第九話「父の言葉」
父が、絵を見た。
ハルヴィオが、直接父に見せに来たのだった。
父は、絵の前に立った。
長い間、黙っていた。
「娘の絵か」とやがて言った。
「そうです」とハルヴィオは言った。
「こんな顔をしていたのか、ミーナは」と父は言った。
「そう見えました」とハルヴィオは言った。
父は、また黙った。
それからハルヴィオを見た。
「仕事は、何ができますか」と言った。
「絵を描くことだけです」とハルヴィオは言った。「他には何もできません」
「正直ですね」と父は言った。
「嘘をついても、仕方がないので」とハルヴィオは言った。
「腕は」
「自分では分かりません」とハルヴィオは言った。「しかし、描くことは続けます。死ぬまで続けます」
父は、また絵を見た。
「縁談の相手には、断りを入れます」と父は言った。
ミーナは、父を見た。
「父上」
「この絵を描ける者が、娘を粗末にするとは思えません」と父は言った。「それだけです」
ハルヴィオは、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」と言った。
「礼はいい」と父は言った。「ただし、ミーナを不幸にすれば、承知しません」
「承知しました」とハルヴィオは言った。
父は、部屋を出た。
二人が残った。
「父上が」とミーナは言った。
「絵が、説得してくれました」とハルヴィオは言った。
「あなたが説得したんですよ」とミーナは言った。
「絵師は、絵で話します」とハルヴィオは言った。「それしかできないので」
(第九話 了)




