夜明けの絵師――フィレンツェの恋
第六話「嫉妬」
問題が起きた。
ミーナの父が、絵師が娘を描いていることを知った。
怒った。
「絵師風情に、娘の顔を描かせるとはどういうことだ」と言った。
ミーナは、父に説明した。
「腕のいい絵師です。広場の絵を見てください。素晴らしい絵です」
「絵が上手くても、身分がない」と父は言った。
「絵師に身分を求めるんですか」
「求める」と父は言った。「お前にはすでに、縁談がある」
ミーナは、その言葉を聞いた。
縁談のことは、知っていた。
父の同業者の息子だった。
悪い人ではなかった。
しかし、広場の光の話をする人ではなかった。
その夜、ハルヴィオに話した。
「縁談があります」と言った。
ハルヴィオは、筆を持ったまま聞いていた。
「そうですか」とやがて言った。
「あなたには、関係のない話ですが」とミーナは言った。
「関係ないかもしれません」とハルヴィオは言った。「しかし」
「しかし?」
「関係なくはない気がします」とハルヴィオは言った。「独り言ですが」
ミーナは、ハルヴィオを見た。
「絵は、いつできますか」と言った。
「もう少しです」とハルヴィオは言った。
「できる前に、縁談が決まるかもしれません」
「急いで描きます」とハルヴィオは言った。
「急がなくていいです」とミーナは言った。「急いで描いた絵は、あなたらしくないでしょうから」
(第六話 了)




