺わせる。
遠間からルイノスが剣を構え、逆袈裟に一振りする。すると刃から斬撃が青白く形を成して飛んだ。
フリードは殆ど勘だったが大剣を盾にして防ぎ、致命傷を逃れた。
「お返しだ」
ルイノスが再び斬撃を繰り出す前に意趣返しとばかりに大剣をルイノス目掛け投げ飛ばす。ルイノスも構えを中断し避け、大剣が地面に刺さる。
投げ飛ばしたと同時に走り出していたフリードは一気に距離を詰め、刺さった大剣を握り切先にのみ爆炎を集中させる。
地面に刺さったまま爆炎を発動させ、地面もろとも爆発する。爆風と瓦礫が混じり合い、周囲に煙が立ち込める。
(あの細い剣ならこっちの攻撃を受けようとすれば折れるはずだ。戦いにおいて手札は多いほど良いが多いが故に本人を迷わせる。煙で目をくらませこっちの動きを見せず、武器の切り替えの判断を遅らせる)
大剣を引き抜き、ルイノスがいた周辺を爆炎と共に薙ぎ払う。しかし、手応えが妙だった。何かを斬ったというよりは途中で剣が重くなり止まったような───
煙が晴れ、ルイノスの姿が見える。確かに剣の軌道上にはルイノスがいる。だがフリードの大剣には異様な物が纏わりついており、ルイノスに届いていない。
目を見開いたフリードが目にしたのは、球状に浮いた水だった。この大剣を覆う程の水球が爆風を打ち消し、勢いを殺していた。
(水の魔法で止めたのか..!水だけで俺の剣を止められるとは思えない、ただ水を発生させる浮かせてるだけじゃなく水自体にも何かあるな)
水球から大剣を引き抜こうとした瞬間、水球が白化し瞬時に凍りついた。想定外の事だが大剣に爆炎を込め、再度引き抜こうとするが、ルイノスはその隙を見逃さず大剣を手にしているフリードの右腕を一閃で斬り落とした。
ルイノスは刃を返し、踏み込んでフリードに斬り掛かるが、上半身を反らし紙一重で躱した。
(右腕を失った以上、時間は掛けられない..武器を取り返さなければ)
斬撃を飛ばすには恐らく構えて僅かに溜めを作る必要がある。さっきの距離で出してこなかったのがその証拠だろう。ならばルイノスの斬撃の間合いに一瞬だけ入り剣を振らせた所を避け、その隙に大剣を取り返す。
フリードは魔力を込めた左腕を突き出しながらルイノスの間合いに入る。ルイノスは風切り音と共に剣を横に振るが、見越していたフリードは踵に力を入れ小さく後退し、左腕の炎魔法を放出する。
射程を犠牲に威力を上げた炎はルイノスに反撃しつつ、熱によりその近くの凍り付いた水球が溶けだした。フリードはすかさず大剣の柄を握り氷を砕き引き抜いた。
(最小限で息の根を止める)
息つく暇も与えずルイノスの首に目掛け大剣を薙ぐ。
激しい衝突音がしたかと思うと、ルイノスの左手にはもう一本の剣が握られておりフリードの大剣を防いでいた。
「ッ..!」
鍔迫り合いのまま押し切ろうとするフリードだが、二人を囲うように五本の剣が出現し地面に突き刺さる。剣と剣を結ぶように、さながら魔法陣のように紋様が地面に浮かび上がった。
魔法陣は光を放ちだし、危険を察知したフリードはその場を離れようとするがルイノスは自らの剣を凍らせ、伝うようにフリードの大剣と腕を凍結させた。
爆炎で溶かそうとするも魔法陣が一層輝きだし、陣の内部に円柱と言える程の光が溢れ出した。フリードは全身の内側からとてつもない衝撃を受け堪らず声を上げ意識を手放した。
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目を覚ますと、あの書庫にいた。
「お帰りなさい。大丈夫ですか?」
カテナの声だった。あの光に呑まれた後の記憶は無いが恐らく死んだのだろう。身体に痛みが残っていないのが逆に奇妙なくらいだ。斬られた腕も戻っている。
「あぁ..ここに戻って来たということは死んだのか」微睡みから覚めたような、振れる感覚を合わせつつもフリードは冷静だった。
「はい。このようにフリード様は死してもここに帰ってきてしまうのです」
「まさかまたアイツに敗けるとはな..あそこに飛ばされる前に何か言いかけていたが、何だったんだ?」
ルイノスと戦う前、カテナの説明を遮ったことを思い出す。それはとカテナは話し始める。
「ルイノス様は、封印されている英雄達の中でも最も強い」
「ルイノス様は生前からあらゆる武に長けていましたが、喚び降ろした際にある特異性が備わっていました」
「それは斃した相手の武術や能力を自分のものにするというもの」
「一番強い..納得の強さだったな。見たこともない技ばかり使っていたが、取り込んだ技だったのか」
「はい。貴方と闘った中で使われた技はルイノス様が斃した英雄の武器や魔法であり、私達はそれを継承と呼んでいました。継承した戦技を組み合わせ、生来の転移の魔法と無尽蔵の魔力を得て比類なき豪傑へと至りました」
ルイノスの力は圧倒的だった。多少は鍛錬と召喚の影響により強くはなっているだろうがある程度通用はするだろうと踏んでいたが、手札の数はこちらを遥かに上回り、間合いは遠中近距離全てを網羅していた。悔しいがどう足掻いても太刀打ちなぞ叶わないのが現状だ。
「英雄にとって己の武器とは肢体に等しく、喚び降ろす者の想見に基づいて武器は再現されます。そしてフリード様はルイノス様の剣と融合した貴方の大剣を通じて、継承する力を持っている可能性が高いのです」
「つまり、他の英雄達の力を取り込めばルイノスを殺せるかもしれないと?」
「はい。フリード様が斃さなければならない英雄達はこちらになります」
カテナは片手を前に出すと、詠唱と共に一枚の羊皮紙が現れた。浮いている羊皮紙にはいくつかの名前が書かれている。
同時に数冊の本も現れ、その内一冊がカテナの目の前に移動しぱらぱらとページがめくれカテナが目を通す。
「今フリード様が戦うべき英雄は..」カテナはめくれるページを止め、顔を上げる。
「悉庇ファルゴルト」




