最終話 最後のノイズ
遺族の方への涙の謝罪を経て、僕たちは本当の意味で自分たちの犯した過ちと向き合うことができた。
後日、僕たちは遺族の方の立ち会いのもと、琴音ちゃんの手首にずっと結ばれていたあのミサンガをハサミで切り離し、お寺できちんとお祓いをしてもらった。
そして、もう一度だけ昼間の山鳴トンネルを訪れ、小さなお地蔵様の前に綺麗なお水と真新しいお花を供え、心からの謝罪と哀悼の祈りを捧げた。
――それからの日々は、驚くほど穏やかだった。
お祓いを終えたその日から、琴音ちゃんを何ヶ月も苦しめていた原因不明の左耳の難聴は、嘘のようにすっきりと治った。
奏多の右耳の凄まじい傷も順調に回復へと向かい、医師からは「これなら少し時間はかかるけれど、聴力も元通りにまで回復するだろう」と奇跡的な診断が下された。
僕たちは、あのオカルトチャンネルの過去の動画をすべて削除し、遊び半分で他人の死に場所を冒涜するような配信活動からは完全に引退した。
「俺、これからは真面目に大学行って、ちゃんと就活するわ。人が生きて、死んでいく場所の重みを、今回のことで嫌っていうほど知ったからさ……」
包帯の取れた右耳を恥ずかしそうに掻きながら、奏多が前を向いて笑う。
「私も、これからは誰かを傷つけるオカルトじゃなくて、聴いてくれた人が心の底から元気に、笑顔になれるような、そんな純粋な音楽を届けていきたいな」
琴音ちゃんも、何もつけなくなった綺麗な手首を弾ませて、未来への輝かしい夢を語っていた。
二人はもう、あの暗いトンネルの呪縛から完全に解き放たれ、自分たちの新しい目標に向かって真っ直ぐに歩き始めている。
人間の犯した過ちを認め、遺族と和解し、心から反省した。だからこそ、呪いは綺麗に解けたのだ。
本当に、本当に良かった。
これからは僕たち三人で、普通の大学生と高校生として、明るい将来を生きていくんだ。
夜、自分の部屋で一人、パソコンの前に座りながら、僕はこれからの新しい日々に思いを馳せて心の底から安堵のため息を漏らした。部屋を飾っていた誕生日のバルーンや輪飾りはすべて片付けられ、いつもの静かで殺風景なワンルームに戻っている。
エアコンの送風の音が、静かに響く部屋。
ふと、人より少し耳が良い僕の鼓膜を、 エアコンのファンの音とは違う、かすかな、『ジ……』という雑音が叩いた。
――え?
数週間前、ヘッドホンの中で聞いた、あの不快なノイズ。
いや、気のせいだ。お祓いは終わった。ミサンガも切ったし、遺族の人とも和解して、二人の耳の呪いは完全に消え去ったはずじゃないか。
冷や汗が、背筋をダラリと伝い落ちる。
ノイズは、僕の『左耳』の奥で、どんどんその音量を増していく。
――ジ……、ジジ……、ジ……。
違う。お祓いをして、呪いが解けたのは、ミサンガをつけていた『琴音ちゃん』と、トンネルの中で耳を破壊された『奏多』の二人だけだ。
じゃあ、最初からミサンガもつけていなくて、怪異のバチも当たらず、人より遥かに耳が良いという理由だけで、あのトンネルの底に渦巻いていた子供の怨念の声を、誰よりも深く、誰よりも正確に『聞き届けてしまった』僕は――?
急激に部屋の温度が下がり、世界の音がすべて遠ざかっていく。
完全な静寂に包まれた、僕の『右耳』の真横。
誰もいないはずの暗闇から、冷たい小さな唇が僕の鼓膜にぴったりと触れるような生々しい感覚と共に、あの抑揚のない子供の声が、くっきりと鼓膜の奥で弾けた。
――お み み ち ょ う だ い――




